12月31日の『明け方の若者たち』映画公開を控え、小説家のカツセマサヒコさんとマザーハウス代表兼チーフデザイナーの山口絵理子さんのスペシャル対談をお届け。カツセさんとマザーハウスのエピソードをお聞きした前編に続き、後編では、マザーハウス広報担当者も交え、映画制作の裏話を中心に伺いました。お互いに文学×もの作りのコラボレーションを楽しんだという、映画オリジナルグッズの制作秘話にも迫ります。
文/弓削桃代 撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)
カツセ「ひっそり書いたのに、みんなマザーハウスって気づいていた」
カツセ:今回、映画にマザーハウスさんがご協力くださったと聞いて、すごくうれしかったんですけど、なんでバレたんだろうって思いました(笑)。
山口:あはは。
カツセ:だって、ひっそり書いたのに(笑)。でも、映画「明け方の若者たち」を友人に観せたとき、「途上国で働いている人の革製品を使ってカバンを作っている会社に行くんだ」って“彼女”のセリフだけで「これってマザーハウスじゃん」って言われたんですよ。だから、すごい知名度だなって思って。世の中に、途上国の革を使って商品を作る会社って、他にないのかと(笑)。
山口:そもそも、どうして映画のロケ地に繋がったんでしたっけ。
マザーハウス広報:初めは映画の制作の方が気づいたみたいで、幻冬舎さんに確認したらやっぱりマザーハウスだと。原作をなるべく忠実に再現したいということで、ご連絡をいただきました。それで、衣装協力やロケ地の協力をするような流れに。
山口:そうだったんだ。
マザーハウス広報:作品の舞台が少し前なので、その当時のバッグを用意してほしいと言われまして、探して、そのシーンと合うようなものをスタイリストさんと相談しながら準備しました。僕も試写で観ましたけど、ジュートのバッグとか、赤のポシェットとか、いろんなシーンで黒島さんに使ってもらっていましたね。
山口:撮影の日はどんな感じだったの?
カツセ:知りたいです!
マザーハウス広報:ワンシーンではあるものの、マザーハウスが映画に出ること自体、僕もうれしかったですし、彼女を形成するコアな部分に使われるというのもうれしかったんです。だから、最大限のご協力をさせていただきたいなと思っていました。
冬のシーンを撮ったのが暑い時期だったので、冬のお洋服を倉庫から持ってきて、前日にお洋服を入れ替えて、バッグの色味もデイスプレイも変えて、こだわらせていただきました。現場のプロデューサーの方やスタイリストさんと一緒に、細かいところまでちゃんと確認させてもらって。脚本も読ませていただきましたし、僕なりにシーンを思い浮かべた上でこういうバッグがいいのでは? と提案させてもらったりしましたね。
カツセ:それはうれしい!
マザーハウス広報:撮影の日は、朝の5時入りでした(笑)。
山口:偉いよ!
マザーハウス広報:それで、ここまで協力させてもらったので、もしよかったらオリジナルグッズを作りませんかという提案をさせてもらったんです。
山口「日本の古い技術である象嵌とキャッチーなクジラのモチーフは相性がいい」
カツセ:オリジナルグッズのクジラのモチーフ、めちゃくちゃ可愛いですよね!
山口:ありがとうございます。グッズを作るの、楽しかった! 今までやったことのない象嵌(ぞうがん)っていう技術で作っているんです。
カツセ:象嵌?
山口:象嵌っていうのは、革を組み合わせて模様を作る技術。時間がかかりすぎるから大量には作れないんです。だから今、バングラデシュの工場は悲鳴をあげているはず(笑)。
カツセ:大量生産できないんですね。
山口:そう。映画を見た若いカップルの方が記念に持って帰ることを想像して、あえて平面的にデザインしたんです。
カツセ:グッズのデザイン案を見て、文庫のカバーもクジラにしようと決めたんです。
山口:可愛いよね、このクジラ。
カツセ:そうなんです。実物もいいし、この映画を象徴するアイコンとして、すごくいいなって思いました。劇中でも大事なシーンで使われているし、文庫のカバーもこれで揃えて、映画を見た人みんなが「『明け方の若者たち』といえばあのクジラだね」ってなったらいいなと思って。
山口:いいですね。
象嵌ってもともとは日本の技術なんです。でも手間と費用がかかるから、日本では廃れていて。今回、コロナ禍でバングラデシュの工場に行けないので、日本の職人さんと一緒に開発していたんですけど、70歳ぐらいの職人さんに『明け方の若者たち』を渡して、読んでもらったんです。そしたらその職人さんが、実際にクジラ公園に行って、クジラの遊具に座った写真を送ってきてくれて。そのニコッて笑った顔がむっちゃ可愛くて。
カツセ:すごい!
