加害者家族を支援する阿部恭子さんの新刊『家族間殺人』が発売になりました。3人の家族を失い、孤独になってしまった女性。周りが支えようとしても、うまくいかないことがあります。はたして、どうすればよかったのかーー。
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家族を失い孤独になった恵さんを、これまで細々と繋がっていた支援者たちは支えようと努力したが、
「触らぬ神に祟りなし」
そう言って、彼女のもとから仲間たちはひとり、またひとりと去っていった。
「とにかく自慢話ばかりでした。彼氏が医者だと言っていますが、おそらく主治医のことで妄想だと思うんです。嘘もつくし、常にかまってほしいという要求が強すぎて、支えきれなくなってしまって……」
女性たちは敏感で、彼女から離れていった。男性はさらに彼女との関わりを嫌がった。
筆者も恵さんを支えたいと思ってきたが、相談者は恵さんひとりではなく、対応する時間にも限りがあった。その点は、理解してもらえていると信じていたが、実際にはそうではなかった。
恵さんが満足するまでこちらが対応しないと、他の相談窓口や他のスタッフに「いじめられた、差別を受けた」などと訴えるのだ。
彼女は経済的にも困窮していたが、生活保護の受給をぎりぎりまで拒んでいた。
「父は外車でよく迎えに来てくれた」「高級レストランの常連客だった」など、恵さんはかつての贅沢な暮らしぶりをよく誇らしげに語っていた。だが、本当の話かどうかはわからない。
昔はそれなりにいい生活をしていたことから、生活保護には頼りたくないと言ってきかなかった。
アルバイトもしていたが、掛け持ちは年齢的にもきつくなっていた。支援者が生活保護を申請するよう説いても、「自伝を書いて印税で生活する」「お見合いをする」などと現実的ではない計画を持ち出して、拒否し続けていた。
恵さんを担当したカウンセラーは、恵さんは境界性パーソナリティ障害の疑いがあると指摘した。
そうなってしまった原因は家庭環境にあった。家庭は本来、安心できる空間であり、家族は最初に信頼関係を結ぶ相手である。
恵さんの場合、暴力が支配する家庭で常に怯えて過ごし、信頼関係を構築するという経験を欠いたまま大人になった。カウンセラーいわく、彼女の被害妄想と思われる言動は、彼女にとっては実在する被害だという。普通の人には仕方がないと割り切れることでも、裏切られたと傷つき、人格否定と捉え、相手に対して攻撃的な態度をとることもあった。
虚言や見栄を張る癖も、耐え難い現実からの逃避だった。
今年に入り、恵さんが亡くなったという情報が入った。自殺の可能性が高いという。 仕事を失い、家族を失い、生活が困窮すればするほど、過酷な現実から逃れるかのように妄想が酷くなっていったようだ。亡くなる直前は、生活保護を受けてひとりで暮らしていたが、本人にとっては不本意だったという。
独居老人やシングルマザー、介護を抱えた人々が孤立しないための支援は広がっているが、恵さんのようなひとり暮らしの無職の女性への介入は難しい。
恵さんはこれまで何度も男性との間でトラブルを起こしてきたが、トラブルが起きるということも人と繋がっている証であり、恵さんの生きる力になっていた部分は否めない。それすらなくなると、状況は急激に悪化してしまう。最後まで力になってあげられなかったことは、悔やまれてならない。
家族間殺人
家族に悩まされた経験を持つ人は少なくないだろう。配偶者のモラハラや支配的な親きょうだいの言動に「いっそのこと……」と思ったことはないだろうか。実際、日本の殺人事件の半数は家族間で起きている。家族の悩みは他人に相談しにくく、押さえ込んだ感情がいつ爆発するかわからない。傍から幸せそうに見える家族ほど、実は問題を抱えていることも多い。子どもへの度を超えた躾、仮面夫婦や夫と姑の確執、きょうだい間の嫉妬による殺人など理由はさまざまだが、そこに至る背景には一体何があるのか? 多くの事例から検証し、家族が抱える闇をあぶり出す。