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地主のための資産防衛術

2021.09.17 公開 ポスト

#5「やっと、借り手が見つかった」……が、何千万の合意書が銀行の都合で紙切れに芝田泰明(株式会社芝田久右衛門代表取締役)

地主というと「先祖代々受け継いだ土地を貸しているだけ」というイメージがあるかも知れません。しかし、地主というのはその財産を食い物にしようとしている様々な人々……不動産、建築、金融、紙業に関わる業者、身内に常に狙われています。
地主のための資産防衛術』では、そんな地主のために様々な資産防衛術を紹介しています。
著者の芝田泰明さんは、叔父との8年間にもおよぶ壮絶な相続争いの体験と、その経験をもとにした資産を守る方法をまとめています。
その生々しい相続争いの中身を一部紹介します。

*   *   *

合意書を反故にした銀行

叔父達分家側と、母と私の本家側の関係は悪化する一方でした。そんなさなかでも私は財務状況の改善策をひとつひとつ実行しようと動き続けていました。

マンション売却の次に、月極駐車場2になっていた土地をどこに貸すか、という交渉をすることになりました。

賃料がより多くとれる業態は何かを調べると、葬儀場かパチンコ屋だと分かりました。

特に葬儀場、葬式やお通夜のセレモニーを執り行う物件は、ほかの物件にくらべると約1.5倍も相場が高いことが分かりました。しかも、通常の物件は地主がいくらかの建設協力金を貰って建てるのですが、上物は葬儀会社が自分達で建てて、20年の契約が切れると自分達で潰して更地にしてくれるという契約内容でした。

その葬儀会社が私に出店申込書を提出してきました。

「よし、決まった、いい借り手が見つかった」と思いました。葬儀場は周辺住民からのクレームになりやすいのですが、こちらは会社を再建しなければなりません。

しかし、問題がありました。この土地には借入6000万円分の抵当権がついていたのです。このままでは貸すことができません。
税理士法人部長を通して銀行にその抵当権を外せるか聞くと、支店長が「2週間で外せますよ」と言いました。一応2ヶ月の猶予を持って、私は葬儀会社の人間と合意書を結びました。

ところが、いっこうに抵当権が外れたという連絡がありません。とうとう期限の2ヶ月の3日前となった日、銀行の支店長から電話があり「やっぱり無理でした」と一方的に伝えてきました。

「は?」

私は青ざめました。すでに、葬儀会社と合意書を交わしていたのですから。

もし契約を履行できなかったら、合意書締結後にかかった費用を請求される内容の契約になっていたのです。
この抵当権を外すために、私は、父親から相続した土地のひとつの貸家をA社の借金返済のために売ることにしました。
売るのにいいタイミングかどうかは分からなかったのですが、不動産仲介12社と交渉をして、幸いなことに相場の2倍の1億6100万円で売り抜き、ほぼ全額をA社の返済に回しました(結果的にこの売却のほうが大きな実績となったのですが……)。

抵当権を外すのに半年。

葬儀会社ともう一度会議をしようと連絡すると「実は出店計画が変わりまして、出せなくなりました」と担当役員はうつむきました。

土地が高く売れたことはミラクルでしたが、葬儀会社に貸せなかったのは痛手でした。建設費用がかからない上に、月々の賃料相場の1.5倍で貸せるはずだった……これは私の中で失敗事例となりました。

電線が上空を通っている土地(貸家)の売却

私が売ったのは当時17戸の貸家が建つ400坪の土地でした。貸家は昭和30年代築、8割が入居していました。

不動産会社には「8000万円にしかならない」と言われていましたが、「路線価評価額から計算すると1億800万円くらいだから、1億2000万円を目標としましょう」と税理士法人部長の提案で方向性を決めました。

まず、大小さまざまな不動産会社に話を持ちこみました。次に売りに出す前に正確な面積を知るために測量をします。
5社の不動産仲介会社に測量会社を2社ずつ推薦してもらい、10社ほどから見積を取りました。80万から120万円の幅があり、もちろん一番安い業者に頼みました。