山口:「行ってきましたよ、山口さん」ってLINEが入って、それで象嵌でやってみようってふたりで盛り上がっちゃったの。
カツセ:めちゃくちゃいいエピソード。公園にまで行ってくださったんだ。
山口:そういう昔の技術って若い人に伝える方法がなかなかなくて、職人さんたちも苦心していて。こういう軽さのあるクジラのシルエットと古い技術っていうのがとっても合うなって思って、盛り上がっちゃいました。でもそれをバングラでやるとなると、少し断絶がある。なにこの技術? って(笑)。日本の、やったことのない技術にトライしてもらっています。
カツセさんからもアドバイスをもらいましたよね。
カツセ:そうですね。最初は真っ青なクジラのデザインだったので、ワンポイントでいいので、あの明大前の公園のクジラだとわからせる印がほしいとお願いしたんです。それで、白いくぼみの部分を作っていただきました。
山口:そう、Twitterでアドバイスいただいて(笑)。
カツセ:急にDMが届いて、めちゃくちゃ心臓に悪かったですよ。
山口:直接聞いちゃったほうがいいかなって(笑)。
カツセ「エンドロール後の登場人物の人生を想像してほしい」
カツセ:今回「文学と商品の掛け合わせにチャレンジしたい」という提案がマザーハウスさんからありました。それで、映画館で販売されるグッズのチャームには「物語の30分後」を書いた文章をセットにしています。グッズを買った人だけ、映画の続きをもう少しだけ見ることができるという感じなんですけど、どう書こうか本当に難しかったです。
山口:そうですよね、それは大変でしたよね。
カツセ:一度は完成したと思っている物語なので、その先を書くとなると、やっぱり蛇足でしかなくて。影響がない範囲がいいけど、でも何か見えてほしい。だからすごく慎重に言葉を選びました。本当に短いですけど、それを読むことでエンドロール後を想像しやすくなって、ああ、人生だな、と思っていただければ。
山口:読んでみたいです!
カツセ:いつも思うんですが、映画のエンドロールが終わっても登場人物の人生は終わるわけがないじゃないですか。だから今回は、映画は終わるけれど彼らの人生はちゃんと続いているようにしたいなって。そう思いながら書いたので、ぜひ読んでもらいたいです。グッズとしても、意味を持つ気がするので。
今回は、コラボレーションできて本当にうれしかったです。
山口:また作りたいです!
カツセ:ぜひ! 今度は小説の中にもしっかりブランド名を出しますね(笑)。
明け方の若者たち×マザーハウス コラボブックカバーを販売します
マザーハウスと『明け方の若者たち』がコラボしたブックカバーができました。
文庫『明け方の若者たち』と一緒にお届けする特別セットを、幻冬舎plusだけで販売いたします。
「あけわかクジラブックカバー」は、キュートなクジラモチーフがついた文庫サイズです。
文庫にはすべて、カツセマサヒコさんのサインが入っています。また、抽選で5名様には、カツセさんのサインに加え、北村匠海さんのサインが入ったものをお送りいたします。
100セット限定の販売ですので、ぜひお見逃しなく。幻冬舎plusストア内のこちらのページでご購入いただけます。
また、一部の映画館では、12月31日の公開日より、「あけわかクジラチャーム」を販売予定。こちらには映画の「30分後の世界」をテーマにカツセさんが書き下ろした掌編が付いてきます。
ブックカバーとチャームは、マザーハウスさんの一部店舗でも発売予定。詳しくはマザーハウスさんのHPをご確認ください。
小説や映画の余韻を深めてくれる素敵なグッズ、ぜひお手に取りください。
映画「明け方の若者たち」は2021年12月31日全国ロードショー!
マザーハウスさんにご協力いただいたという、黒島結菜さん演じる”彼女”のバッグも、ぜひチェックしてみてくださいね。
映画の詳細はこちらのサイトからご確認いただけます。
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