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家族間殺人

2021.10.07 公開 ポスト

父を刺し殺した兄が、刑務所で死亡。1カ月後には入院した母親が……。阿部恭子

加害者家族を支援する阿部恭子さんの新刊『家族間殺人』が発売になりました。家族内で殺しがあったあと、残された娘と母親の仲は急速に悪化しました。そして、想像もしていなかった結末を迎えます。

*   *   *

兄が刑務所に収監されて数年が経過した頃、突然、刑務所内で死亡したとの知らせが兄の妻子に届いたという。恵さんは、あまりにも早すぎる兄の死にショックを受けると同時に、内心どこかで安堵している自分にも気がついた。

兄は金に困った挙句に父のもとへ行き、父は援助を拒んだがゆえに殺害された。

 

恵さんはすでに会社を退職しており、以前のような安定した給料は得ていない。兄の妻子に経済力はなく、出所後、金の無心に来る兄に、今度は自分が殺される危険性も感じていた。兄が刑務所にいる負い目と将来への不安が消え、肩の荷が下りた気がした。

ところが兄の死は、昔から折り合いの悪かった恵さんと母の関係をさらに悪化させた。母は、先に逝ってしまった息子の死を嘆き続けた。

「お兄ちゃんじゃなくて、あんたが死ねばよかったのに

悲しみのあまり、母は恵さんに容赦ない言葉を浴びせ続けた。

(写真:iStock.com/fizkes)

母親は、足腰が弱くなっただけで、意識ははっきりしており、気性の激しさは昔と全く変わっていなかった。

「子どもを産まないあんたに、私の気持ちはわからない。あんたなんか女じゃない」

恵さんは、男性に依存的な母親を反面教師として育った。父親は家を不在にすることが多く、母親は密かに家に男性を連れ込み、恵さんはそうした男のひとりからレイプされたことがあった。母親に被害を訴えると、「何てことしてくれんの!」と平手打ちをされ、父親には絶対言うなと口止めされたのだった。

母からの暴言に昔のトラウマが蘇り、何度も母への殺意が湧いた。それでも、この世でたったひとりの肉親だと思うと、離れることができずにいた。母の車椅子を押して外を散歩するとき、一緒に電車に飛び込もうかと何度も考えるようになっていた。

この頃恵さんは筆者の団体に相談し、兄が起こした事件と母親との確執について度々、支援を必要とするようになった。

母親は、身体的に自宅での生活が難しくなってきたことから、施設で生活することを筆者は提案していた。

母親と恵さんとの関係も日増しに悪化する一方で、このまま同居を続けていれば、再び殺人や心中事件が発生してもおかしくない状況だったからだ。

ところがその矢先、母親の体調が急変し、入院することになった。

それから一カ月後に母親は病院で息を引き取った。

*   *   *

次回は10/10(日)更新予定です

関連書籍

阿部恭子『家族間殺人』

家族に悩まされた経験を持つ人は少なくないだろう。配偶者のモラハラや支配的な親きょうだいの言動に「いっそのこと……」と思ったことはないだろうか。実際、日本の殺人事件の半数は家族間で起きている。家族の悩みは他人に相談しにくく、押さえ込んだ感情がいつ爆発するかわからない。傍から幸せそうに見える家族ほど、実は問題を抱えていることも多い。子どもへの度を超えた躾、仮面夫婦や夫と姑の確執、きょうだい間の嫉妬による殺人など理由はさまざまだが、そこに至る背景には一体何があるのか? 多くの事例から検証し、家族が抱える闇をあぶり出す。

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家族間殺人

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阿部恭子

NPO法人World Open Heart理事長。東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。二〇〇八年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)がある。

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