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全告白 後妻業の女

2022.01.29 公開 ポスト

「特急で」夫の死亡直後に金庫開錠を手配した妻小野一光

夫や交際相手11人の死亡で数億円の遺産を手にした筧千佐子。
4年に及ぶ取材と23度の面会で彼女の闇に触れたノンフィクションライター・小野一光氏による『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』が幻冬舎アウトロー文庫から発売され、話題を呼んでいる。
ここでは本書の一部を紹介。千佐子と開錠業者との生々しいやりとりが明らかになる。

*   *   *

(写真:iStock.com/Supersmario)

夫の死亡後、開錠業者を「特急で」手配

2017年7月7日に開かれた〈第7回公判〉では、最後の被害者・鈴木さん(仮名)の死亡後に千佐子が呼んだ開錠業者と、鈴木さんとの結婚後に千佐子が見合いをした相手への証人尋問が行われた。

この開錠業者への尋問の前には、千佐子が開錠業者に電話をかけた際の音声データが流された。金庫の開錠を依頼する千佐子だが、自宅住所を尋ねられ、地名まではすんなり出たが、その先の枝番までは憶えておらず、住所が書かれているものを探したのか、少し間をあけて枝番を口にした。それから彼女は次のようなやり取りをする。

業者「一戸建て? 名前、連絡先は?」

千佐子「はい。筧千佐子。電話は090-39××-62××」

業者「金庫は筧さんの?」

千佐子「家に来てくれる? 早く来られへん? 早急に。別料金払うから。特急で。おカネ払いたい」

業者「少しお待ちください」

千佐子「待ちますよ。電話」

業者「いや、一度切って……」

証人の開錠業者によれば、向日市の被害者宅へ到着したのは13年12月30日の午後5時30分頃。金庫が置かれていたのは、2階の和室にある机の上で、手提げ式で黒に近い灰色の金庫は、ダイヤルとカギを使うものだった。そこで千佐子は「カギはあるが、ダイヤルがわからない」と業者に説明している。

業者はその際の千佐子の様子について、「『とにかく急いでいるから』ということでした。『壊してもいいので開けてほしい』ということでした」と法廷で証言した。

続いて検察側は鈴木さんの遺産総額と、千佐子が相続できた遺産について説明。遺産は定期預金や国債など合わせて8116万8252円あり、そのうち千佐子が相続できたのは養老保険の270万6727円で、相続日は14年6月11日だった。

(写真:iStock.com/ralphp)

夫の死亡前後に交際していた男性の証言

午後の法廷には、鈴木さんと結婚している千佐子と13年12月15日に見合いをした、兵庫県神戸市の吉田誠仁さん(仮名)が証人として出廷した。

税理士で不動産管理業をやっている吉田さんは出廷時81歳。妻を12年11月に亡くしていた。吉田さんには長男と次男がおり、それぞれ結婚して孫もいる。ちなみに見合いの際、千佐子は最後の被害者の姓だったが、彼女を紹介する釣書には最初の結婚相手の「矢野(仮名)」姓が書かれ、本人も矢野千佐子を名乗っていた。以下、法廷での証人尋問を抜粋する。

