いまも祟り続ける大怨霊・平将門、髑髏と成り果てた小野小町、美少年天狗に試された武田信玄、池の水を全部抜いた織田信長、徳川家康のもとに現れた謎の「肉人」……。教科書には決して載らない、500名以上の歴史人物にまつわる怪しい話を集めた『歴史人物怪異談事典』。怪談や妖怪、都市伝説が好きな人にも、日本史が好きな人にもオススメの本書より、怖くて面白いエピソードをいくつかご紹介します。
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織田信長(1534~1582年)
戦国時代から安土桃山時代にかけての武将。桶狭間の戦いで今川義元を打ち破るなど、数多の戦を制して尾張国を平定する。その後室町幕府を滅ぼし、天下統一を目前としたが、明智光秀の謀反に遭う。そして本能寺の変で自害し、生涯を閉じた。
ホームシックの大蘇鉄にビビる
自身が第六天魔王(仏教における欲界、すなわち第六天の悪魔のこと)と称される人物であるが、妖怪を恐れたエピソードが残っている。
大阪府妙国寺に現在も植えられている「大蘇鉄」は、かつて織田信長によって安土城へと移植させられたことがある。しかしこの大蘇鉄は夜になると「妙国寺に帰りたい」と呻き声を上げるようになった。臣下の蘭丸に見にいかせるも、一向に泣き止む気配がない。
信長は臣下にこの大蘇鉄を斬りつけるよう指示したが、斬りつけた場所からは鮮血が噴き出し、なおも妙国寺に帰りたいと言う。
さすがの信長も怖くなり、この大蘇鉄を急いで妙国寺に返したと伝えられる。
月岡芳年の『和漢百物語』では、蘭丸と信長がこの大蘇鉄に怯える姿が描かれている。
大蛇を探して池の水を全部抜く
また『信長公記』には以下のような話が載る。
佐々成政の居城である比良城の近くの池に大蛇が出たと聞いた信長は、池の水を全てかき出して大蛇を捕まえるよう命じる。しかし池の水は7割ほど減った後、一向に減らなくなったため、自ら脇差を口にくわえて池に潜り、大蛇を探したが、結局見つからなかったという。
豊臣秀吉(1537~1598年)
戦国時代から安土桃山時代にかけての武将。尾張国の下層民の家に生まれるが、後に織田信長に仕官し、やがて頭角を現して信長に気に入られ、有力武将の一人となる。信長が明智光秀の謀反によって倒れた際はすぐに明智軍を倒し、信長の後継者としての地位を確立した。
その後大坂城を建立し、全国の武将たちを滅ぼし、または服従させて天下統一を成し遂げる。刀狩りや太閤検地などの政策を行い、国外に向けては宣教師の追放や朝鮮出兵などを行ったが、二度目の朝鮮出兵の最中に生涯を閉じた。
娘かわいさに稲荷大明神を恫喝
秀吉には前田利家から養子に出された豪姫という養女がいた。妻の寧々との間に子どもがなかったこともあり、夫婦共にこの娘を溺愛していた。しかし豪姫は病弱で、結婚後出産する度に大病にかかっていたため、秀吉が僧や賢者を集めてその原因を探ったところ、狐が憑いているためだと診断された。
秀吉は伏見稲荷大社まで自ら赴き、伏見の稲荷大明神宛に「豪姫を解放せねば毎年狐狩りを命じて、日本中の狐を殺してやる」と書をしたためて恫喝した。
そのおかげか無事豪姫は快復するが、それから半年もたたぬうちに秀吉と利家は相次いで亡くなってしまったという。この死が稲荷大明神の祟りであったのかは定かではない。
『老媼茶話』にも、同様に稲荷神に日本中の狐を狩ると宣言する話が記されているが、こちらでは狐に憑かれるのは豪姫ではなく秀吉に仕えていた女中とされている。
榎に落ちてきた雷神
『怪談百物語』によれば、秀吉が姫路城に在城していた頃、夏に雷が落ちて城の敷地内にあった大きな榎を真っ二つにした。
その榎の間には雷神が挟まっており、雷光を放つので人々は恐れて近づけなかったが、秀吉だけは恐れずに近づき、雷神に向かって「雷は陽気であり、夏の始めに起こって五穀の成長を助けるという。にもかかわらず、どうしてこのような怪事を起こしたのか、納得しがたい」と問うた。
すると雷神は「いかにも私は陽の徳を備え、五穀を実らせ、人の善悪を正す神だ。この榎の内に毒竜がおり、人民に災いをなそうとしていた。故にこの榎を狙って落ちたのだ。しかし目測を誤り、毒竜によってこの榎に捕らえられてしまった。願わくは、私を天上に帰してほしい。さすれば恩に報いよう」と答えた。
そこで秀吉は家来を呼んでこの榎を割らせ、雷神を天に帰してやった。このおかげで秀吉は天下統一をなすほどの力を得ることができたのだという。
歴史人物怪異談事典
いまも祟り続ける大怨霊・平将門、髑髏と成り果てた小野小町、美少年天狗に試された武田信玄、池の水を全部抜いた織田信長、徳川家康のもとに現れた謎の「肉人」……。教科書には決して載らない、500名以上の歴史人物にまつわる怪しい話を集めた『歴史人物怪異談事典』。怪談や妖怪、都市伝説が好きな人にも、日本史が好きな人にもオススメの本書より、怖くて面白いエピソードをいくつかご紹介します。