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警察の階級

2021.11.28 公開 ポスト

「警部補」古畑任三郎が「警部」になるにはこんな試練が待っている古野まほろ(小説家)

「巡査長」両津勘吉、「警部補」古畑任三郎、「警部」杉下右京、さらには「警視総監」「警察庁長官」……。このように、すべての警察官には階級・職名が与えられています。でも、それぞれの地位や任務、配置、待遇、昇進のしくみなどを知っている人は少ないのではないでしょうか? 元警察官僚のミステリ作家、古野まほろさんの『警察の階級』は、そんな警察組織の全貌を徹底解説した一冊。「警察モノ」好きなら必読の本書から、一部を抜粋します。

※なお、記事とするに当たり、太字化、改行、省略などの大幅な編集を行いましたので、著者の原稿とは異なる部分があり、その編集による文責は幻冬舎にあります。

*   *   *

試験に合格して終わりではない!

警部に任用される条件も、警部試験に合格することです。試験には一般試験と専門試験があり、試験以外には昇任選考があることは既述しました。

(写真:iStock.com/taa22)

その警部試験ですが、これまで同様、前の階級に一定期間在級していなければならないという縛りがあります。しかし今度は、学歴別要件ではなくなります。すなわち、

・一般試験にあっては、警部補の階級に4年以上在級していること

・専門試験にあっては、警部補の階級に8年以上在級していること(前章の『上席係長』等となっていることも要件とする場合あり)

といったところが受験資格で、その試験の内容はやはり『予備試験(SA)-第1次試験(論文)-第2次試験(面接・術科)』とこれもこれまで同様なのですが、警部試験の特徴としては、一般試験・専門試験の双方において

(1) SAの科目が全部/一部省略されることがある

(2) 論文の科目に『警察管理』『管理論文』といった科目が加わる(既に警部補試験で加えていることもある)

(3) 論文の、基礎法学の科目が一部免除されることがある

(4) 論文の、警察実務の科目が一部免除されることがある

(5) 社長面接(警察本部長面接)が加わるほか、面接の配点が大きくなる

などの諸点が挙げられます(ローカルルールも強く左右します)。

 

あと、そもそも専門試験においては、警察実務の科目が1科目にまで縮減することは既述のとおり。さらに、昇任試験ではない『昇任選考』にあっては、警部補在級10年以上・年齢50歳以上、あるいは同10年以上・同55歳以上といったところが要件とされています。

警部試験の合格率も、都道府県警察によって実にかなりのバラツキが見られます。サンプルを採ると約5%のところが多いようですが、都道府県警察によっては約8%、はたまた約15%、あるいは約22%なる数字を叩き出しているところもあり、このあたり、各都道府県警察による人事政策の在り方や試験のローカルルールに起因する差異があると思われます。

 

警部試験に合格すれば、これまた昇任時教養が待っています。すなわち警部に昇任した/昇任する者は、漏れなく義務的に、今度は国の警察大学校において(味の素スタジアムの近くです)、警部任用科なる3か月の全寮制教養を受けなければなりません

もっとも、年齢的な事情等に鑑み、そこまでの教養は必要ないと判断された警察官は、この懲役3か月罰金100万円などと称される(酒量等によっては罰金300万円以上かも知れませんが……)プログラムを経験せずにすみます。このときは、場所こそ同じ警察大学校ですが、警部任用科特別短期課程と称される、2週間の入校・入寮となります。

「警部任用科」に力を入れる理由

警部の教養制度は頻繁に変わっていますが(6か月→4か月→3か月など)、この、日本全国から警部になる警察官を集結させて実施する教養は、警察大学校の本務であるとともに、日本警察の教養の最重要プログラムです。

(写真:iStock.com/akiyoko)

そもそも警察大学校は、警部を教育訓練するための施設であることが本旨です(ゆえに警部任用科のことを本科/本課と略称したりします。例えばキャリアは最初から警察大学校に入りますが、それはぶっちゃけ脇役です)。

では何故、警部任用科がそれほど重要かというと――ノンキャリア警察官にとって、全国のあらゆる都道府県の警察官とともに教養を受けるのは、実はこれが初めての経験となるからです(これ以前の昇任時教養は関東、近畿、九州といったブロックごとのものでしたね)。

また、ノンキャリア警察官にとって、すなわち巡査から叩き上げてきた警察官にとって、警部=上級幹部=管理職になるというのは、とうとう実働員から卒業するということですから、警察人生における最大のイベントの1つ。名誉であり、意気に感じ、しかし未知の上級幹部職に対する不安があります。それは全国どこの警部でもそうです。

まして、A県の警部はそれまでずっとA県警察で育っており、A県警察のローカルルール以外は知りません。事情はB県の警部でもC県の警部でも一緒です。本書の、昇任試験に関する諸々の説明からも解るとおり、実は日本警察の制度は、法令に基づくもの・根幹的なもの・基準となるものは別論、具体的になればなるほどローカルルールに委ねられている面があるのです。

そうした観点からは、いよいよ一度に全国の警部を400名ほど集め、「えっウチの県ではこうだよ」「えっそんな事件処理ができるの」「えっその法律はそんな風にも使えるの」といったカルチャーショックを与えること、よりよい制度・運用を討議させ考えさせ体得させること、そして全国警察に警部同期・人脈を作らせることには、筆舌に尽くしがたい意義があります。

無論、近時における重要課題・重点項目を一気に共有させることができるというメリットもあります。警部として必要な知識技能を有しているかを最終確認することもできます。そんなこんなで、警部の任用の話をするとき、警部任用科は極めて重要なものとなります。実際、3か月では短すぎるほどです。

また、卒業試験は厳しく科目も多く、補講・追試はザラで、落第・退校もあり得ます。そして警察においては警察学歴がモノを言うので、最高学府たる警察大学校の警部任用科の成績は(最終評定、卒業席次など)、今後の昇任、今後の人事、今後の出向、今後の昇給等々にも響いてきます

関連書籍

古野まほろ『警察の階級』

「巡査」から「警察庁長官」まで。全ての警察官は11の階級等を与えられる。常に指揮系統を明確にすることで、どんな有事にも乱れなく対処できるようにしているのだ。各階級の任務、配置、処遇は? 昇任試験、人物選考、現場にこだわる職人肌警察官の救済法ほか、「人」だけが財産である警察の昇任の仕組みとは? キャリアがトップに上りつめるまでのルートとは? 元警察官僚のミステリ作家が、30万人を束ねるスゴい仕組み・「階級」の全貌を描きだす。『警察モノ』ファンだけでなく、全組織人必読の一冊。

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古野まほろ 小説家

東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書等多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。小説多数。

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