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文化系ママさんダイアリー

2010.07.01 公開 ポスト

第五十五回

「ママさん的iPad活用法~お料理レシピ統合計画」の巻堀越英美

 今日はiPad、昨日はたこ焼きメーカーと、毎日のように宅配便でモノを買い込んでいる夫。そして日々必要なモノが増える子供。増えるモノに比べて、捨てられるモノの少なさよ。なんとなくおそろしくなる。このままモノが増え続けたらカオスはやがてカタストロフィーを招き、部屋は破滅の一途へ……。というか端的に、次の引っ越しが怖い。

 とはいえ、何が一番部屋を狭めているかといえば、私の本なのだった。折しも周囲では“自炊”の話題が熱い。自炊、といっても料理の話ではない。手持ちの本をスキャナで取り込み、iPadで読めるように自分の手で電子書籍化する作業を、俗にそう呼ぶそうだ。大いに場所をとる大量の書籍を電子の世界に移して一掃。女のロマンをかきたてられる話である。女のロマン、それはカオスをコスモスへと導くこと。要はモノを減らしたい。3次元ではもったいないおばけに阻止されるため、もっぱらテトリスや上海などの消し物パズルゲームで疑似体験するしかない悲しいロマンだ。しかし電子化ならもったいないおばけが出る幕はない。自炊、トライしてみようかしら。幸い手元には、「もう飽きちゃったんだよね~。アプリ高いし」と夫から渡されたiPadがある。

 調べてみると、自炊には大量の書類を一気に読み込める高性能なスキャナ、そして本を裁断する機械が必要らしい。それぞれン万円。あ、もったいないおばけが再降臨……。

 省スペースのみならず、本の中身を検索できるようになる、というのも電子化の大きなメリット。蔵書総自炊計画は今のところムリにしても、料理本の使えるレシピだけ電子化するのはどうだろうか。家には独身時代に購入した10冊以上の料理本があるものの、いくつかの常連レシピをのぞいてほとんど死蔵状態。子供ができた今、料理本を読んで材料を確認して買い物に行ってから作る、という手順を踏めないからだった。宅配の野菜、生協で注文した冷凍の切り身魚などの食材、安いときに買いだめして冷凍してある各種肉類などなど、手持ちの食材から足のはやい食材を中心にその日の献立を決めなくてはいけない。結局クックパッドで食材検索し、その食材のアクセスランキング上位のレシピから買い物に行かなくてもすむレシピを選択する……というワンパターンに陥りがち。気がつけば我が家の食卓におけるクックパッドのプロレタリア独裁が進みつつある。せっかくプロが書いた料理本が家にあるというのに、素人の投稿レシピに仕切られたままでいいのか。否、料理本の電子化で真の民主主義を目指さねばなるまい。

 料理本のレシピにかぎらず、人に教えてもらって作ってみたらおいしかった、というレシピもブックマークに放り込んであるだけで、ほとんど活用していない。あちこちにレシピの情報が散らばっていて、一元管理できていない状態。このカオス、女のロマン的にどうにかしたい。ネットのレシピをiPadに表示させながら台所において調理する、という人はけっこういるらしいが、これを一歩進めて、お気に入りのレシピをすべて一元化してiPadで管理できないだろうか。いわば自炊で自炊計画だ。台所の一角を占めている料理本を一掃すれば、たこ焼きメーカーの置き場所くらいは確保できるだろう。

 というわけで前置きが長くなったが、「育児に追われて全く最新デジタル事情を追いかけていないかわいそうなオカンが、新しい機械を買わずに夫のiPadを拝借してロマンをがんばってみた」という愛と感動のヒューマンドキュメンタリーを以下にお伝えしたい。

(1)「My Recipe Book」を使う
「recipe」「organize」で検索してみると、海外の皆さんもあれこれ苦心しているようである。なかでも評判が高かったのが、「My Recipe Book」というiPad用レシピ管理アプリ。説明文を読むと、料理好きのママさん2人が設計しただけあって、雑誌の切り抜きや友達から教えてもらったレシピ、ネットのレシピなどをまとめて一元管理できるとあり、求める女のロマンど真ん中。英語版だが、日本語は問題なく通る。日本語検索も可能。ただしレシピの追加は、iPadから自力で入力するか、ソフトが連携している英語のレシピサイトから取り込むしかないようだ。3~4つほど入力したところで面倒くささにギブアップ。キッチンタイマーや単位換算ツールまであって、自分がチェリーパイなどを好むアメリカ人だったら使いこなせただろうに、と思うとつくづく惜しい。

