※この記事は2021.8.30に公開されたもののタイトル等を再編集したものです。
もともと人見知り、他人に会うとどう思われるか気になる…等々、人間関係に不安を感じやすい人は、実は“人間が気にかけるパーソナリティは8つだけ(『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』橘玲著)”とわかるだけでも気持ちがラクになるかもしれません。「息苦しくない人間関係」特集、まだまだ続きます。
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わたしもあなたもたった“8つの要素”でできている。そして人間の選択や行動はすべて無意識によって決定される。脳科学や心理学の最新知見を使って解き明かした、この恐るべき「スピリチュアル理論」で、今度はあなた自身が「人生は変えられる」と気づく番だ——。 『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(橘玲著、幻冬舎)から、試し読みをお届けします。
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1947年、ドイツの心理学者がキャテルの性格用語を分析すると5つの因子が繰り返し現われることに気づき、1954~61年にアメリカ空軍の2人の研究者が、空軍士官学校での調査など8つの大規模標本から得た性格データを分析して5つの特性を導き出した。1967年には心理学者のウォーレン・ノーマンが、『ウェブスター新国際辞典』を使って性格特性用語を最初から調べなおし、やはり5つの因子を見出した。
1980年代になると心理学者ルイス・ゴールドバーグが独自の語彙プロジェクトと統計処理から主要な5つの因子を発見し、これを「ビッグファイブ」と名づけた。またポール・コスタとロバート・マクレーは、当時使われていたほぼすべての性格の計測でこの5つの因子が頑健であることを見出し、1985年に「五大因子性格目録」を公表した。
1990年代にはビッグファイブの因子が個人の成長を通じてきわめて安定している(年齢によって変化しない)ことが証明され、ビッグファイブ性格質問を各国語に翻訳してドイツ・トルコ・イスラエル・日本・中国・韓国の被験者に実施したところ、やはり5因子が見出された。*19
こうしてようやく、標準的な「ビッグファイブ(パーソナリティの5因子)」を紹介することができる。
- 外向的 Extroversion/内向的 Introversion
- 神経症傾向(楽観的/悲観的)Neuroticism
- 協調性(同調性+共感力)Agreeableness
- 堅実性(自制力)Conscientiousness
- 経験への開放性(新奇性)Openness to experience
なぜこの5つの因子で性格が決まるかというと、「人格(パーソナリティ)」とはあなたの内部にあるのではなく、身近な他者の評価がフィードバックされたものだからだ。これは、「すべてのひとが人生という舞台で主役を演じている」と考えれば当然のことでもある。パーソナリティは「キャラ」のことだが、それは「観客」の評価を反映しているのだ。
ひとはみな自分の物語の主人公だが、好きなキャラを勝手に選べるわけではない。人間は徹底的に社会化された動物だから、「人生という物語」の舞台にはつねに他者がいる。わたしたちは社会によって「拘束」されているのだ。
人生をロールプレイングゲームにたとえるなら、主役(わたし)のキャラのパラメーターは社会=ゲーム全体で共有されているものでなければならない。そうでなければ他の役者(サブキャラ)が理解できないから、ストーリーはたちまち破綻し、先に進めなくなってしまうだろう。これが、キャラのパラメーターが辞書に載っている理由だ(「誰も知らない、内面に秘められた特別な性格」などというものはない)。
わたしたちはみな、微妙に異なるパラメーター(因子)のレベルをもって生まれてくる。その「傾向のちがい」を利用しながら、社会のなかで自分に適した「役柄」を探すのが成長で、それによって一人ひとりちがうパーソナリティになっていくのだ。
生存への脅威と生殖の対象
