「人生100年時代」を迎えている今、「生涯現役」を目指すシニアが増えています。しかし、「生涯現役」なのは仕事だけではないようです。恋愛も、結婚も、セックスも、死ぬまで現役でありたい……そう望むシニアが増えた結果、シニアの恋愛トラブルもまた増えているそうです。弁護士で民事解決のエキスパートである西本邦男さんの著書『枯れ木に花が咲いたら、迷惑ですか?』より、実際にあったトラブルと、その解決法をご紹介します。
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【質問】「莫大な慰謝料」はあり得るのか
元ビートルズのあのポール・マッカートニーがヘザー・ミルズと離婚した際、50億円近い慰謝料を支払ったといわれています。
このふたりは26歳差の「年の差婚」で、なおかつ典型的な「資産家と若い女性」の年の差婚でもありました。
「50億円近い慰謝料」という報道が事実かどうかは分かりませんが、ふたりの結婚生活はわずか4年(同居期間は2年)であったのに、裁判所が莫大な慰謝料を認めたとして、イギリス国内はもちろん、日本でも大きな話題となりましたね。
こういう事態は、日本でも同じことが起きるのでしょうか。つまり、資産家と結婚して短期間で離婚した場合に、莫大な慰謝料が認められるのでしょうか。
【答えは、こういうことです】日本ではあり得ない
もしそういうことをもくろんでいる若い女性がいたら残念がるかもしれませんが、答えは「日本においては、ノ─」ということ。「ポール&ヘザー案件」スケールの莫大な慰謝料は、日本ではあり得ません。
【考え方の基本】慰謝料と資産は本質的には無関係
日本においては、離婚に際しての財産分与は
1、財産分与
2、養育費
3、慰謝料
の三つがあります。
1の「財産分与」は、婚姻中に夫婦が築いた財産を分与するものです。
専業主婦でも、内助の功を評価して50%の清算が認められるのが原則ですが、分与対象はあくまで婚姻中に築いた財産です。
つまり、ポール・マッカートニーの場合はヘザーと婚姻後も相当な収入があったでしょうから「婚姻中に築いた財産」も莫大なものだったでしょうけれど、すでに財産を築いて隠居している資産家と結婚したならば、婚姻中に築いた財産は皆無、よって財産分与もゼロということにもなり得るわけです。
2の「養育費」は、未成熟の子供がいるときに、子供の親権者となる親が相手に請求することが認められるもの。ですから、ふたりの間に子供がいなければ、そもそも養育費は発生しない、ということです。
養育費に関しては、親の収入に連動して高くなるような算定方式が一般に用いられています。真偽のほどは不明ですが、日本人メジャーリーガーのエースと女性タレントとの離婚の際に、サラリーマンの収入を遥かに超える養育費が報じられたのを覚えている人も多いでしょう。
問題は、3の「慰謝料」ですね。
慰謝料は、精神的苦痛を慰謝するために支払われるものですから、その金額は、当然一方の当事者が他方から受けた精神的苦痛の大きさに比例するわけです。
ここでは、当事者が資産家であるかどうかは、考慮されないではありませんが、それは慰謝料を決定する際の本質的な要素ではありません。
【答えを詳しく見てみましょう】100万~500万円が相場
慰謝料にもある程度「相場」があります。
過去の家庭裁判所における調停内容、決定内容を統計的に分析すると、大半が100万円から300万円ほどの範囲に収まっており、500万円程度の慰謝料を認めた例がちらほら散見されるという程度というのが日本の現実のようですね。
ですから少なくとも日本では、相手側にどんなにひどい行為があろうとも、「ポール&ヘザー案件」のような、わずか4年の結婚生活で、約50億円の慰謝料が認められるなどということはあり得ないといってもいいでしょう。
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