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雅子さまの笑顔

2021.09.10 公開 ポスト

眞子さまと小室圭さんの結婚から見えてくる「皇室は存続できるのか」問題矢部万紀子(コラムニスト)

秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さんが年内に結婚の予定と報じられています。婚約内定から4年。お二人の結婚は、「国論を二分する」と言っても大袈裟ではないくらい、日本中の関心の的となってきました。コラムニストの矢部万紀子さんは、この問題を「皇族の生きづらさ」という視点から考え続けています。矢部さんが2020年3月に出版した『雅子さまの笑顔~生きづらさを超えて』から一部抜粋してお届けします。

*   *   *

2017年9月3日ご婚約の記者会見(写真 宮内庁)

生きづらさを公言しないという美徳

朝日新聞は二〇一九年(令和元年)十二月六日、オピニオン面で「皇族という人生」を取り上げた。リードにこうある。

天皇即位で国民の間にお祝いムードが広がりました。ただ天皇や皇族一人ひとりの幸せや自己決定権はあまり考えられてきませんでした。皇族に「生きづらさ」はないのでしょうか。

あるに決まってます。私が眞子さまなら、そう言いたいところだが、眞子さまに代わってその記事は、世代や立場の違う三人に「皇族の不自由さ」について語ってもらっていた。

一九九六年(平成八年)生まれの山本麻都香さんは、日本大学芸術学部時代に映画祭「映画と天皇」を企画した人で、現在は映画会社勤務。山本さんの立場は、見出しがこう示す。「生きづらさ  美徳なんて」

皇族は「あるべき姿」を常に求められ、行動も制限されている。「幸せ」は人それぞれだから、制限の中で役割を果たす幸せもあるかもしれない。でも選択できる範囲が狭すぎる。そう山本さんは語る。同時に、「自分を犠牲にして、国民に尽くしてくれる」から、人々は皇室に感動するのだと考えることもある、とも。それでもやはり、「皇族と言っても人間です。終わりのない奉仕を求めるのは、理にかなっていません」と続けるのは、眞子さまの五つ下、佳子さまの二つ下という同世代女子だからか。

見出しが取られたのは、この言葉だった。「生きづらささえ、皇族は公言しないのが美徳、となっていないでしょうか」

一九六七年(昭和四十二年)生まれで『立憲君主制の現在』の著者、関東学院大学教授の君塚直隆さんも登場。見出しは、「国民の鑑   制約仕方ない」だった。

君塚さんは学者として、整然と「制約」の論理を語っている。前提にあるのが、天皇制を「民主主義を補完する機能として維持すべき」という考えだ。

日本の皇室、欧州の王室について君塚さんは、「政争や分断を超越した存在」ととらえる。 そして、「特定支持層に縛られずに民主的価値の擁護者となり、弱者に寄り添い国民統合に寄与してきた」と。そういう存在を維持するためには、当事者は国民の支持を集める必要がある。そのためには国民の「鑑」でなければならず、ある程度、行動やプライバシーが制約されるのは仕方ない。それが君塚さんの意見だ。

誰も皇族と結婚しなくなる

山本さん、君塚さん、どちらの意見もよくわかる。そして、秋篠宮さまが二〇一八年(平成三十年)、五十三歳の誕生日にあたっての会見で、眞子さまの結婚について「(報道されているような)問題をクリアするということ」と、もう一つ「多くの人が納得し喜んでくれる状況」を求めたことを思い出した。

秋篠宮さまは、「そういう状況にならなければ、私たちは、いわゆる婚約に当たる納采の儀というのを行うことはできません」と語られた。それは、山本さんと君塚さんの間を行き来した結果の発言だったのではないかしら、と思う。

前項で秋篠宮さまのことを、「皇室が国民とともにあること」「税金で運営されているということ」を強く意識していると書いた。だから「鑑」でありなさい。君塚さんの表現を借りるなら、秋篠宮さまは眞子さまにそう言いたいのだと思う。だが、眞子さまの親としては、「皇族と言っても人間です」という山本さんの思いも、十分に理解しているはずだ。だからこそ、問題をクリアし「多くの人」つまり「国民」が喜んでくれるようにして、それで好きな人と結婚しなさい。そう言っているのではないかしら、と。

山本さんと君塚さんの間で揺れているのは、小林よしのりさんも同じだ。「週刊ポスト」で小林さんは「借金問題」について、「気にする必要はない」としたあとに、こうも言っている。

それでも世間が返せというなら、わしが400万円ぐらい肩代わりします。

ちなみに「週刊ポスト」のこの特集は、「識者の意見」に加え、読者アンケートの結果も載せている。それによると「結婚を進めるべき」が二〇・七%、「白紙にすべき」が七八・一%。四百万円を返せば、「白紙にすべき」派の人たちは減るのだろうか。

