いまも祟り続ける大怨霊・平将門、髑髏と成り果てた小野小町、美少年天狗に試された武田信玄、池の水を全部抜いた織田信長、徳川家康のもとに現れた謎の「肉人」……。教科書には決して載らない、500名以上の歴史人物にまつわる怪しい話を集めた『歴史人物怪異談事典』。怪談や妖怪、都市伝説が好きな人にも、日本史が好きな人にもオススメの本書より、怖くて面白いエピソードをいくつかご紹介します。
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武田信玄(1521~1573年)
戦国時代の大名。父・信虎を駿河に追放して甲斐国の大名となり、後に信濃、駿河と上野、飛驒、美濃、三河、遠江の一部を領有する戦国大名となった。北信濃の領有を巡って越後の上杉謙信と数度にわたってぶつかり合った川中島の戦いが有名。また、三方ヶ原の戦いでは徳川家康を破ったが、翌年病没した。
甲斐の虎を試した美少年天狗
『義残後覚』には、信玄が天狗と遭遇した話が載る。
ある時、信玄のもとにこの世に2人といないほど美しい15、6歳の少年が現れ、「召使いにしてほしい」と頼んだ。この少年はよく気が付き、信玄の考えを先回りして望むものを用意するなどしたため、信玄はこの少年を気に入り、やがて側近として召し抱えることにした。
ある夜、信玄がその少年に茶を煎れさせていると、外で10人ほどの人間が口論の末に武器を取って打ち合う音が聞こえてきた。それらの声が信玄の部下の誰のものでもなかったため、信玄は少年に弓を用意させ、音のする方に矢を射った。すると驚いた声がして、すぐに何の音も聞こえなくなった。
信玄は「これは天狗の仕業であろう。私が軍事や戦術のことばかりに明け暮れているので、天狗どもが私を試そうとしたのだ。あやつらは全く人ではあるまい」と告げると、少年は「仰せの通りにございます」と言って消えてしまった。
信玄は「やはり魔の所業であることに疑いはない。油断してはならぬな」と心を改めたという。
上杉謙信(1530~1578年)
戦国時代の武将。越後国の大名であり、戦や政治だけでなく産業の振興にも力を入れたことで知られる。宿敵である甲斐国の大名・武田信玄とは、川中島の戦いで五度にわたり戦った。だが信玄が同盟国から塩の輸出を止められた際には越後の塩を送ったという逸話もあり、これが「敵に塩を送る」という故事の由来となった。
越後の虎と妖怪
石川県には以下のような伝説が残る。
謙信が能州を侵略した際、羽咋郡一ノ宮村(現羽咋市の一部)の城にこもっていた僧兵が、落城と共に海に没した。以来、その近辺では全く風のない日でも海鳴りが聞こえるようになり、これは僧兵の悲鳴だと考えられたという。また、この海鳴りを起こす妖怪は「海鳴り小坊主」と呼ばれている。
また『異説まちまち』には、ある夜、謙信が雪隠に行った際に大山伏が出現し、謙信がにらみつけると消え失せたという記述がある。だがそれ以来謙信は病気がちになり、ついには亡くなってしまったとされる。
他にも新潟県には、林泉寺の釣鐘が赤坊主という妖怪に盗まれた際、側近の小島弥太郎に命じて取り返させたという伝説が残る。
歴史人物怪異談事典
いまも祟り続ける大怨霊・平将門、髑髏と成り果てた小野小町、美少年天狗に試された武田信玄、池の水を全部抜いた織田信長、徳川家康のもとに現れた謎の「肉人」……。教科書には決して載らない、500名以上の歴史人物にまつわる怪しい話を集めた『歴史人物怪異談事典』。怪談や妖怪、都市伝説が好きな人にも、日本史が好きな人にもオススメの本書より、怖くて面白いエピソードをいくつかご紹介します。