加速するDX時代においては、過去に学んだことの賞味期限はどんどん短くなっていきます。
DX、AI、SDGs、MOTなど、わかっているようで理解できていない言葉の数々、さらにデータの正しい捉え方やエネルギー革命など、現代を生きるビジネスパーソンとして必要なテーマをまとめた一冊『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』の刊行を記念して、内容を一部抜粋してお届けします。
11月5日には、丸善ジュンク堂書店オンラインイベントも開催いたします。学び直しのための情報満載です。ぜひご参加下さい。
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ソーラー・風力など再生可能エネルギーのコストは安くなっているのか
再生可能エネルギー(主にソーラー、風力)のコストは従来のエネルギー(化石、原子力)に比べ、安くなったでしょうか。
発電に関しては、資産運用会社であるラザード社が毎年発表する調査が参考になります。ラザード社は2009年以降、世界中の新規の発電施設の総原価(資本コスト+ランニングコスト)を1キロワット時(kWh)に換算して比較しています(図表25)。石炭の発電コストは、2009年は1kWh当たり11・1セントでした(これは、外部不経済である公害が入っていない計算です)。2020年になっても、ほぼ同じです。原発はコストが上がってきました。一方、風力は13・5セントから4・0セントへ、PVソーラー(太陽光パネル発電)は35・9セントから3・7セントになりました。すなわち、再生可能エネルギーが化石エネルギー、原子力発電より安くなっているのです。
一方、日本におけるPVソーラーの発電コストは海外に比べて相変わらず高いままです。
経産省の2020年11月の資料によれば、2020年上半期の世界のPVソーラーの発電コスト5・5円に比べて、日本は13・2円です。これだけの差異が出るのはなぜなのでしょうか。
経産省の説明によると、一つは土地造成費用です。傾斜が厳しいところでソーラーパネルを置くには費用がかかるため、平地の少ない日本では高コストになりがちなのです。
次に、中小建設会社が参入しにくい状況となっており、高いマージンを取る大手ゼネコンが主になっていることです。
さらに、ソーラーパネルを固定する台の設置基準、自然災害、電気主任技術者の不足も高コストの要因です。
しかしながら、この説明には、役所文書によくある「なんでできないか」の本当のところが見え隠れしています。日本国の技術力と創意工夫意識を刺激すれば、克服できるはずなのです。やる気の問題です。
台風にも負けない浮体式洋上風力発電の開発
海外と日本のコスト差を縮小する方法は、いくつか考えられます。日本の国土面積の約1割を占める所有者不明の土地を、発電に転用することです。ただし、後日、真の所有者が判明した場合、争いとなるリスクがありますが、政府主導で法律を作り、眠っている土地を活用する方法はあるでしょう。
もう一つは農地の転用ルールを緩くすることです。最近の研究では、農地の上にソーラー発電施設を設置すれば、発電量も収穫量も増加する可能性が確認されています。つまり、外部不経済ではなく、「プラスの外部経済」を達成できる規制改革を行うのです。そのためには、農林水産省と、地方自治体を担当する総務省の協力が必要でしょう。
実は、ソーラーシェアリング協会がこのような農業を進めようとしています。再生可能エネルギーと地方再生を同時に実現する方法です。協会によると、実現するのに一番ハードルになっているのは、各地の農業委員会の手続きだそうです。手続きを合理化すれば、一石二鳥になります。
経産省では、2030年にはソーラー発電コストは5・8円まで低下すると見込んでいます。海外との差は依然として残りますが、十分に化石燃料による発電に勝てる水準です。世界各国の科学者がPV技術の研究を進めているので、さらに早く、安くなる可能性もあります。
PVソーラーだけではありません。風力も安くなっています。陸上風力だけでなく、洋上風力もあります。日本の場合、海が急に深くなるので海底に直接設置することは難しいのですが、海上に浮かべた構造物を利用する「浮体式洋上風力発電」が有望です。IEA(国際エネルギー機関)によれば、日本の洋上風力の潜在容量は、今日本が利用している電力のなんと9倍(!)もあるそうです。
日本の企業がすでに、日本ほど海が荒れず、建設コストが日本ほど高くない台湾、米国、欧州の浮体式洋上風力発電プロジェクトに参加し、経験を重ねています。国内でも、五島列島沖の浮体式洋上風力発電の施設で実際に試しています。
なお、これまで風力発電の課題とされてきた台風に対しては、「クラスT」と呼ばれる台風に耐えうる規格の風車が開発されてきています。再生可能エネルギーにおいて、第一の教訓である「安いものが勝つ」という条件は、日本人の多くが思っている以上に達成されつつあるのです。
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続きは書籍『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』でお楽しみ下さい。
盾と矛
テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。