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盾と矛

2021.09.18 公開 ポスト

2030年までに日本だけで1600万人が今の職を失う加藤晃/ロバート・フェルドマン

定年まで同じ会社に勤めあげる「一所懸命」モデルは崩壊、さらに「人生100年時代」の到来など、技術革新によって、私たちの働く環境は激変しました。

加速するDX時代においては、過去に学んだことの賞味期限はどんどん短くなっていきます。

DX、AI、SDGs、MOTなど、わかっているようで理解できていない言葉の数々、さらにデータの正しい捉え方やエネルギー革命など、現代を生きるビジネスパーソンとして必要なテーマをまとめた一冊『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』の刊行を記念して、内容を一部抜粋してお届けします。

*   *   *

(写真:iStock.com/metamorworks)

「繰り返し」の仕事は消滅する

経営コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、2030年までに日本だけでも1600万人が職を失う一方、技術進歩など環境の変化に対応できる1000万~1100万人は新しく生まれる職に就つくニーズがあると予測しています。

つまり、あなたが現在就いている職業がもし消える運命だとしても、必要な知識、スキルさえあれば、新たな職業に就ける可能性も十分あるということです。

これまで頭を使うとされてきた業務でも、繰り返し的(ルーティン)な性格の強い業務は消え去る側に分類されます(図表1)。

事業・雇用環境の変化に対応するには、必要な知識やスキルのアップデートが不可欠です。映画「ラスト サムライ」ならぬ、「ラスト サラリーマン」になりたくなければ、学び直しが必要です。そうした学び直しを「リカレント教育」と言います。ちなみに、英語のrecurrentには「習慣性」という意味もあります。特に、人生100年時代になると、公的年金額は減り、就労年数はさらに延びます。常に学び直す習慣を身につけないと、サバイバルできない世界になるのです。

筆者の二人、ロバート・フェルドマンと加藤晃は、東京理科大学大学院経営学研究科の技術経営専攻(以下「MOT」、Management of Technologyの略)において、社会人学生を対象に教鞭をとっています。まさに、「学び直し」の最前線で教えていると言っていいでしょう。東京理科大学のMOTは、将来のCEO・COO・CTOなどのCXO(経営幹部)およびアントレプレナー(起業家)の育成をミッションとしているビジネススクールです。といっても、本書には小難しい理論や数式は出てきません。

本書は、すべてのビジネスパーソンに気軽にお読みいただきたい、「学び直し」の新常識についての、私たちからの提案となっています。

盾(守り)と矛(攻め)は進化し続ける。どう取り入れるのか

本書のタイトルは、『盾と矛』です。中国の『三国志』に登場する、関羽や張飛が使っていた武具を思い出していただくとよいでしょう。「盾」は、剣・槍による打撃、弓矢による射撃から身を守る防具です。「矛」は、剣に長柄をつけた武器です。

武力も暴力も、もちろんビジネスでは使いませんが、「盾」と「矛」を比喩としてビジネスパーソンのキャリア形成について考えてみましょう。

敵が鈍器を使って攻撃してくる場合、「盾」には鉄や銅など強度のある素材が求められました。しかし、こうした素材でできた堅牢な盾は重く、俊敏な動きができません。そこで研究開発によって、盾の素材も変化し続けています。例えば、現代の警察はジュラルミンやポリカーボネート製の盾を装備しています。また米軍はすでに次世代の盾を、鉄より軽くて強い素材(人工クモ糸)で作ろうとしています。

次に「矛」、つまり実戦における武器は、技術が進歩することで鈍器が刀・槍になり、弓は鉄砲になり、近年ではドローンも使われるようになりました。砲弾がレーザー光線に取って代わる日もそう遠くはないでしょう。

すなわち、技術進歩が戦い方に影響を与え、盾・矛とも相互に進化してきたのです。

ビジネスにおける、守りと攻めも同じです。

「盾」は、つまり「守りに不可欠な知識・スキル」です。盾がなければ、弱点を晒さらすことでビジネス上の競争に敗れ、降格・左遷、悪くすれば失職してしまうかもしれません。すなわち、ライバルなどからの攻撃に耐える十分な強度を持ち、弱みを克服する必要があります。

