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文化系ママさんダイアリー

2010.05.01 公開 ポスト

第五十一回

「タコ公園から考える公園遊具問題」の巻堀越英美

 最近、「ノマド」なるワークスタイルが注目を集めているそうだ。iPhoneや無線ブロードバンド、ネット経由でビジネスアプリが利用できるクラウドコンピューティングが普及してきたおかげで、オフィスにへばりつかずとも遊牧民(ノマド)のように好きな場所と時間を選んで仕事をすることが可能になったビジネスマンが増えているらしい。

 そういうことなら、私だってノマド育児を実行中である。とくにiPhoneを購入してからというもの、育児サードプレイスが飛躍的に拡大した。早い話が、iPhoneのGPSマップ機能のおかげで道に迷わなくなったので、半径3キロ圏内の公園をママチャリで行き倒しているというだけなんですけれども。ネットで見つけた面白そうな公園を片っ端からGoogleマップに登録し、一つずつ踏破していくという地味にもほどがある楽しみ。子が夢中になるほど難しすぎず易しすぎない遊具を求めて、ママ友知らずのライク・ア・ローリング・ストーン生活。うまいこと子どもがハマる遊具があれば、私は読書……は今のところ果たせぬ夢だが、なんちゃってヨガで時間をつぶせる。あの変なポーズばかり決めている怪しいおばさん誰?と不審人物扱いされないためにも、一つの公園に定住しない生活は好都合なのだ。転がる母子に苔は生えない。娘もまだ人見知りが始まる前は、どの公園に行っても赤ら顔のオッチャンたちをめざとく見つけては、「こんちゃー」と近寄って酒のつまみのスナックをせしめるという特殊能力を発揮していたものである。

 ところであちこちの公園を流して思ったのは、しばしば目にする「すぐに訴えるバカ親のせいで、公園から遊具が消えている。今どきの公園ではボール遊びもできない」系の言説が、少なくとも都市部の住宅街では当てはまらないということ。遊具、消えてないし。普通にボール、飛び交ってるし。確かに独身時代に目につく公園と言えば、会社の近くにあるベンチのみの小公園や、一人暮らし向けの賃貸物件が多い学生街の公園ぐらい。ああいう公園には、子供たちはあまり寄りつかない。きっと都会のド真ん中で社会の木鐸をジャンジャカ鳴らすことに忙しすぎて育児に関わるヒマのないメディアの皆さんも、そのような公園しか目にする機会がないのだろう。

 私の子ども時代と比べても、最近の公園はすごい。そもそも昔は住宅街の公園にターザンロープや木のアスレチックなんて高級な遊具はなかった。せいぜいシーソー、ブランコ、すべり台、ジャングルジムぐらい。どれもすぐに飽きてしまう単純遊具なので、私たちはブランコの太い支柱によじのぼってすべり台のように滑走したり、フェンスの上を綱渡り感覚で歩いたり、3階建てビルほどの高さの岩山でロッククライミングをしたりと危なっかしいことばかりしていたものである。子どもがすぐに危ないことをしたがるのは別に死の欲動とか大人へのレジスタンスとかいうややこしい理由ではなくて、昨日までできなかったことにチャレンジしてみたいという単なる攻略欲なのだから、攻略欲を刺激し、かつ安全性を考慮した遊具があるならそれに越したことはない。子どものうちから危険行為に慣れさせておいたほうがたくましく育つ、というのも一理あるのだが、安全のために付き添いを余儀なくされる親としては、「万が一死んでもいいからどんどん危ない遊びをしなさい」とは、ちょっと言えないのである。たくさん生んで半分成人すれば御の字という時代ならいざ知らず。

 危険性のために今の公園から消えつつある遊具の代表格というとシーソーだろうか。しかし虚心坦懐に考えてみてほしい。シーソー、面白かったですか? 私はシーソーで夢中になって遊んだという記憶がない。どれだけ力一杯キックしても上がる位置はいつも一緒。スピード感もチャレンジ要素もゼロ、どこにも行けない閉塞感ナンバーワンの遊具だ。せいぜい、シーソーの上に立ってバランス感覚を競って遊ぶくらい。これも大人がいたらすぐに止められていたかもしれない。

 逆に昔の公園になくて、今の公園の定番になっている遊具というと「複合遊具」。最近リニューアルされたばかりの公園には必ず設置されている。

横浜某所の複合遊具

 小学生主体の公園では砂場に追いやられていた乳幼児たちも遊べるので、小さい子のいる親にはありがたい存在だ。同様に、高齢者向けの健康遊具も増えてきた。これだっていいことには違いない。

 一方で、やっぱり無くなるとさみしい遊具もある。それは、コンクリート製の謎の生きもの。

飛鳥山公園のカバ

 積極的に撤去されることはないのだろうが、リニューアル間もない公園を訪れるとだいたい消えている。仕方がない。意味がわからないもの。しかし意味がわからないだけに味があって、むざむざ無くすには惜しいと思わせるのだ。

 そんな折、2駅ほど先にある通称“タコ公園”のリニューアルが今春完了したと聞き、さっそく娘と散歩がてら見に行ってみることにした。

工事中のタコ

 タコ型すべり台のインパクトが強すぎるため、正式名称で呼ばれることのないタコ公園。調べてみるとこのタコ型すべり台、約40年ほど前から全国に存在するらしい。前田環境美術という会社の創業時、若い芸術家の卵たちが創り始めたのがタコの始原なのだとか。同社のホームページによれば「公園を改修する時「タコの山」だけは残してくれという住民の要請で残されたタコの山がいくつもあります」とのこと。ご多分にもれずこちらのタコも近隣住民の強い要望に応え、タコの形を残しつつ改修されることに決まったらしい。

「タコ型すべり台」ではなく「タコ」で通じるだろうという強気の張り紙。
大きな事を言うようですがこのあたりでタコといえば私一人でございます。

 そしてリニューアル後。目の覚めるようなピンクに塗り替えられたご神体、いやタコの姿がそこにあった。

愛されピンクで大人ガーリーに変身。
新たに設置された車いすやベビーカーの人が遊べる小山もやっぱりタコ仕様。

 どうだろう、このタコの愛されぶり。愛される遊具とは何か。いや、デザインとは何か。我々に訴えかけてこないか。

 そういえば、この公園にはもう一体気になる生きものがいたのだった。

あちこちかわいそうなことになっている砂場のタヌキ。

 今となっては誰も近寄らないコンクリート製タヌキだが、娘はなぜか気に入って砂ダンゴを食べさせようとしたり、さみしい頭に枯れ葉を載せて増毛したり、何かと面倒を見ていたのである。さて、彼の姿はいずこ。

 あー、やっぱり消えてますよねー。ですよねー。

 危険だからという理由であっさりクビになる遊具、老朽化しても愛されスキルの高さで生き残り続ける遊具、別に危険でもないのに窓際族のままいつの間にか公園デビューならぬ公園リタイアしている遊具。公園の中の生存競争も、ビジネスマンの世界なみにせちがらいのだった。 

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文化系ママさんダイアリー

フニャ~。 泣き声の主は5ヶ月ほど前におのれの股からひりだしたばかりの、普通に母乳で育てられている赤ちゃん。もちろんまだしゃべれない。どうしてこんなことに!!??

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堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業。IT系企業勤務を経てライター。「ユリイカ文化系女子カタログ」などに執筆。共著に「ウェブログ入門」「リビドー・ガールズ」。

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