『朗読劇「銀河鉄道の夜」』の新作無観客野外公演として、震災から10年の節目の年、世界規模の厄災最中の2021年3月にYouTubeに発表された映像作品「コロナ時代の銀河」。活動の中心である作家の古川日出男と本作の監督を務めた河合宏樹のお二人が、作品に込めた思いを語る対談、最終回です。
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「型にはまらない」ことが難しい時代
古川 なんかさ、最初に何かもの(カルチャーの表現物)が好きになった時って、音楽だろうが映画だろうが小説だろうが、周りの人が好きなものとは違うものを見つけたりして、面白いと言うわけだよ。ベストセラーだから見たり聴いたりするっていうのも、もちろん素晴らしい作品もあるからいいよ。だけど、そうじゃないものを見て、発見していくわけだよね。ところが自分でものを作り始めると「型にあてはめないとダメなんだ」と、どんどんどんどんズレていってしまう。なぜだかね。そういう次第で、本当に型にはまっていない、それをなんと名付けていいかもわからないものが平然と流通している時代状況を、もはや2020年代の今は誰も体験できなくなってきていると思うんだよ。
河合 はい。
古川 だから、この「銀河鉄道の夜」の活動は、それを体験してもらえるチャンスだとは思っているよね。こんな名付けようのないものに触れて、これは何なんだろう? と人に立ち止まって考えてもらえる。
河合 そうですね。僕も去年、自分の新作映画「うたのはじまり」で「絵字幕」というものを採用しましたが、「絵字幕」という名前は、実は僕のオリジナルなんです。つまり、古川さんが「朗読劇」や「画廊劇」というオリジナルジャンルを作った方法のスタンスと近いものがあるんです。古川さんは「『コロナ時代の銀河』は映画と言っても良い」とおっしゃってくださいましたけど、あれが例えば「生配信」という言い方をしていたら、僕はいやだというか。なぜなら、その言い方によって狭められた表現になってしまうから。それだったらいっその事もう「コロナ時代の銀河」も「◯◯映像」といった新しい名前にしたいというか。
古川 なるほどねえ。
河合 話が少しずれてしまうんですけど、僕は去年「当事者」という言葉にすごく悩みました。「当事者」というと、医療当事者など、いろんな当事者が本当は居ますよね。映画や映像や劇に対しても、もっと広い目で見るか、または新しいジャンルを作る為に新しいことを発明する人もいれば、もっと広い言い方で、お客さんの捉え方を幅広げようとする人もいる。例えば映画は、映像の中の映画という捉え方なんですよね。一方で映像ということで、配信や生配信を含めていくつもの捉え方があるという、ジャンルの捉え方もできる。それを表現で確かに伝えようとするには、YouTubeや、さらには文字で残すなど、いろんなことをトライアルしないと、なかなかお客さんもそのような捉え方は持ってくれないなということを考えますよね。
古川 河合君は今回さ、俺が書いたシナリオを最終的に自分の映像作品に仕上げるということで、今までのドキュメンタリーとは全く違うことをしたわけだよ。
河合 気が付いたらそうしていましたよね。
古川 つまり「シナリオがあるからライヴではなくなる、わけではない」ということに初めて気づけたわけで。
河合 根本は変わっていなくても新しいものは産まれるんだということを、実作業して完成させてお客さんに見てもらって、改めて身体で感じました。
古川 そこから次の段階が始まるんだと思うよ。だからいっそ劇映画とかをやってみても面白んじゃないのかなって思っているけどね。
河合 本当にそうですね。あると思いますね。まだ考えてないですけど、今後の古川さんとの関わり方もそういうことになると思います。
古川 ああ、いいね。
未来を考える、変わり続ける
河合 そもそも古川さんは、初めに宣言をするんですよね。その古川さんの宣言通りに僕は今までやってきていると言うことがありますね。映画も作りましたし(笑)
古川 あ、そうだ。「映画作れば?」って俺が言ったから「ほんとうのうた」を作ったんだよね(笑)
河合 それで、こんな人生になっちゃったんですよね(笑)基本的に古川さんの小説もそうですが、予告してしまうんで。
古川 でも俺は『ゼロエフ』というノンフィクションを書いて、フィクションというのは根本的に弱いなと思った。だから今、もう今まで抱えていた連載小説(「曼陀羅華X」)は、とにかく全能力を使って終わらせて、それで基本的に後は一旦“白紙”にしたんだよ。次の仕事は決まってるけど、何をやるかというのはまだ細かいことは相談しないでおいてくれと編集者に言って。だから、この秋ぐらいからリスタートすることになると思う。
河合 古川さんはやっぱり、僕が最初に出会った頃と、震災があった後と全く違いますね。
古川 やっていることが違う。
河合 一番未来を考えているんだけど、実は自分がすごく変わっているということにも意外と自覚的でありながら、なんだろう、そこは一番の古川日出男の魅力というか、
古川 そんなに褒めなくていいよ。
河合 いや褒めてないですよ。褒めているのではなくて、僕が延々と古川日出男さんを追いかけることになるということは多分そういうことなんだと思います。
〈了〉
*編集・構成 森彰一郎
*写真 朝岡英輔
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