(2)レシピをPDF化して「Evernote」で取り込む
 iPad&iPhoneユーザーの間で話題沸騰のクラウド型データ管理サービス「Evernote」。パソコン上のメモ書きやwebページ、PDFなどをネットワーク上でiPadと共有でき、検索もできるらしい。さっそく料理本からスキャンしてPDF化したページをアップロードし、iPadから見てみた。閲覧は問題ないが、食材別の検索はできない。どうやらPDF文書の文字を検索対象にするには、月額5ドルのプレミアム会員にならなければいけないようだ。PDFファイルに主要な食材のタグをつけておけば無料版でも検索できるが、1つ1つそれをやるのはちょっとめんどう。それにPDF化すると1ページが1MBを越えてしまい、容量オーバーも心配だ(無料版は1ヵ月あたり40MBまで)。うーん、レシピ管理のためだけに月額5ドルはなあ。仕事でEvernoteをバリバリ使っているというのでもないかぎり、ハードルが高い。ただ、スキャナがない場合はカメラで撮影した画像内の文字も検索対象にしてくれるプレミアム版一択かもしれない。レシピの細かい文字まで認識してくれるのかどうか、やってみないとわかりませんが。

(3)レシピをテキスト化して「Evernote」で取り込む
 同じくスキャナで取り込んだレシピページを、PDFではなくテキストデータで保存。これなら検索も可能に。容量不足の心配もいらない。画像がないのが物足りないといえば物足りないが、材料と手順を確認したいだけなら問題なし。ネットのレシピもウェブクリッパーでテキスト保存すれば難なく共有できる。この方法だと、iPhoneからもレシピを参照できるのがありがたい。なお、検索の利便性を考えて、食材名の表記はあらかじめ統一しておいたほうがよさそう。取り込んだ後で、「じゃがいも」や「ジャガ芋」は、「ジャガイモ」に修正しておく、とか。

食材名で検索した結果。テキスト保存したレシピが表示される。

 3種類の方法を試してみたが、今のところ自分にとって一番実用的なのが(3)の方法だった。日頃から英語のレシピサイトを活用してる人なら(1)が便利だろうし、プレミアム会員になるのが惜しくないくらいEvernoteの使用頻度の高い人なら(2)もありだろう。ただ、レシピ管理用に作られた(1)の使い勝手の良さも忘れがたく、Evernoteのようなクラウド型のデータサービスと連携して簡単にレシピを取り込める日本語版レシピ管理アプリの登場が待たれるのだった。誰か作ってくれませんか。ちなみにiPadを台所に置く際は濡らさないよう、ジップロックに入れておくといいらしいですよ。


 オマケ:最近の娘(2歳10ヵ月)がハマっているiPhoneアプリ

Dial-a-phone
http://itunes.apple.com/jp/app/babyapps-for-ipad-dial-a-phone/id367692197?mt=8

 勝手にiPhoneをいじって電話をかけたがる幼子を、iPhoneの電話機能そっくりの画面でごまかすアプリ。娘がこれを使っているところを盗み聞きしたところ、「ねえきいて。A君とBちゃんがチューしちゃったのよ。それでC君がごっつんこしちゃったんだけどぉ」などと話していた。お母さん、そんな話を電話でした覚えはないんだけどな~。大人の模倣でないとしたら、電話でゴシップを話したいというのは人間の本能なのだろうか。 

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フニャ~。 泣き声の主は5ヶ月ほど前におのれの股からひりだしたばかりの、普通に母乳で育てられている赤ちゃん。もちろんまだしゃべれない。どうしてこんなことに!!??

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堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業。IT系企業勤務を経てライター。「ユリイカ文化系女子カタログ」などに執筆。共著に「ウェブログ入門」「リビドー・ガールズ」。

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