「矛」は、「勝ち残りに必要な知識・スキル」です。技術革新は自分のビジネスを守る盾であり、競争相手の市場シェアを奪う矛にもなります。

小売業が良い例です。ITは、在庫管理を効率化する盾であり、電子取引によって市場シェアを拡大する矛にもなります。

しかし、こうした技術の進歩だけに頼っていてはいけません。最新技術の影響力を最大化できるように、組織も再編成する必要があります。織田信長が長篠の戦で勝利した理由、プロイセンがケーニヒグレーツの戦で勝利した理由は、より性能の良い鉄砲を持っただけではなく、保有する鉄砲をうまく運用できる組織形態・作戦を開発したからです。

ビジネスにおいても、技術進歩に合う組織形態、戦略を展開できれば、有利に競争を運べるようになります。つまり、進歩した技術をうまく活用するための社員の訓練、「学び直し」が重要な経営課題なのです。

 

今後やってくる大失業時代、「万物流転」の時代をいかに生き抜くのか。そのためには「学び直し」が必須であると断言できます。現在進行中の技術進歩や社会変化を、ビジネスパーソンとしてどう捉えるかが本書のテーマです。

1章「人生100年時代と『一所懸命モデル』の崩壊」では、私たちを取り巻く社会がいったいどのように変化しつつあるのか、そして私たちは何をする必要があるのかという大前提を知りましょう。

2~7章では、AI(Artificial Intelligence)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、データの捉え方、エネルギー革命など、現代を生きるビジネスパーソンとして必要なテーマについて学びます。

*   *   *

続きは本書をお楽しみください。

関連書籍

ロバート・フェルドマン/加藤晃『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』

「繰り返し」の仕事は消滅する! 新たな時代のニーズを掴め! DX/AI/SDGs/MOTをあなたの武器にする本 はじめに 大失業時代、学び続けないものは生き残れない ・2030年までに1600万人が今の職を失う 1章 人生100年時代と「一所懸命」モデルの崩壊 ・DXによって学んだことの賞味期限はどんどん短くなる 2章 AIとDXを自分の言葉で語れるようになろう ・雇用を減らすイノベーション・生み出すイノベーション 3章 DXの本質は、ビジネスモデル変革 4章 最も弱いスキルを鍛えない限り、成長はない 5章 データを正しく解釈しよう。 新型コロナと日本人 ・日本のコロナ対応、欧米と日本で評価が180度異なるのはなぜ? 6章 エネルギー革命と成長する企業の決断 ・再生可能エネルギーは企業にとって「負担」ではなく「投資」 7章 投資家が重要視する「サステナブルファイナンス」とは おわりに 自己実現への道しるべ

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盾と矛

テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。

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加藤晃

東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)教授。防衛大学校(国際関係論)卒業、青山学院大学で博士(経営管理)を取得。貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学を経て、2020年より現職。経済産業省ISO/TC322国内委員・日本代表エキスパート、ISO/TC207環境ファイナンス関連規格検討委員会委員、日本証券アナリスト協会サステナビリティ報告研究会委員。単著に『CFO視点で考えるリスクファイナンス』(保険毎日新聞社)、共著に『サステナブル経営と資本市場』(日本経済新聞出版社)、『ガバナンス革命の新たなロードマップ』(東洋経済新報社)、監訳書に『サステナブルファイナンス原論』(金融財政事情研究会)、『社会を変えるインパクト投資』(同文舘出版)。

ロバート・フェルドマン

1970年、米国からAFS交換留学生として初来日、1年間名古屋で過ごした後、イエール大学で経済学/日本研究の学士号、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1983~89年、国際通貨基金(IMF)でエコノミスト、1990~97年、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社で首席エコノミストを務める。
1998年、モルガン・スタンレー証券株式会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)に入社、チーフエコノミストとして2017年まで勤め、その後シニアアドバイザー。
2000~20年、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系列)にコメンテーターとして出演。書籍出版、雑誌寄稿、講演などの対外活動にも積極的。2017年より東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)にて教授を兼業。

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