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なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか

2022.01.03 公開 ポスト

特集 縁起をかつごう

「八幡神」は『古事記』『日本書紀』とまったく関係ない異能の神島田裕巳(作家、宗教学者)

日本にもっとも広がる“八幡信仰”の「八幡神」の歴史をみると、「応神天皇(第15代天皇)と習合し」「それによって天照大御神に次ぐ皇祖神として位置づけられるようになった」ことが大きいようですが、「八幡神」は、その誕生にも興味深い点が多々あります。新年を迎え、何かと希望をもって乗り越えたい2022年、私たちのそばにいる祭神を、こうしてより深く理解することは大事なことかもしれません。『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』(島田裕巳著、幻冬舎新書)からの試し読み、最終回です。

櫻山八幡宮(岐阜県高山市) 写真:iStock.com/chanuth

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八幡信仰は、神道に見られるさまざまな信仰の一部を構成しているわけだが、そうした点では、かなり独立性をもった信仰であるとも言える。実際、八幡信仰を追っていくと、興味深い事柄がつぎつぎに出てくるのである。

何よりも興味深い点は、八幡神が『古事記』や『日本書紀』といった日本神話のなかにまったく登場しないことである。

これは、八幡信仰の広がりからすると、意外に思われるかもしれない。ところが、八幡神は日本神話と無縁な存在であり、神話では語られないまま、歴史の舞台に忽然(こつぜん)と登場するのである。

八幡のことが最初に文献に登場するのは、天平(てんぴよう)9(737)年である。この年の1月に新羅(しらぎ)に使節が派遣されるが、受け入れを拒まれ、日本と新羅との関係が悪化した。『続日本紀(しよくにほんぎ)』によれば、そこで朝廷は、伊勢神宮、大神(おおみわ)神社、筑紫国(つくしのくに)(現在の福岡県)の住吉と香椎宮(かしいぐう)、そして八幡に幣帛(へいはく)(神に祈りをささげる際に奉献されるものの総称)を奉り、この出来事を報告したという。『続日本紀』は、勅撰(ちよくせん)の歴史書で、いわば公式の歴史記録ということになるが、これが完成したのは延暦(えんりやく)16(797)年のことである。

このうち、伊勢神宮は天皇家の祖神である天照大御神を祀る神社であり、奈良の大神神社は日本でもっとも古いとも言われる由緒のある神社である。筑紫の住吉は新羅をのぞむ博多湾に面しており、香椎宮はいわゆる三韓征伐(さんかんせいばつ)(日本の神話に記された朝鮮半島への出兵をさし、これによって、高句麗(こうくり)百済(くだら)が日本の支配下に入ったとされる)を行ったとされる神功皇后(じんぐうこうごう)を祀っている。その意味ではどれも、新羅の問題を報告するにはふさわしい神社と言えるが、宇佐神宮のことをさす八幡が、なぜここに含まれたのかは注目される。

八幡信仰が広がっていくにあたっては、八幡神が応神天皇(おうじんてんのう)(第15代天皇)と習合したことが大きくものをいった。それによって八幡神は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)に次ぐ皇祖神として位置づけられるようになったからである。

その応神天皇の母が神功皇后で、皇后は妊娠中に三韓征伐を行ったことから、応神天皇は「胎中(たいちゆう)天皇」とも呼ばれている。八幡神と応神天皇の習合がいったいいつの時点からはじまったのかが問題になるが、すでにこの時点で、それが起こっていたという説もある。

 

関連書籍

島田裕巳『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』

日本全国の神社の数は約8万社。初詣、宮参り、七五三、合格祈願、神前結婚……と日本人の生活とは切っても切り離せない。また伊勢神宮や出雲大社など有名神社でなくとも、多くの旅程には神社めぐりが組み込まれている。かように私たちは神社が大好きだが、そこで祀られる多種多様な神々について意外なほど知らないばかりか、そもそもなぜ神社に特定の神が祀られているかも謎だ。数において上位の神社の中から11系統を選び出し、その祭神について個別に歴史と由緒、特徴、信仰の広がりを解説した画期的な書。

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なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか

 

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島田裕巳 作家、宗教学者

1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著作に『日本の10大新宗教』『平成宗教20年史』『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『靖国神社』『八紘一宇』『もう親を捨てるしかない』『葬式格差』『二十二社』(すべて幻冬舎新書)、『世界はこのままイスラーム化するのか』(中田考氏との共著、幻冬舎新書)等がある。

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