検察官「千佐子さんとの交際について、初めてお見合いをしたのは?」

吉田さん「大阪駅の南の『ホテル××』19階で。私のほうの仲人と矢野千佐子と3人でした」

検察官「何をしましたか?」

吉田さん「喫茶店で1時間ぐらい話をしました。それから仲人には帰ってもらい、ニ人で19階で食事をしました」

検察官「その日はどうしました?」

吉田さん「えっ……、ある意味これはいけるという感触だったので、電話番号とメールの交換をして別れました」

検察官「今後も付き合いを続けたいと?」

吉田さん「そういうことですね」

検察官「最初の印象は?」

吉田さん「非常に良かったです」

検察官「今後も会いたいと?」

吉田さん「そうです」

検察官「千佐子さんとどうしようと思いました?」

吉田さん「一緒に生活してほしいと。籍は入れません」

検察官「どこで暮らそうと?」

吉田さん「私の家です」

検察官「その思いを伝えました?」

吉田さん「伝えました」

検察官「千佐子さんの反応は?」

吉田さん「OKだったと思う」

検察官「メールや携帯で連絡を取り合ったんですか? 次はどうしました?」

吉田さん「12月25日のクリスマスの日、大阪で会いました」

検察官「どこに行きました?」

吉田さん「喫茶店で話し、近くの回転寿司屋で食事をしました。大阪駅の北側の施設をぶらぶらして、今後のことについて話をしました」

検察官「それ以降は会いました?」

吉田さん「年明けの1月4日、神戸の三宮で会いました」

検察官「何をしました?」

吉田さん「近くの生田神社に初詣に出かけました。それから私の自宅に来てもらいました」

検察官「一緒に暮らすという話をしました? カギはわたしましたか?」

吉田さん「わたしたのはその次の1月17日です」

検察官「確認ですが、会ったのは平成25年(13年)12月15日、25日、平成26年(14年)1月4日、17日ということでいいですか? 間違いはありますか?」

吉田さん「ありません」

ここで検察官が日程を再確認したのは、千佐子が鈴木さんの死亡日を挟んで、平然と吉田さんと会っていたということを印象付ける意図が窺える。

交際男性の千佐子評「良い女性でした」

検察官「その後、交際はどうなりました?」

吉田さん「17日を最後に会い、カギをわたしました。それから2、3日後、1月20日ぐらいに京都府警の警察官がぜひ会いたいと言ってきました。僕は『会う必要はない』と言いましたが、なにがなんでも会いたいと。『矢野千佐子と付き合っているでしょう』と電話で言われました」

そして吉田さんは京都府警の捜査員と直接会い、事件の内容は言えないが、刑事事件として京都府警が動いていることを知らされる。

検察官「警察の方から言われたことは?」

吉田さん「不本意でしたが、『別れてください』と言われました。『府警のことを言わずに断ってください』と言われました。しんどかったですが、だいぶ考えて断りました」

検察官「別れるときには千佐子さんになんと言いました?」

吉田さん「メールでまず送りました。内容は……そうですねぇ、いろいろ考えたけれども、二人で生活を続けていく自信がなくなったと。たぶんそういうことだったでしょう」

検察官「返事は?」

吉田さん「あったと思います。即了解いただいたと思う。1週間ぐらいしてポストにカギが入っていた。『ああ、来てくれたんだな』と。ピンポンぐらい押せばいいのにな、と思いました」

検察官「それから連絡を取ったことは?」

吉田さん「ありません」

その後、弁護人や裁判員、裁判官による質問が続く。裁判官が「千佐子さんは良い女性だったという話でした。なにが良かったですか?」と尋ねると、吉田さんは答えた。

「男と女ですから、それぞれ好みがありますから。しかし、どう答えて良いかわからないですが、良い女性でした」

証人尋問が行われているあいだ、千佐子は落ち着きがなく、手を口元に当てたり、腕組みをしたりした。そして尋問終了後に法廷を出る吉田さんが扉の前で頭を下げると、千佐子も頭を下げたのだった。

*   *   *

稀代の悪女の素顔に迫るノンフィクション『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』好評発売中

関連書籍

小野一光『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』

夫や交際相手11人の死亡で数億円の遺産を手にした筧千佐子。なぜ男たちはごく普通のオバちゃん然とした彼女の虜になってしまったのか?その秘密を探ろうと23度もの面会を重ねた著者は、彼女の体に染みついた“業”を身をもって思い知ることになる――。語ったこと、そして頑なに語らなかったことから、知られざる千佐子の闇を白日の下に晒す。

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全告白 後妻業の女

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小野一光

1966年、福岡県生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに数々の殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。最新刊『昭和の凶悪殺人事件』のほか『冷酷 座間9人殺害事件』『全告白 後妻業の女 筧千佐子の正体』『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』『連続殺人犯』『限界風俗嬢』など著書多数。

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