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君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か

2022.01.23 公開 ポスト

渋沢栄一の言う「仕事に趣味を持って取り組む」の真意 フランスで見せた「好奇心」が日本経済発展の原動力に佐々木常夫

新一万円札の顔であり、2021年大河ドラマ「青天を衝け」の主人公としても知られる渋沢栄一。『君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』(幻冬舎刊)では、渋沢に大変な感銘を受けた元・東レ株式会社取締役の佐々木常夫氏が、渋沢の言葉や思想を紹介しつつ、その言葉と思想をビジネスにどう生かし実践したのかを語っています。一部を抜粋しご紹介します。

*   *   *

仕事には「趣味」を持って取り組む

渋沢は『論語と算盤』の中で、こんなことを述べています。

「自分の務めを果たす時は、単に務めるだけでなく、『趣味』を持って取り組みなさい

一体これはどういう意味なのでしょうか。

(写真:iStock.com/yaruta)

一般的に、仕事と趣味は正反対のものと捉えられています。仕事はお金を稼ぐために真剣にやるもので、趣味は余暇を楽しむために遊びとしてするもの。

この相反する二つを一緒に実行するのは、一見不可能に思えますよね。

しかし、実は渋沢の言う「趣味」とは単なる遊びのことではありません。

目の前の物事に対して、理想や思いを付け加えて実行していく。それが、「趣味を持って取り組むこと」だと渋沢は言うのです。

 

「趣味」を持って取り組めば、「ここはこうしたい」「もっとあれをやってみたい」など、自分からやる気を持って仕事に向き合うようになる。お決まりの型通りでない、心のこもった仕事になる。そうすれば、必ず仕事のレベルは上がる。それに見合った成果がもたらされる。

対して「趣味」もなく与えられた仕事をこなすのは、心を持たない人形が働いているのと同じこと。食べて寝てその日を迎えるだけの肉の塊がそこにあるのと一緒。そんな働き方をしていても、自分のためにも社会のためにもならないよ、というわけです。

 

『論語』の中にも、

「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず
(物事を知り理解する人は、それを好んでいる人に及ばない。物事を好んでいる人は、それを楽しんでいる人に及ばない)」

という言葉があります。

 

仕事を楽しんでいる人が一番伸びるのだから、仕事は愉快に「趣味」を持って、熱い真心を注ぐように努めることが大事だと、渋沢は考えたわけです。

フランスで見せた渋沢の驚くべき「好奇心」

「趣味」を持って仕事に取り組むには、好奇心を持つことが不可欠です。

私自身、好奇心を持つことの重要性を渋沢から教わりました。

私はもともと好奇心が強い方で、新しいものを見聞きするのも、何か新しいことをやってみるのも大好きなのですが、渋沢の好奇心には到底及びません。それを痛感させられたのは、フランスに渡った渋沢が見せた行動の数々でした。

(写真:iStock.com/frantic00)

渋沢は主君である慶喜が将軍になったことで、倒幕の夢を諦めることになりました。雲の上の人となった慶喜にもはや会うこともできず、無為の日々を強いられることになった渋沢は、「亡国の民になるくらいなら浪人になろう」と幕府を辞める覚悟まで決めていました。

そんな渋沢に、救いの手が差し伸べられます。

幕府から、慶喜の弟・昭武のお供としてフランスへ行くよう命じられたのです。

 

新たな使命を与えられた渋沢は、早々に支度を整えると、フランスの郵便船に乗って日本を離れますが、ここから、渋沢は持ち前の好奇心を爆発させます。

まず、船の中で出された洋食をちゆうちよすることなく試します。コーヒー、豚の塩漬け、バター、鶏肉や牛肉の入ったブイヨンのスープ。また、「外国に行くと決めたからには」と船の中でフランス語の勉強も始めます

 

船を降りた後はマルセイユからパリまで汽車で向かいますが、渋沢は「時間が来ると鐘を鳴らして人を集めて発車する仕掛け」にいたく感心し、日本に戻ったらこの仕掛けを船だけでなく鉄道にも整備したいと考えます。

このほかにも、新聞を見ては「世間の小さなことから国家の重要問題まで知れて重宝する!」と感動し、病院を見ては「病人は病院で療養し天寿を全うできる。これこそ人命を重んじる道だ!」と感動し、オペラを鑑賞しては「舞台の背景や明暗を自在に、瞬時に作り出し、真に迫っている!」と感動し……。

さらには、フランスの役人にせがんで暗くて臭い下水道の様子まで見て回り、それらの様子を克明に記録していきます。

見知らぬ国の下水道まで見たがるなんて、これだけでも並外れた好奇心の持ち主だということがわかりますが、渋沢の好奇心はこれだけにとどまりません。

 

渋沢が最も心を鷲掴みにされたのは、ヨーロッパ各地で見た経済の仕組みでした。

その一つが銀行です。渋沢はこの視察の会計係でもあり、お付きのフランス人に勧められて昭武一行のお金をフランスの公債と鉄道会社の公債に替えていましたが、帰国する時、この公債が増えていることに気づきます

「銀行や会社は多くの人からお金を預かり、それによって大きな仕事ができる。しかも、会社が利益を上げると預けていたお金が増えて戻ってくる」

渋沢はこの時の体験をもとに、日本にも銀行を作ろうと思い立ったわけです。

(写真:iStock.com/Victorburnside)

それともう一つ、渋沢は驚くべき発見をします。

それは、ヨーロッパでは役人と商人が対等であり、国王でさえ商工業を重んじ、自らの国の製品を積極的にアピールしているという事実でした。

「武士が金のことを言うのは卑しい」「商人は役人に唯々諾々と従うのが当たり前」と教育されてきた日本人・渋沢にとって、これは天地がひっくり返るくらいの衝撃だったに違いありません。

 

銀行と、官尊民卑のない自由な風習。これからの日本社会のためにも、これだけは何としてでも日本に持ち帰りたい。渋沢の持ち前の好奇心は、日本を豊かにしたいという大志と結びつき、日本経済を発展させる原動力へと昇華していったのです。

関連書籍

佐々木常夫『君から、動け。 渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』

挫折と裏切り。社会の理不尽に揉まれた私を支えたのは、渋沢の哲学だった――。50万部突破『働く君に贈る25の言葉』元・東レ取締役の佐々木常夫氏が「人生の師」とあおぐ、渋沢の言葉と思想を解説!新一万円札の顔・2021年大河ドラマ「青天を衝け」主人公に決定。日本史上最大の経営者が残した仕事と人生のヒント24!<内容例>小さな仕事を粗末にするな/上司のせいは自分のせい/自分の話はするな/徳川家康のマネジメント/大隈重信の欠点と長所/大久保利通との対立/「角(かど)」の大切さ/迷ったら懐に飛び込め 等……

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君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か

30代に渋沢栄一を知り大変な感銘を受け、以降、その思想を働き方・生き方の羅針盤としてきた元・東レ株式会社取締役の佐々木常夫氏が、心に深く残っている渋沢栄一の言葉や思想を選び、背景を紹介しつつ、その言葉と思想をビジネスにどう生かし実践したのかを語る『君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』。その中から一部を抜粋しご紹介します。

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佐々木常夫

1944年、秋田市生まれ。株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活を送る。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建などさまざまな事業改革に多忙を極めたが、いかにワークライフバランスを保つかを考え、定時に帰る独自の仕事術を身につける。2001年、東レ株式会社の取締役に就任。03年より東レ経営研究所社長。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを務める。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任している。『そうか、君は課長になったのか。』(WAVE出版)、『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(文響社)、『運命を引き受ける』(河出文庫)など著書多数。

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