地主というと「先祖代々受け継いだ土地を貸しているだけ」というイメージがあるかも知れません。しかし、地主というのはその財産を食い物にしようとしている様々な人々……不動産、建築、金融、紙業に関わる業者、身内に常に狙われています。
『地主のための資産防衛術』では、そんな地主のために様々な資産防衛術を紹介しています。
著者の芝田泰明さんは、叔父との8年間にもおよぶ壮絶な相続争いの体験と、その経験をもとにした資産を守る方法をまとめています。
その生々しい相続争いの中身を一部紹介します。
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大荒れの経営会議
分家側との関係が悪化の一途を辿っていたこと以外、経営再建は順調でした。
不動産の売却に加えて、本家が所有している不動産の賃料大幅値上げやリストラが進んで収益力が増したことにより、銀行に提出する返済計画などの重要事項はまとまりつつありました。報告をするため、2013年4月、3ヶ月ぶりに経営会議が開かれました。叔父達に会うのは1ヶ月ぶりのことでした。
しかし、会議の時間になっても叔父は来ませんでした。
40分ほど遅刻してきた叔父は、「店に『本屋はやめるのか』という変な電話がかかってきて大変だった」などと言って遅刻を詫びもせず、不満を隠そうともしません。そして、私と目線を合わせようともせず不遜な態度で椅子に座りました。
私は叔父の態度に内心はらわたが煮えくりかえる思いでしたが、冷静になるよう自分に言い聞かせながら、経営再建計画の現状などを一通り報告しました。
叔父はぶつぶつと文句を言いつのり、やがて顔を真っ赤にして怒鳴りだしました。
「叔母に敷居をまたがせないと言ったそうだが、どういうことだ!」異常な興奮で声が震えていました。
支離滅裂な宣戦布告
「このままだと、お前の言うことは聞かないし、印鑑は一切押さないからな!」捨て台詞のように怒鳴ると帰ってしまいました。
莫大な借金をした張本人が、その借金返済を妨害するという、まったくもって支離滅裂な宣戦布告でした。
翌日から叔父は、こちらが要請した叔父が所有する不動産の売却を拒否。電話に出ず、メールの返事もよこさなくなりました。
叔父がそれほど頑なになったのは、私に経営者としてのプライドをズタズタにされたからでした。
もともと叔父はプライドの高さだけは一流の経営者で、親戚に意見を言われることに対して必要以上に憤慨するたちでした。
私が叔父の気持ちなどに忖度せずに、経営のずさんさを指摘したうえ、役員報酬を下げたことが我慢ならなかったようです。
しかし、25年もの間、常に負債が膨らみ続ける状況で「ゆでガエル」になっていた親族と、父の死で初めて実情を知った私との間には、危機感の差がありました。
私を子どもの頃から見てきた叔父や叔母たちは、いまだに「会社は安泰だ」と、心のどこかで信じきっていたうえ、「やんちゃな甥っ子」である私の言葉を真剣に聞くことができずにいました。
行き詰まった私は、第三者の手を借りることにしました。
銀行にも仲裁を依頼しましたが、叔父はまったく聞き入れません。
つてで優秀な弁護士を紹介してもらいましたが、結果は、現状の利権関係では、負債を作った叔父側に有利な状態であることが判明しただけでした。
最後の手段として、叔父が創業した当時、後押しした老経営者に仲裁をお願いすることにしました。若輩者の私の言葉は聞かない叔父でも、世話になった経営者に意見してもらえば耳を傾けてくれるだろうと踏んだのです。だが、それも失敗に終わりました。
叔父を説得できなかった老経営者は、あろうことか私にこう言いました。
「お前がバカになって頭を下げろ」
その言葉を聞いて、私は一気に目が覚めた気がしました。目の前の老人はバブルで自社を潰し、自己破産した人間でした。なぜこのような人物に相談したんだろう……。
税理士法人部長の裏切り
当時、芝田家の顧問税理士法人は、25年もの付き合いがありました。その部長は担当になって10年以上、芝田家にコンサルタントとして関わっており、私も経営改革の協力者として信頼し、頼りにもしていました。
ただ怒りっぽくて癇癪を起こしたことが何度かありました。たとえば、書店の社員に対するリストラ説明会が叔父の暴言で紛糾したとき、マンションの売却を叔父が急にやめようとしたとき、別途彼が請求してきた「銀行交渉費用」を私が値切ったときなどに怒りを露わにしてきました。
そういった部分は人間的にどうかと思っていましたが、それも仕事熱心な故だろうと思うことにしていました。「善意で通常以上のサービスをしている」と言っていましたし、もともと高い顧問料に加えて銀行交渉費用も払い続けているのだから、借金返済に
向けて協力してくれているのだろう、と信じ込んでいたのです。
A社のリストラをしていたのは私でしたが、分家側の叔父・叔母との関係が決裂していたため、私はA社の財務諸表をなかなか見せてもらえないでいました。
何度も繰り返し要求し、やっと財務諸表が手元に届きました。
数字を確認すると衝撃の事実が判明しました。
カットしたはずの叔父・叔母の役員報酬が元に戻されていたのです。しかも、経費も以前と同じく湯水のごとくムダ遣いしているではありませんか。
私は「いったいどういうことなのか」と税理士法人部長に質問しました。
返ってきたのは「相続の一環だからと社長(叔父)に言われ、指示通りにしただけだ」という無責任な答えでした。
ここに及んで、やっと私は理解しました。
私に協力しているとばかり思っていましたが、この男は、私を裏切っている……。
本当に残念な気持ちでした。
そもそも、25年間もこの税理士法人と付き合っていたから、こんな最悪の状況になってしまったのです。そういう意味ではこの男も叔父と同じ穴の狢(むじな)に過ぎません。
ちょうど同時期に母から聞いた話も、今すぐ契約を解消したい思いをさらに強くさせました。母の話は、次の通りです。
バブルの頃、この税理士法人のアドバイスで「このままでは土地の値段が上がり続けるので祖父の土地を父に生前贈与しておかなければ莫大な相続税を払わなくてはならない」と父に話をもちかけ、父に銀行から多額の借入をさせ、祖父から土地を買い取らせるという相続税対策を提案。父も祖父もそれに合意してしまった結果、後にバブルがはじけ、土地の値段が暴落。多額の債務を背負っただけの生前贈与にさせられた。
このような話を聞き、すぐにでも契約を解消したかったのですが、長年一族の経理を見てきたこの男を使わなければ、借金の整理も会社再建も進みません。もし自分にとって利益がないとなったら、この男は指一本たりとも動かすわけがないからです。
私は、怒りをぶちまけずに、内側に押し込めました。そして、表面は以前と変わらず彼を頼るふりを続けることにしました。
(つづきは書籍『地主のための資産防衛術』で楽しみください。)