わたしもあなたもたった“8つの要素”でできている。そして人間の選択や行動はすべて無意識によって決定される。脳科学や心理学の最新知見を使って解き明かした、この恐るべき「スピリチュアル理論」で、今度はあなた自身が「人生は変えられる」と気づく番だ——。 話題の新刊『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(橘玲著、幻冬舎)から、試し読みをお届けします。
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「楽観的/悲観的」のもうひとつのステレオタイプが、「女は神経質」だ。心理学の本でも、「神経症傾向には性差があり、女性は男性に比べてスコアが高い」と書いてある。
国や文化にかかわらず、女のうつ病罹患率は男の約2倍だ。うつ病が神経症傾向の極端なケースだとするならば、このちがいはパーソナリティの性差でうまく説明できる。「女は怖がりで神経質だから、うつ病になりやすい」のだ。
だがよく考えてみると、あなたのまわりにも「楽観的な女性」や「神経質な男性」はたくさんいるはずだ。「男は楽観的」と決めつけられ、納得できないものを感じる男性も多いのではないだろうか。それとも、これはたんなる勘違いなのだろうか。
じつはもうひとつ興味深いデータがあって、国や文化にかかわらず、男の自殺率は女の約2倍なのだ。
一般に、うつ病が悪化すると(あるいは重度のうつ病の回復過程で)自殺が増えるとされる。だとすれば、うつ病にかかりやすい女の方が自殺率が高いはずだが、なぜ男女で逆転するのだろうか。
このもっとも説得力のある説明は、「男の神経症傾向は、うつとは異なる表現型をもつ」だ。
アルコールや薬物依存症は、うつ病と強い相関関係にあることがわかっている。元プロ野球選手の清原和博さんは、その著作でうつの苦しさから逃れるために覚醒剤にはまっていった経緯を率直に語っている(*9)。
うつ病の罹患率は、たしかに女の方が男より高い。だがその一方で、依存症への罹患率は男の方が女より高い。そして、うつ病にアルコール・薬物依存症や衝動的暴力で問題を起こした男の数を加えると、男女の比率はほぼ同じになって性差は消失する。──アメリカやカナダで自給自足の伝統的な生活をする(原理主義的プロテスタントの)アーミッシュは飲酒も暴力も禁じられているが、興味深いことに、うつ病の罹患率に性差はないという(*10)。
男女の性差があるのは攻撃性で、神経症傾向の高い男は衝動が外(薬物や暴力)に向かうが、女は内(自分)に向かいやすい。これは定説ではないものの、女にうつ病が多く男に自殺が多い理由をうまく説明できそうだ。
悲観的でなおかつ攻撃性が高い男は、犯罪者として社会から疎外されたり、アルコールやドラッグで生活が破綻し、行き詰まって死を選ぶほかなくなる。それに対して神経症傾向の高い女は、悩みを内に抱え込む(自分が悪いと思う)のでうつ病になりやすい。だが神経症傾向そのものには、男と女でちがいはないのだろう。
*9─清原和博『薬物依存症』文藝春秋
*10─Daniel Nettle (2002) Strong Imagination, Oxford
スピリチュアルズ 「わたし」の謎
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