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東大教授が考えるあたらしい教養

2021.12.06 公開 ポスト

東大生が実践する「きちんとしゃべる」トレーニングとは藤垣裕子/柳川範之

かつて、「教養=知識量」だった時代がありました。しかし、ネットで検索すればあらゆる情報が手に入る今、その公式は崩れ去っています。では、現在における真の教養とはなんなのか? それを身につけるにはどうすればよいのか? 二人の東大教授が贈る『東大教授が考えるあたらしい教養』には、その要諦が詰まっています。仕事や人間関係にも必ず役立つ「あたらしい教養」を、ぜひ本書で身につけてください!

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「きちんとしゃべれる」とは?

東京大学の後期教養教育科目の一つである異分野交流論の授業で学生の様子を見ていると、授業を開始した時期と修了時期とでは「きちんとしゃべれるかどうか」に差がでてきます。

そして、これはそのまま、「思考を組み立てる力」の差にもなっていると感じます。

(写真:iStock.com/wnmkm)

「きちんとしゃべれる」というのは、「Aさんはそういうけれど、私はこう思う」ということを表明するとき、ただ「Aさんはダメだ」「Aさんは間違っている」というのではなく、「Aさんのいうことの、この前提部分に私は合意できない。なぜならば、私はこういう前提を持っているからだ。だから私の意見はこうだ」という建設的な批判ができることをいいます。

 

しゃべることに慣れていない学生は、「Aさんと自分の意見が違うな」と感じても、「なぜ自分は違うと思うのか」を言語化することができません。

そこで「ダメだ」「間違いだ」という感情的な表現に逃げることなく、「なぜ自分は違うと思うのか」を掘り下げて言語化することを積み重ねなくてはなりません。

ここは、訓練が必要なところです。「しゃべり方=思考の組み立て方」は、受け身で情報を受け取っているだけでは身につかないのです。

 

東京大学では、学生は授業で「しゃべり方」を身につけていきますが、日常生活の中でも訓練は可能です。

たとえば自分の友人や会社の同僚などと会話しているときに違和感を持ったり怒りを感じたりしたら、それを大事にしてください。

その場で「それは違うと思う」「不快だ」といい出せなかったとしても、その違和感や怒りをメモしておき、「なぜ違和感を覚えたのか」「なぜ怒りを感じたのか」を建設的な批判になるところまで分析してみます

そして、きちんと思考を組み立てることができたら、次に同じような違和感を覚える場面になったときに、それをしゃべってみましょう。同調圧力に負けず、建設的に議論しようと試みることなくして、考える力や教養は身につきません。

 

なお、「建設的な批判」をするときは、何を目的に考えるかを間違えないように気をつけなくてはなりません。

建設的な批判の形をとっていても、それが自己正当化だけを目的としていれば、建設的な議論はできないでしょう。

重要なのは、自己正当化だけでなく、「他者正当化」も同時にするという態度です。相手には相手の理屈があることを理解しようという姿勢がないと、思考の深まりに差が生じます。

他者正当化というのは、言い換えれば「相手の立場に立って考える」ということであり、それは本書で繰り返し述べてきた教養ある態度と同義なのです。

「しゃべること」で知識を整理する

相手の立場に立ってわかりやすくしゃべるというのは、なかなか難しいものです。

教員として学生に教え始めるときをイメージすると、誰しも最初は「どうすればわかりやすく伝わるか」を考えるのに苦労するものではないかと思います。

しかし「しゃべってわかりやすく伝える」ことも、意識的に実践し、繰り返しトレーニングすれば、徐々に慣れていきます。大切なのは、実践することです。

(写真:iStock.com/PrathanChorruangsak)

この方法は、誰でも実践可能です。

たとえば、自分が仕事で新しい知識を学んだときは、家族に話してみましょう。もちろん、「その道のプロではない人にとってわかりやすく整理して伝えるよう努める」ことが大切です。「え? それはどこがどうすごいの?」と聞かれたときに、きちんと「すごさ」が伝わるようにしゃべってみるのです。

しゃべってみると、相手が納得しないこともよくあるはずです。その「伝わらない」部分こそ、自分が本当には理解できていないことだったり、ロジックに穴があったりするところです。

それに気づいて学び直したり、理解を深めたりできるのも「しゃべること」のメリットです。

 

加えていえば、ひとりで言語化するのではなく「相手がいてしゃべる」利点は、リアルに反応が得られることにあります。

相手の立場に立ってしゃべっているつもりでも、相手にとってわかりにくければ、表情や反応からそれを察知でき、よりわかりやすくしゃべろうと工夫できます。

重要なのは、相手がどう反応するかより、「相手の反応に注意を向けながらしゃべる」ことです。

どのような場面でも、面白かったこと、すごいと思ったことは「なぜそう思ったのか」を異分野の人、その道の専門家ではない人にしゃべって説明するようにしましょう。

この日々の積み重ねにより、引き出しの整理が進んでいくことになるはずです。

 

相手の立場に立って話をすることは、知識を整理して「自分の引き出しにしまう」のと同じです。そして、「自分の引き出しに入っていること」は、いざ議論の場で活用するとき、相手の立場に立った情報提供につなげられます。

つまり教養の土台となるようなほんとうに活用できる知識を身につけることと、相手の立場に立って会話する力は、相互に強化される関係にあるのです。

関連書籍

藤垣裕子/柳川範之『東大教授が考えるあたらしい教養』

「教養=知識量」という考え方はもう通用しない。ネットで検索すればあらゆる情報が瞬時に手に入る今、知識量の重要性は相対的に低くなっているからだ。東大教授2人が提唱する教養とは「正解のない問いに対し、意見の異なる他者との議論を通して思考を柔軟にし、〈自分がよりよいと考える答え〉にたどり着くこと」。その意味するところは何なのか? どうすればこの思考習慣が身につくのか? 人工知能の発展が著しい現代だからこそ、人間にしかできない能力を磨く必要がある。その要諦が詰まった一冊。

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東大教授が考えるあたらしい教養

かつて、「教養=知識量」だった時代がありました。しかし、ネットで検索すればあらゆる情報が手に入る今、その公式は崩れ去っています。では、現在における真の教養とはなんなのか? それを身につけるにはどうすればよいのか? 二人の東大教授が贈る『東大教授が考えるあたらしい教養』には、その要諦が詰まっています。仕事や人間関係にも必ず役立つ「あたらしい教養」を、ぜひ本書で身につけてください!

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藤垣裕子

一九六二年、東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授。一九八五年、東京大学教養学部基礎科学科第二卒業。一九九〇年、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程修了。一九九〇年、東京大学教養学部助手。一九九六年、科学技術庁科学技術政策研究所主任研究官。二〇〇〇年、東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系助教授。二〇一〇年、同教授、二〇一三年、東京大学総長補佐。二〇一五年より東京大学大学院総合文化研究科副研究科長・教養学部副学部長。学術博士。

柳川範之

一九六三年生まれ。東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。中学卒業後、父親の海外転勤にともないブラジルへ。ブラジルでは高校に行かずに独学生活を送る。大検を受け慶應義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。大学時代はシンガポールで通信教育を受けながら独学生活を続ける。大学を卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。『法と企業行動の経済分析』(第五十回日経・経済図書文化賞受賞、日本経済新聞社)、『東大教授が教える独学勉強法』(草思社)など著書多数。

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