フェイクニュース、デマ、誤報。現代社会には手を出してはいけない情報が溢れています。しかし経営や投資において、情報を活用せずに成功を収めるということはあり得ません。『情報の選球眼』(山本康正、幻冬舎新書)では、投資家として活躍する著者が、自ら実践する情報の収集・活用方法を紹介しています。
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ビジネスに絶対はないから情報を活かす
情報を活用する上では、情報を得る前に仮説を立てること、情報を得た後にはシナリオを考えること、そして、情報が追加された場合にはシナリオを修正することが重要です。
今後のコロナウイルスについて考えてみましょう。コロナウイルスの収束時期はビジネスに大きな影響があります。
収束するのが具体的にいつなのかを予測するためには、変異株の動向と、ワクチンの開発状況に関する2つの情報が重要だと分かります。それらを集めてシナリオを考えていきます。
その上で推奨したいのが、重み付けでシナリオを考える方法です。実際に得た情報を基に、たとえば今年中に収束する確率は現時点の情報では約○○%、来年の前期に収束する確率は約〇〇%という考え方です。確率の考え方で、事前確率、事後確率を扱うベイズ統計学に通じるところがあります。
変異株に対しても有効なワクチンが開発されたとの情報がアップデートされたら、年内に収束する確率は約○○%に増えるというように、考えを変化させることができます。情報を取得するたびに、未来のシナリオの実現確率の配分を変えていくのです。
このようにして得た情報を基にシナリオを描くことは、企業におけるリスク管理や、BCP(事業継続計画)にも大いに活用できます。あらゆる可能性を考え、それぞれ起こる確率を現時点での情報で考える。情報がアップデートされたら、シナリオの起こる確率配分の検討ならびに場合によっては新たなシナリオを考えておく。このように情報を活かすことが重要です。
そもそも、ビジネスの世界に絶対はありません。リスク管理ができていない企業は、シナリオが刻々と変化していく事態には弱くなります。なるべく包括的なシナリオを考えて発展させ、そこから起こり得る事態を想定していくことで、リスクを減らしてビジネスに臨むのです。
経営判断の成功確率は情報に依存する
情報を活用することは、判断やアイデアの糧にする、とも置き換えることができます。
たとえば、クラウドやAIに関する情報を知っていれば、これから先、新規ビジネスを展開する際、同分野に関連するサービスの成功確率が高いことが、判断できます。逆の言い方をすると、クラウドやAIに関する情報が乏しかったり、正しく理解できていないと、新規事業で失敗する確率が高まります。
情報は、なんらかの道筋、当たりをつけるためのきっかけであり、重要なシグナルでもある、と言えます。現在、ATMの手数料が半額以下に引き下げられるという世の中のトレンドがあります。さらに、ペイペイなどの電子決済を活用すれば、利用者は手数料0円で、お金の支払いや送金までできる。手数料ビジネスはこの先、厳しい戦いを強いられることが明白です。
それどころか、手数料に限らず、利便性やデジタル通貨など新しい金融システムへの対応という意味でも従来の金融ビジネスモデルはこの先かなり厳しい状況にあります。このような情報を知っていれば、新規でこれまでと同じ金融ビジネスモデルを手がけようとの経営判断をするのが得策ではないという判断ができます。
若い人にとっても、同マーケットへの就職や転職をするのは比較的リスクがあると予測できます。一方で、フィンテックと呼ばれる、従来とは異なる画期的な金融ビジネスで成長しているベンチャーもあります。
既存の金融サービスと、新しく出てきたフィンテックのサービスは何が違うのか。それらの情報を知ることが、今後のビジネスのチャンスの糧になるのです。ある分野で勝負したい場合にも、情報を得ることでビジネスの成功確率を高めることができます。
後発でも国内最大シェアを築いたメルカリ
メルカリの例が参考になります。フリマアプリ業界において、メルカリは先発ではありませんでした。けれども先発の企業の動向をチェックして、同マーケットに価値を見出したのでしょう。
情報を仕入れていくと、アプリの使い勝手、出品の手間、企業の知名度といった課題をさらに改善すれば、成長する領域との仮説を立てることができました。
そして実際、そのとおりの経営戦略でビジネスを進めた結果、いまや米国市場も開拓する企業に成長していったのです。後発だから先発に勝てないということは、決してないと言えます。
情報をうまく活用すれば後発であっても勝てることは、メルカリの例を見れば明らかで、そこから多くの示唆を得ることができます。
特に、業績が良いときほど、多くの企業や経営者は自分たちのサービスが伸び続けると過信してしまいがちです。そういったときこそ積極的に、世の中のトレンドをキャッチアップしたり、追い上げてくる新しいライバル企業の動向などもチェックしたり、現在のサービスはこの先も好調を維持するのか、判断することが求められます。
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