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ボクもたまにはがんになる

2021.11.14 公開 ポスト

「第5章 頴川先生について」より

もし医者になれるんなら、麻酔科医がいいな。三谷幸喜/頴川晋(東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授)

大河ドラマ「真田丸」執筆中に前立腺がんの手術をした脚本家・三谷幸喜さん。その体験から「前立腺がんって実は、まったく怖くない」と実感、「前立腺がんのイメージを変えたい」と主治医・頴川晋先生(東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授)との対談本『ボクもたまにはがんになる』を刊行。そこから、お二人の楽しいやりとりを少しご紹介します。

内科頭と外科頭

三谷 素朴な疑問ですが、医師になるために医大に入ったときに、どのジャンルに進むのか、皆さん決めていないんですか。

頴川 よほどの決意がない限り、ほとんどの学生は決めていないと思います。入学したてなんて、18、19歳でしょう。その歳で自分がどの専門が向いているかなんて、わからないですよ。卒業までストレートで6年。その間に授業や実習で総当 たりして、どこにいくか決めるわけです。

三谷 そもそも、なぜ、医者を目指したんですか?

頴川 単純に、父親が内科の医者だったんです。ただ、家業を継ぐという感覚ではなくて、物心ついたときにはなんとなく医者になるんだという感じです。父は 慈恵医大の卒業生ですが、何か思うところがあったのでしょう、大学卒業後すぐに岩手の山あいの診療所に赴任しました。その後、一家で静岡に転居する直前に は、北上から11キロ奥に入った口くち内ない町の診療所に勤務していました。当時を推察 するに、26歳の青年医師であった父はそれなりに大きな決断をしたんだと思いま す。相当長く岩手にいまして、私が卒業した大学も岩手医科大学です。

三谷 お父様は内科ですが、内科への興味はなかったんですか。

頴川 大まかにですが、内科頭あた、ま外科頭というのがあって。

三谷 文系、理系みたいなもの?

頴川 まあ、そうですね。内科頭は、我慢して辛抱強く収穫を待つみたいなイメージで、なんというか、薬の処方や診断など、チマチマとじっくり考える緻密な タイプ。一方、外科頭は、右から左にものを動かすことや、体を動かすことが好 きなアバウトなタイプ。考えるより行動するというイメージです。これはあくま で私のことなんですが(笑)。

三谷 意外です、先生はじっくり考える緻密タイプかと。

頴川 いや、せっかちですよ。クイズの答えは早く知りたいし……。

三谷 推理小説も犯人が知りたくて後ろから読むタイプですか。

頴川 はい(笑)。テレビで推理ものを見ていても、家内に「で、誰が犯人なんだ?」とまず聞きます。

三谷 脚本家としては納得いかない部分はありますけど。

頴川 とにかく自分は、性格的に内科には向かないな、と思っていましたね。

麻酔科医と諸葛孔明

三谷 もし医者になれるんなら、僕は麻酔科医がいいな。勝手なイメージですけど、手術の際、端っこにいるんだけども実は一番力をもってるみたいな……。憧れます。

頴川 確かに、ドラマ「ドクターX」でも麻酔科の先生が切り盛りしていますね。

三谷 手術の続行なども、麻酔科医の人が決めたりしますよね?

頴川 確かに、麻酔科医が「ストップ」ということはあります。それにしても、三谷さんの憧れが麻酔科医とは意外でした。

三谷 実は以前、医者のドラマを書いたときに麻酔科医について調べたんです。もともと三国志でいえば諸葛孔明が好きで、麻酔科医と孔明はちょっと重なるところがあって。縁の下の力持ち的な立ち位置がかっこいいなと。

頴川 なるほど、派手ではないですよね。

三谷 さりげなく横にいて、でしゃばらないけれどみんなから信頼されているというポジションがいいですよね。

頴川 麻酔科医はすごくテクニカルな領域で、普通の手術の麻酔だと差はあまり出ませんが、難しい心臓の手術では、技術の差が一目瞭然です。技量をもってい る麻酔科医はかっこいいですし、それこそひっぱりだこです。

医者のモチベーション

三谷 麻酔科医になろうと思ったことはないんですか。

頴川 これは聞いた話ですが、麻酔科医ならではの悲哀というものがありまして。まず、おっしゃるとおり、縁の下の力持ち的なポジションです。よって、ものす ごく下手な人が手術をしていると、時間がかかるじゃないですか。その長い手術に、ずっと付き合わなきゃいけない。本心は、早く麻酔を醒まして帰りたいわけですよ。いつまでやってんだ、と。

三谷 せっかちな先生には向かないということですね。

頴川 それから、医者というのは基本的に何がモチベーションになっているかというと患者さんの「ありがとうございます」というひと言だと思うんです。その 言葉に、すべてが報われるというか、医療者としての喜びが集約しています。麻酔科医だとどうしても患者さんとの触れ合いが少なく、その手ごたえが得られにくいと思っていて。

三谷 納得しました。今から僕が麻酔科医になることはできるんでしょうか。

頴川 もちろん。

三谷 勉強すれば。

頴川 もちろんですよ。

三谷 自信はあるんですよ。

頴川 まず医大に合格して、6年間大学に通って、医師の国家試験を受けていただいて。

三谷 ……できるかな。

頴川 皆さんびっくりするでしょうね、三谷さんが麻酔科医に華麗に転身。

三谷 でもなぁ、逆に自分が患者で、オペ室に入って僕がいたらイヤかもしれない。この人に託して大丈夫かなって。

関連書籍

三谷幸喜/頴川晋『ボクもたまにはがんになる』

前立腺がんって実は、まったく怖くない。 大河ドラマ「真田丸」執筆中に前立腺がんの手術をしていた脚本家・三谷幸喜と、おだやかで頼もしい主治医・頴川晋による、笑ってためになる、そしてがんのイメージが変わる、縦横無尽の対談集。

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