小説を書くのははじめて。もちろん出版もはじめて――。
そんな素人集団が執筆中の小説に1300冊分以上の支援金額が集まり、話題となっている。
小説のタイトルは『負けるデザイン』。
本作は、今年3月に出版され、Amazonデザイン書籍部門1位、4刷りのベストセラーとなった『勝てるデザイン』の兄弟作だという。どういうことか、プロジェクトを主宰するオンライン・コミュニティ「前田デザイン室」代表の前田高志さんに聞いた。
――『負けるデザイン』とは?
「『勝てるデザイン』は、デザイン書としてはもちろんビジネス書としても多くの人に手に取っていただけて、非常に良い手ごたえがありました。でも、ビジネス書、そして商業出版という枠組みでやる以上、「大人の事情」から泣く泣く削ったエピソードがたくさんあります。その多くは私の失敗談なのですが、客観的に見ても、悩んでいるデザイナーに伝えたらきっと役立つものに違いないと。コミュニティのメンバーも乗り気になってくれたので、じゃ、出そう、と決めました」
――小説にした理由は?
「もろもろをぼかしてビジネス書として書くことはもちろんできます。でも、それでは単純に『つまらないな』と。自費出版を何度か経験しているとはいえ、出版素人の我々がやるのだから何かぶっ飛んだことをしなければ世間の興味は奪えない。そこで、小説にすることにしました。執筆は小説を初めて書くメンバー、しかも複数で。既視感がなくてこれはいける、と思いました」
――出版形式について教えてください
「2019年に発足した『EXODUS(エクソダス)』の篠原編集長に声をかけていただきました。エクソダスは、クラウドファンディングを利用したオープンな出版を目指すプラットフォームです。合言葉も『出版の常識をぶった切る』ということで、このプロジェクトにぴったりだなと。さらにEXODUSで出せば、原稿をプロの編集者がチェックしてくれます。素人が書くことに意味はありますが、とはいえ質は担保したい。そんな我々にぴったりでした」
――苦労していることは?たくさんありそうですが…
「いや、本当にたくさんあるんですけど(笑)まずは、1000冊分(金額にして250万円)集められなければ、出版はボツ、という縛りを自分たちに課しました。昨日(※編集部注:10月28日)無事に達成できたのですが、ここ一週間は生きた心地がしなかった。というのも、出版スケジュールから逆算すると、10月中には一度原稿をアップしなければいけなかったのです。つまり小説の執筆はもう佳境。メンバーも士気が高いです。それなのにお蔵入りとなったら……どぶ板営業に精を出しました(笑)」
――PRの方法は?
「Twitterを主に使いました。もうそれこそ『こいつウザい』と思われるくらい(笑)でもそのくらいやって、やっと1投稿をみてもらえる程度だということは今までの経験で分かっていたので、臆せずやりました。あと、動画が必要だと思い、メンバーに頼んでクオリティの高いPR動画を作りました。公開後に一気に伸びた気がするので、かなり効果が高かったです。あとは、地道ですが周りの方への声掛けですね。会う人には必ずプロジェクトのことを伝えましたし、それはメンバーたち一人ひとりも同じだったと思います」
――制作方法について教えてください
「Discordというチャットアプリを使い、進めました。まずプロジェクトのリーダーを決めて、その後、オンラインでのキックオフミーティング。エピソードの選定、それぞれの執筆者決定、プロットのやりとり、主人公や脇役たちの性格や容姿、登場するデザイン事務所内観の様子、などなど……、細かいところまでスレッドを立てて鬼のようにチャットを繰り返し決めていきました。エピソードごとに執筆者が違うので、トンマナにも気を配れるように。メンバーにはデザイナーも多いので、たとえば事務所内観などはすぐに『こういう感じ?』とパースが送られてきたりして、視覚的に進められたのはよかったですね。あ、もちろん装丁もメンバーが作っていますよ」
――ありがとうございます。最後に購入を迷っている方にメッセージを。
「『負けるデザイン』の最低支援金額は2,500円です。正直、1冊の小説としては高いと思います。でも、僕の恥部、もっとも出したくないところを出しました。さらに、メンバーが書いていることで、それぞれの悩みもすべてぶち込んだ、お仕事小説になっています。主人公はデザイナーですが、きっとどんな職種の方の心にも刺さると確信しています。そしてこの本を購入していただいたら、特製のフォントを無料でプレゼントします。フォントってデフォルトのものばかり使われがちですが、ちょっと違うものを使うと企画書でもプレゼンでも効くので、ぜひこれを機会に使ってみてほしいなと思います」
――ありがとうございました。
* * *
これまでと違うアプローチ、違う制作方法で執筆される小説『負けるデザイン』。クラウドファンディングの終了は、明後日10月31日(土)だ。追加販売は予定しておらず、この日を過ぎたら絶対に手に入らないという。
気になった方はクラファンページをのぞいてみてほしい。(編集部K)
お問い合わせはこちら ⇒ 前田デザイン室公式メール:mae-d@takashimaeda.jp
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勝てるデザイン
デザインはデザイナーだけのものじゃない。ビジネスマンはデザイナーの思考と技術を知れば、より売れる・刺さる・勝てるコンテンツを作ることができる。人気クリエイティブ集団「前田デザイン室」を率いる元・任天堂デザイナーが書く、デザインのすべて。