あのネオンの向こうでは何やらよからぬことがなされてるに違いない。あの交差点で声をかけている男は悪い勧誘をしているに違いない。大型ビジョンに映るあんな可愛い顔しているアイドルだって裏では何してるかわからないし、街頭で偉そうなことを言っている政治家だって本当は怖い人なんだろうなぁ……。
東京の大都会を歩いていると、ふとそんなことを考えずにはいられない。見知らぬ人が大量に生きているこの巨大な街では、「普通に」よからぬこと、いかがわしいこと、ひどいこと、胡散臭いことが日常茶飯事に行われていそうな気配が漂う。街が綺麗であればあるほど、余計に汚い部分を想像してしまうのかもしれない。
そんな誰もが一度は想像したことがある、でも決して個人的には関わりたくない「東京の裏側」がこれでもか!と描かれている小説がある。新野剛志の最新文庫『ヘブン』である。
東京の裏社会に自らの王国を築いた「武蔵野連合」、真嶋貴士。後ろ盾のヤクザに歯向かい東京を牛耳る企みは大抗争の末、破綻。数年後男の姿は、タイのジャングル、麻薬王のアジトにあった。クスリ漬けの芸能界、アイドルの売春、政界との癒着、没落した半グレ、宗教団体の罠、暴力団の報復……。腐り切った悪に勝てるのは悪しかない。王者の復讐が今、始まる。(『ヘブン』あらすじより)
小説だけれど、こんなことが現実で行われていないという証拠なんて何もない。読めば読むほど「なんか本当はこんなことになってそう」と思えてきてしまう。それはきっと、東京という場所が「なんでもあり」な、それでいて、誰か私たちが知らない絶対的王者に支配されてそうな孤立した「王国」みたいな存在だからかもしれない。
岸川昇は、リストラにあい失業中。偶然再会した中学の同級生、真嶋は「武蔵野連合」のナンバー2になっていた。真嶋に誘われ行った六本木のクラブでは有名人たちが酒と暴力と女に塗れ…。そんな中、泥酔し暴れる俳優に真嶋が「自分で顔をナイフで切れ」と迫る―。絶叫と嬌声と怒号。欲望を呑み込み巨大化するキングダム。頂点に君臨する真嶋は何者か。(『キングダム』あらすじより)
『ヘブン』の前身の小説『キングダム』にも登場する真嶋貴士は「武蔵野連合」という半グレ集団のNO2である。東京という王国の王者である。SNSでは彼に関する噂が虚実入り混じって溢れている。
アイドルとやってる。麻布の豪邸に住んでる。クロムハーツの指輪をしている。コーラはペプシをのむ。一流の大学に通っていた。父親は商社マン。車は三台保有。抗争相手の暴走族は二度と歯向かってこないように残虐に痛めつける。肛門を剃刀で切り裂く。金属バットを頭に振り下ろす。排泄物を食べさせるーー。
こんなやついるなずがない。小説の中だけの話ーーだろうか。
毎日が退屈で、むしゃくしゃしてて、悶々としているあなたの知らないところで、本当にこんな衝撃的なことが起こっているかもしれない。そう考えると、関わりたくないけど、ちょっと覗いてみたい……と思うのが人間の性。
『ヘブン』の試し読みで、そんなあなたの知らない世界を楽しんでみてください。いつもの通勤時間やお家時間が、とんでもない刺激で溢れます。
(編集部)
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ヘブン
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