「八幡さん」や「八幡様」などと親しみを込めて呼ばれる“八幡信仰”にかかわる神社は、町を歩けばいたるところに鎮座していることに気づきます。実際、日本全国約8万社の神社の中でも、その数は圧倒的。次に続くのが“伊勢信仰”の神社だそう。そして次に続くのは……日本の「最強11神社」の歴史や特徴を解説した『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』(島田裕巳著、幻冬舎新書)から、信仰の広がりが見える順位をご紹介します。
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そうした問題はさておき、神社の総元締めである神社本庁が、その傘下にある7万9355社の神社を対象に、平成2(1990)年から7年にかけて行った「全国神社祭祀祭礼総合調査」によると、神社としてもっとも多いのは八幡信仰にかかわる神社だとされている。これは八幡神社や八幡宮、若宮神社と呼ばれるものだが、その数は7817社だった。以下、信仰別に次のようになる。()内はそれぞれの信仰にかかわる神社の主な呼び方である。
2位 伊勢信仰 4425社(神明社、神明宮、皇大神社、伊勢神宮など)
3位 天神信仰 3953社(天満宮、天神社、北野神社など)
4位 稲荷信仰 2970社(稲荷神社、宇賀神社、稲荷社など)
5位 熊野信仰 2693社(熊野神社、王子神社、十二所神社、若一王子神社など)
6位 諏訪信仰 2616社(諏訪神社、諏訪社、南方神社など)
7位 祇園信仰 2299社(八坂神社、須賀神社、八雲神社、津島神社、須佐神社など)
8位 白山信仰 1893社(白山神社、白山社、白山比咩神社、白山姫神社など)
9位 日吉信仰 1724社(日吉神社、日枝神社、山王社など)
10位 山神信仰 1571社(山神社など)
さらにこの後には、春日信仰、三島・大山祇信仰、鹿島信仰、金毘羅信仰と続いていく。
この調査で対象になった神社の数は、7万9355社のうち祭神が明確に判明した4万9084社で、現存する神社全体が含まれているわけではないが、それにしても、八幡信仰の7817社はダントツである。2位の伊勢信仰とはかなりの差があり、これだけを見ても、八幡信仰がいかに広がっているかが分かる。
実際、周囲を見回してみると、いたるところに八幡神社や八幡宮が鎮座していることに気づく。私は世田谷区の経堂に住んでいるが、地元の氏神は世田谷八幡宮である。経堂から小田急線で新宿へ向かう途中の下北沢駅近くには北澤八幡神社があり、代々木八幡駅には小説家の平岩弓枝氏の夫君が神主をつとめてきた代々木八幡宮がある。経堂の駅の北、京王線に向かうと勝利八幡神社があるし、京王線には八幡神社にちなむ八幡山という場所もある。
八幡神社として著名なものとしては、鎌倉の鶴岡八幡宮、京都の石清水八幡宮、博多の筥崎宮、大分の宇佐神宮などが挙げられる。ほかにも、富岡八幡宮、手向山八幡宮、鹿児島神宮などがよく知られている。
地元にある八幡神社や八幡宮は、親しみをこめて「八幡さん」とか「八幡様」と呼ばれることが多い。ほかの神社の場合にも、「天神様」や「住吉さん」、「お稲荷さん」のように、同様に親しみをこめて呼ばれるところもあるが、八幡の場合がいちばん、そうしたことが起こりやすいのではないだろうか。それだけ、八幡信仰は庶民の間に広がっている。