小林さんは小室さんを「男としてたいしたものだ」と評価していた。その論拠の一つとして、「皇族女性と結婚しようとするだけで勇気が要る」と書いている。これは皇族の今の「生きづらさ」だけでなく、将来の「生きづらさ」も示唆している。私はそう思った。

小林さんの言葉を裏返せば、皇族女性は「勇気がなければ結婚できない」存在だということだ。さらに小林さんの意見を一歩進めればこうなると思う。

「文句ばっかりつけていたら、誰も皇族と結婚しなくなりますよ」

だってそうだろう。小室さんが「勇気」を発揮し、眞子さまと結婚しようとしたら、こんなことになっている。これから先、誰が「皇族との結婚」という火中の栗を拾いにいくだろうか。結婚したら皇籍を離れる女性皇族でさえこうなのだから、悠仁さまの相手はなおさらだ。小室さんのことと思っていると、悠仁さまのことになり、それって皇統の問題になりますよ。小林さんは、そこまで視野に入れて発言しているのではないだろうか。

若い世代で進む皇室離れ

さらにもう一つ、若い世代の皇室離れのことも考えた。

ネット関係の企業で働く三十代の男性と話をしたら、「僕らの世代は、眞子さまと佳子さま、名前は知っていても、どちらが上でどちらが下か、ちゃんとわかってないです」と言っていた。すごく驚いた。「佳子さまは人気なのでは?」と尋ねたら、「ネットニュースでたまに写真は見ても、長女か次女かは……」と返ってきた。今どきの表現を使うなら、彼は「リア充」を代表するような男子だ。そういう人が皇室に関心を持っていない。

皇室にかかわる人に「一定の品格」を求めたい気持ちは十分に理解できる。だが、そもそも若者は確実に皇室離れしているのだ。皇室に親しい気持ちを持つ若者はどこにいるのだろう。学習院? 眞子さまと佳子さまはご自身で、そこを離れることを選択している。

そして、こう考えた。小室さんは中学からインターナショナルスクールに通い、進学したICUで眞子さまと出会った。眞子さまが秋篠宮家の長女か次女か知らなかった、とまでは言わないが、皇室をあまり知らない男子だった。だから、眞子さまに近づく「勇気」があった。それが実態かもしれない、と。

皇室に無頓着な人だから、皇室に近づける。そういう時代だとすれば、もう眞子さまと小室さんだけに限った話ではない。

二人はこれから、どうなるのだろう。

*   *   *

眞子さまだけでなく、雅子さま、佳子さま、そして愛子さまも、それぞれの生きづらさを抱えているのではないか――『雅子さまの笑顔~生きづらさを超えて』は、女性皇族にとって生きやすい皇室を考えながら、誰にとっても生きやすい社会のあり方を問う、等身大の皇室論です。

関連書籍

矢部万紀子『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』

弾けるような笑顔、華やかなファッション、外国賓客に対する堂々たる振る舞いと、日々輝きを増す皇后雅子さま。しかし、一九九三年のご結婚から今日までの道のりは、長く苦しいものだった。外交官から皇室へと新しい人生を選択したものの、男子出産の重圧にさらされ、生きる意味を見失った日々。そこからどう立ち直ってこられたのか?失わなかった「普通の人としての感覚」とは?雅子さま、そして愛子さまほか女性皇族にとって生きやすい皇室を考えながら、誰にとっても生きやすい社会のあり方を問う、等身大の皇室論

矢部万紀子『美智子さまという奇跡』

一九五九(昭和三四)年、初の民間出身皇太子妃となった美智子さま。その美しさと聡明さで空前のミッチーブームが起き、皇后即位後も、戦跡や被災地を幾度となく訪れ、ますます国民の敬愛を集める。美智子さまは、戦後の皇室を救った“奇跡”だった。だが、今私たちの目に映るのは、雅子さまの心の病や眞子さまの結婚問題等、次の世代が世間にありふれた悩みを抱えている姿。美智子さまの退位と共に、皇室が「特別な存在」「すばらしい家族」である時代も終わるのか? 皇室報道に長く携わった著者による等身大の皇室論。

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矢部万紀子 コラムニスト

1961年三重県生まれ。コラムニスト。83年朝日新聞社に入社し、記者に。宇都宮支局、学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。94年、95年、「週刊朝日」で担当したコラムをまとめた松本人志『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)がミリオンセラーになる。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理をつとめたのち、書籍編集部で部長をつとめ、2011年、朝日新聞社を退社。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長となる。17年に株式会社ハルメクを退社し、フリーランスで各種メディアに寄稿している。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。

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