いまも祟り続ける大怨霊・平将門、髑髏と成り果てた小野小町、美少年天狗に試された武田信玄、池の水を全部抜いた織田信長、徳川家康のもとに現れた謎の「肉人」……。教科書には決して載らない、500名以上の歴史人物にまつわる怪しい話を集めた『歴史人物怪異談事典』。怪談や妖怪、都市伝説が好きな人にも、日本史が好きな人にもオススメの本書より、怖くて面白いエピソードをいくつかご紹介します。
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平将門(不明~940年)
平安時代の武将。下総国の出身で、平安京に上って藤原忠平に仕えるも、志を得ず国に戻る。その後は関東で勢力を養い、幾度もの内乱を経て下野国、上野国を制圧する。新皇を称し、関東の独立を図って平将門の乱を引き起こすが、藤原秀郷、平貞盛らによって討たれる。
いまも祟り続ける平安の大怨霊
平将門には、生前から多くの伝説が残っている。
『太平記』によれば、その体は鉄でできており、いかなる武器でも傷つけることができなかった。しかし祈禱により天から降ってきた一本の矢が将門の眉間に刺さると、秀郷は将門のこめかみを突いてこれを討つことができたという。
獄門に晒された将門の首は3カ月経っても生きており、目を閉じることなく「斬られた我が五体はどこにあるのか。頭とつながって今一度戦をしよう」と夜な夜な喋り続けた。しかし近くを通りかかった人が「将門はこめかみよりぞ斬られける。俵藤太が謀にて」と歌ったところ、そのまま目を閉じて屍になったという。
御伽草子の『俵藤太物語』では、将門には6人の分身がおり、影がない分身は光を当てることで見破ることができる、という伝説が伝えられている。
さらに『将門純友東西軍記』では、首を斬られた胴体が首を探し求めて歩き回り、武州で力尽きたという話が載り、『前太平記』では宙を飛んだ首が武蔵国の辺りに落ちて、毎夜光り輝いたと記されている。
他にも『御府内備考』には、承平天慶の乱の後、平家に縁のある者が将門の首塚を築いたところ、祟りが起こり、天変地異が相次いだと記されている。この将門の祟りは近現代でも続いており、東京都千代田区に現存する将門塚で祟りを起こすと語られている。
大正時代には関東大震災の後、将門の眠る将門塚を発掘調査したところ、それに関わった人間が相次いで死亡した。また戦後には、将門塚のあった場所と知らずに空襲の焼け跡を整備したところ、事故が多発して死者まで出たという。
菅原道真(845~903年)
平安時代の公卿。宇多天皇、醍醐天皇に重用され、文章博士や蔵人頭などを歴任し、右大臣となる。しかし左大臣であった藤原時平が醍醐天皇に「天皇を廃位し、自分の娘婿である斉世親皇を即位させようとしている」と嘘の密告をしたことで大宰権師に左遷され、大宰府で没した。現在は学問の神として親しまれている。
「学問の神」となった日本最強の怨霊
道真は死後、怨霊と化して平安京を祟ったという。
『扶桑略記』によれば、彼を嵌めた時平は道真の怨霊に取り殺されたという(詳細は藤原時平の項目を参照)。続いて道真失脚の首謀者の一人とされ、道真の後に右大臣となった源光が狩りの最中に溺死する。さらに醍醐天皇の息子や孫も次々と病死し、『日本紀略』では、これを道真の怨霊によるものと記している。
道真の怨念を鎮めるためにさまざまな措置が取られたが、天皇の御所である清涼殿に雷が落ち、道真の左遷に関わった人間が何人もこの落雷で死亡した。醍醐天皇はこの事件を間近で見たことで体調を崩し、3カ月後に崩御した。この事件をきっかけに道真が雷神になったという風説も流れた。『北野聖廟縁起』では、この落雷を天満大自在天神(道真を神格化した呼び名)の眷属である火雷火気毒王の仕業であると記している。
『道賢上人冥途記』には、道真が道賢という僧侶に地獄に堕ちて苦しんでいる天皇を見せる場面がある(詳細は日蔵の項目を参照)。また同書には、道真には16万8千の悪神が眷属として仕えているとの記述がある。
その後、道真を祀るために北野天満宮が建立されたが、『太平記』によれば、建立してからもしばらくは怪異が治まらず、内裏が3度焼けたという。そこで一条天皇が道真に太政大臣の位を贈ったところ、「今、すべからく望みが叶った。これからは皇居を護ることとしよう」という声が天から聞こえたという。
以来、道真を怨霊と見なす風潮は薄れ、彼が儒家の出身であったことから儒家の神、さらに詩文の神として崇められるようになった。その後近世の寺子屋で書道や学問の神として道真が崇拝されるようになり、戦後には学問の神や受験の神として崇められるようになった。
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