連載「礼はいらないよ」も人気のラッパー・トラックメイカーのダースレイダーさんによる『武器としてのヒップホップ』が12月8日に幻冬舎より発売されます。
いまや世界でもっとも聞かれる音楽ジャンルとなったヒップホップにはどんな精神、哲学が内包されているのでしょうか? 28のキーワードを軸に、逆境の乗り越え方、隙間をつく思考法、日常の目の付け所を伝授します。
帯へ推薦コメントをくださったのは、宮台真司さん、植本一子さん、荘子itさん、なみちえさん、都築響一さん。まず、「はじめに」と「目次」をお届けします。
世界と社会を知るための武器としてのヒップホップ
さて、どう生きようか。
僕は33歳で脳梗塞で倒れ、左目の視力を失い、40歳でこのまま手を打たなければ5年の命と言われ、43歳でアシドーシスで集中治療室に運び込まれた。何度か死の瀬戸際を実感したが、どっこい生きている。
ヒップホップを通して人を、社会を、世界を見ることで生き延びる術を身につけてきた。今や完全なグローバルカルチャーでもあるヒップホップ。そうなった背景にはヒップホップが音楽のみならず、生き方、在り方を提示してきたことがある。産業革命以降、資本主義の価値観がグローバルに展開してきた人類の社会が飽和し、行き止まりが見えてきたタイミングで世界はCOVID-19によるパンデミックに巻き込まれた。
そもそも世界とはどうなっているのか? この疑問を巡り人類の哲学は発展してきた。この本ではヒップホップを通じて、その一端を捉えることを試みている。世界とはFlow(流れ)であり、そこにBeat(リズム)という楔(くさび)を打ち込む。そのBeatがDJによりLoopされて(繰り返されて)いくことで運ばれる先へと感覚が開かれていく。僕はラッパーとしてそこに言葉を乗せる。
ヒップホップは前提を問う。お前は誰だ? お前は今、どこにいるんだ? どこから来たのか? どこへ行くのか? こうした問いが世界のFlowを知覚させるのだ。
僕は世界を、社会を知るための武器としてのヒップホップを提案したい。僕が展開した考察が少しでも役に立てば幸いだ。僕はラッパーなので、この本の文章も僕の声、僕の話し声を想像しながら読むとわかりやすいとも思う。
contents
- はじめに
- The MC マイクを握るスタンス
- Break 自分だけの目の付け所
- Bring The Beat! “間”がないのは間抜けという
- Old to The New ヒップホップが時系列を動かした
- Loop 繰り返すたびに強くなり、新しくなる
- Break Dance Rocks The Planet 世界の流れの身体化
- Go With The Flow 全ては流れである
- Illmatic 病みが闇を晴らす
- Represent 自分は何者でどこにいるのか?
- Freestyle 箱を並べてZONEに入る
- Rhyme and Reason リズムが切り開く日本語の可能性
- Cypher 縁は円であり、和は輪である
- B-Side Wins Again 社会にはA面とB面がある
- Built from Scratch レコードを擦ると楽譜や音楽理論の外側の音が鳴り出し、世界に繋がる
- Wildstyle 壁のグラフィティが景色、そして社会認識を塗り替える
- Where you at? 現在位置を確認するためには
- Feel 一瞬から全体を感じる感性
- Knowledge Reigns 知識が心をガイドする
- The Choice is Yours 自分で選べ!でも、その選択肢は誰が選んだ?
- The Light スポットライトはどこを照らしているか?
- The Style スタイルを持つこととビートがもたらす共通感覚
- HOO! EI! HO! 自分の踊りを踊れ!
- Gangsta, Gangsta 法律と掟
- Do The Right Thing 選択肢の外側を走り続けた男
- Black Lives Matter アメリカに無視された声が実体化していく
- Street is Watching ヒップホップの視点
- Ready to Die 死と再生を前提として生きる
- Be a Father to Your Child 子供こそが希望
- おわりに
- 参考文献
- 参考楽曲