フェイクニュース、デマ、誤報。現代社会には手を出してはいけない情報が溢れています。しかし経営や投資において、情報を活用せずに成功を収めるということはあり得ません。『情報の選球眼』(山本康正、幻冬舎新書)では、投資家として活躍する著者が、自ら実践する情報の収集・活用方法を紹介しています。
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価値ある情報は判断の精度を上げてくれる
情報に価値があるかを見極める上で、一番の基本となるのは、得た情報がなんらかの「判断材料」になるか、ということです。
たとえば、右に進もうか左に進もうか、ある交差点で迷ったときに、スマートフォンのマップ機能を使えば、どちらに進むのが正しいかを判断できます。この際は、スマートフォンの地図情報が、価値ある情報となります。車で移動しているのであれば、渋滞情報も知ることができると、判断の精度はさらに高まります。
株の売買などが典型的な例です。投資しようかどうか検討中の企業に、他の投資家が気づいてなさそうなポジティブな動きがあるかどうか。情報により、投資の判断ができます。
判断材料は企業だけに限りません。業界全体での動きはどうなのか。ライバル企業の動き、国内だけでなくグローバルレベルに見たときに企業の持つ力の水準は、どうなのか。情報を多く知れば知るほど、判断の精度は高まります。
そしてここからが重要ですが、本当に判断材料となり得る情報は、メディアなどで紹介されている多くの人が知っている情報だけではない、ということです。多くの人が気づいていない内の情報にこそ、価値があるのです。
エンジニアは誰より早く仮想通貨の価値を知っていた
インターネットやeコマースも同様です。出始めのころは、なんだか怪しい。掲示板など、よく分からない。本当に一般人が使っていいのか。この先、浸透するのか。多くの人が懐疑的な目で見ていたことでしょう。
一方で、「インターネットはこれからの世界を制す」と考えてまさに内にいた人たちは違いました。実際に使っていた人たちは将来性を感じ、いまでは大企業として知られるI Tベンチャーを創業した人も大勢います。同じく、出資に走った方も少なくなかった。
いまであれば、ブロックチェーン、量子コンピュータなどが、まさに該当するトレンドと言えます。5Gや量子コンピュータはメディアでも多く取り上げられていますが、実際にどうなのか。今後、インターネットのように社会を変革するのか。価値ある情報を知っているのは、現場の最前線で働いている研究者の可能性が高いのです。
私がビットコイン、ブロックチェーン技術を知ったのも、エンジニア界隈からの情報でした。当時のレートは4万円ほど。扱うメディアはほとんどありませんでしたが、友人の熱狂度合いから今後トレンドとなるテクノロジーだと注目していました。実際、現在では多くの仮想通貨が生まれ、関連テクノロジーやサービスも開発されつつあります。ビットコインのレートにおいては、一時期は700万円以上にまで上昇。投機的な観点からも大きく注目されています。
5割の成功確率があれば即行動すべし
経営の判断材料として情報を活用しているのは、どこの企業、経営者もされていることだと思います。ただ想定どおりにいく確率をあまりにも高く設定しているのでは、と感じています。特に大企業においてその傾向は顕著です。
情報を得たから絶対に、つまりゼロイチ理論で成功するかどうか、というように考えることはナンセンスだと言えるでしょう。具体的には半分半分の確率で起こることが、51 %の成功確率になるぐらいでも良いのです。試行回数は十分に大きくなければ、その確率の差が結果に反映されることが少ないことには注意が必要です。
事象にもよりますが、一般的な経営判断であれば5割以上の確率で成功する可能性があれば、アクションを起こし続ければ良い成果になります。
私のような投資スタイルでリターンが100倍あるものを狙うのであれば確率はさらに低くてもいい。具体的には1割で十分だと考えていますし、上場株の投資とは違って実際の私の投資スタイルがまさにそうです。1割の成功確率があるベンチャー10社に投資して、9社が潰れてもそのうち1社が100倍に成長すればよい、という考えです。
一方で、多くの大企業は新規事業でさえも成功確率を8割程度に設定している場合が多いように思えます。実際には5割、投資案件の場合、まったく畑の違う事業分野において大きなリターンが見込まれるならば1割でいいのです。
野球で言うと、3割でもすごい打率なのですが、そのなかで8割を狙うこと自体に無理があるのです。そうすると石橋を叩き過ぎてアクションが遅くなりますし、1割でアクションを起こして試行回数を増やしているライバルに、先を越されてしまいます。
ベンチャーを見ていると分かりやすいですが、ベンチャーはビジネスが軌道に乗り、成長するのはまさに1割程度。起業時のミッションでは「世界を変える」「ユニコーン企業になる」と多くのベンチャーが大志を掲げていたり、すごいベンチャーとしてメディアで特集を組まれたりすることがありますが、自分でちゃんと5年後の様子を追っていくと、実際にユニコーンにたどりついているベンチャーはごくわずかで、ほとんどは実現できていない。これが、過酷な現実です。
情報の選球眼
2021年11月25日刊行の『情報の選球眼 真実の収集・分析・発信』の最新情報をお知らせいたします。