土地を測量し、測量図を作るのは難しくありません。難しいのは境界を確定すること。周囲の地権者に印鑑を押してもらわなければなりません。このときは14件もありました。隣接する地権者にはいろいろな人がいます。判を押すのを渋られたり、判子代を請求してきたり。その対応が大変で時間をとられました。

驚いたことに、400坪と聞いていた土地は、測量をし直すと514坪もありました。税理士法人部長も大変驚いていました。
それから大小さまざまな12社の不動産会社と交渉をしました。口頭で金額を聞き、上のほうから数社に絞ると大手不動産会社だけになりました。その全社に買い先の申込書の仲介を依頼しました。

「私の目標は2億円で、1億5000万円以下だったら売らない」と強気を装っていましたが、もし1億2000万円以上で売れなかったら、A社の負債返済・葬儀会社との契約はどうなってしまうのか分かりません。手に汗握る交渉でした。

交渉の末、買い手が見つかり1億6100万円で売却することに成功しました。

800万円が入ったカバンを持って夜道を歩く

話がまとまると、なぜか買い手の建設会社の社長が手付金の800万円を現金で不動産仲介会社の事務所に持ってきました。
私は内心「なぜ振込にしないんだろう」と疑問に思っていました。その800万円を1枚1枚確認する必要があった上に800万円もの
大金を持って夜道を歩くのは嫌でしたが、それをカバンに入れて自宅に持ち帰りました。

結局、建設会社の社長が800万円もの大金を現金で持ってきた理由は、今も謎のままです。
しかし、あの夜の、大金を持って1人暗い道を歩く不安な気持ちは、一生忘れないだろうと思います。

手付金が800万円だったのには理由がありました。

実は、この土地には少々問題がありました。当時、関西電力の電線が上空を通っておりその地役権が付いており、自由に建物が建てられなかったのです。この地役権を外す交渉は、買い先の建設会社ではなく、私が行いました。地役権を外すことによって売値を上げようと考えたのです。

私は家中を探して、祖父が昭和30年代に交わした契約書を引っ張り出しました。祖父は当時の金額で36万円を受け取っていたことが分かりました。

関電が所有する地役権を外すためには、当時の36万円に相当する金額を払い戻す必要があります。これが現在の価値に換算すると1500万円でした。

地役権を外しても、上に電線が通っているので、無制限に高い建物を建てることはできません。そこで話し合いの末「緩和」ということになり、私は関電に対して半額の750万円を払うことになりました。

それを伝えた結果、不動産仲介会社と買い先の建設会社で手付金は800万円と決められていたのでした。
税金と経費を差し引いた手取りは約1億2200万円でした。
普通は「半分くらいは手元に残しておきたい」と思うかも知れません。しかし、当時の私にはそんな意識は一切ありませんでした。そこから銀行が指定してきた抵当権の総額1億1000万円を、A社の高有利子負債の返済として銀行に返済しました。
A社の借金を立て替えましたが、この金が返ってくることはないだろうと覚悟しました。残りの1200万円も最終的に会社再建の費用に消えていきました。

銀行側は「土地の価値に対して借入の額が多すぎる」と言おうと思っていたタイミングだったと後で知りました。この売却成功のミラクルが銀行に対して私の立場が強くなった瞬間だったのです。

関連書籍

芝田泰明『地主のための資産防衛術』

9割の地主はダマされる! 不動産会社 銀行 証券会社にとって地主ほど「おいしい」カモはいない 8年間の壮絶な相続争いに勝利した著者が教える、あなたの土地・不動産所得を守る方法

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芝田泰明 株式会社芝田久右衛門代表取締役

株式会社芝田久右衛門代表取締役。株式会社地主ドットコム代表取締役。
1978年兵庫県生まれ。2012年父親の急死により、不動産業および、書店・レンタルビデオ・インターネットカフェを経営する同族グループ会社の代表として債務超過に陥っていた同社グループの経営再建に着手。
将来敵対することになる創業者であり前代表の叔父が意図的に分散させていた株式を回収し100%株主となることにより、同社グループの立て直しに成功。 更に⼀族全体の財産問題も含め8年がかりで全ての解決に成功。
自身の経験を多くの地主の役にたててもらおうと、2021年6月株式会社地主ドットコムを設立し、講演会や執筆活動も積極的に行っている。

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