パーソナリティの「因子」というのは、わかりやすくいうならば、映画でもテレビドラマでも演劇の舞台でもいいけれど、新しい登場人物が現われたときまっさきに注目する要素のことだ。それは自分をアピールするための個性であると同時に、観客が役者に押しつけるステレオタイプでもある。パーソナリティもこれと同じで、「わたし」と「社会(共同体)」の相互作用によってつくられていく。
見ず知らずのひとと出会ったとき、あなたはなにを真っ先に気にするだろうか。進化が生存と生殖に最適化するよう生き物を「設計」したと考えるなら、その答えは明らかだ。
・その相手は生存への脅威か、そうでないか
・その相手は生殖の対象か、そうでないか
「生存への脅威」のもっとも強い指標は、相手が自分と同じ「社会」に属しているかどうかだ。それぞれの「社会」には固有の“しるし”があり、その“しるし”をもたない者はものすごく目立つ(敵意や警戒の対象になる)。残念なことに、この「ヒトの本性」が人種差別や移民問題の背景にある。*20
攻撃性には大きな性差や年齢差があるので、女性や子ども、老人は生存への脅威とは見なされない。それに対して相手が屈強な若い男で、怒りの表情を浮かべながら、あるいは大声でなにか叫びながらこちらに向かってきたとするなら、これは容易ならざる事態だ。現代人は平和で安全な社会に慣れてしまったのでうまく想像できないが、人類の数百万年の進化の歴史(あるいは哺乳類の数億年の歴史)を考えれば、脳のもっとも重要な機能が、外見から相手の脅威を即座に判断することなのは間違いない。
見知らぬ相手が脅威でないと判断できたら、次に重要なのは生殖の対象かどうかで、これは性別と年齢によって決まる。男にとっては若い(生殖年齢の)女が、女にとっては思春期から壮年期にかけての男が生殖の候補で、当然、それ以外の相手とはっきり区別する機能が脳に埋め込まれているはずだ。
ここで、「外見」をパーソナリティのひとつとすることに違和感を覚えるひとがいるかもしれない。だが、「外見と性格は別」というのは「政治的に正しい(ポリコレな)」イデオロギーによるもので、パーソナリティ=キャラが外見から大きな影響を受けるのは当然だ。──わたしたちはみな、「人生という舞台」で自分を演出している。役者の配役を決めるとき、外見を考慮しない演出家なんているだろうか。
とはいえ、アカデミズムにおいて外見を論じることはずっとタブーだった。心理学においても、外見と自尊心が相関する(魅力的な外見だと自尊心が高くなる)とされてはいるものの、他のパーソナリティと比べてほとんど研究対象になっていない(外見に障がいのあるひとにどのように自尊心をもたせるか、という研究ならある)*21。そのため本書でも、外見についてはその重要性を指摘するにとどめざるを得ない。
初対面で注目する「ビッグエイト」
本書では、「協調性」を「同調性」と「共感力」に分けると同時に、「外見」と「知能」を加えて、8つの因子でパーソナリティを説明する。
「外見」と同様に、ビッグファイブ理論には入っていないものの、きわめて重要なパーソナリティが「知能」だ。わたしたちが生きている「知識社会」は、定義上、高い知能に特権的な優位性が与えられている社会だ。知能が高い者が社会的・経済的に成功する(可能性が高くなる)にもかかわらず、ビッグファイブだけで「どのようなパーソナリティが成功できるか」を論じても意味がない。
これが、「他者と出会ったとき(無意識に)注目する8つの要素(ビッグエイト)」で、そもそも人間はこれ以外のことを気にするようにはできていない。
- 明るいか、暗いか(外向的/内向的)
- 精神的に安定しているか、神経質か(楽観的/悲観的)
- みんなといっしょにやっていけるか、自分勝手か(同調性)
- 相手に共感できるか、冷淡か(共感力)
- 信頼できるか、あてにならないか(堅実性)
- 面白いか、つまらないか(経験への開放性)
- 賢いか、そうでないか(知能)
- 魅力的か、そうでないか(外見)
どうだろう。初対面の相手に対して、ほかに興味をもつことがあるだろうか。
*19─村上宣寛、村上千恵子『性格は五次元だった 性格心理学入門』培風館
*20─モフェット、前掲書。
*21─ニコラ・ラムゼイ、ダイアナ・ハーコート『アピアランス〈外見〉の心理学』福村出版
※8つのパーソナリティの詳細な分析と解釈は、本書『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』PART3以降をご高覧ください。
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