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君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か

2022.02.06 公開 ポスト

新人もベテランも仕事の8割は「雑務」 渋沢栄一が「小さな仕事」を重視した理由佐々木常夫

新一万円札の顔であり、2021年大河ドラマ「青天を衝け」の主人公としても知られる渋沢栄一。『君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』(幻冬舎刊)では、渋沢に大変な感銘を受けた元・東レ株式会社取締役の佐々木常夫氏が、渋沢の言葉や思想を紹介しつつ、その言葉と思想をビジネスにどう生かし実践したのかを語っています。一部を抜粋しご紹介します。

*   *   *

小さな仕事を粗末にするな

「水戸黄門」の名で知られる水戸藩主・水戸光圀の教えに、

「小なることは分別せよ、大なることに驚くべからず(小さなことは分別せよ、大きなことに驚くな)」

というのがあります。渋沢はこの言葉を引いて、『論語と算盤』で次のようなことを述べています。

些細なことを粗末にする大雑把な人間は、大きなことを成功させることはできない

どんなに些細な仕事でも、それは大きな仕事の小さな一部である。これが満足にできなければ、仕事全体の責任も取れなくなる。

例えば時計の小さな針が怠けて動かなくなれば、大きな針も止まって時間がわからなくなってしまう。何百万円という大金を扱う銀行でも、厘や銭単位の計算が違うと、その日の帳尻が合わなくなってしまう。

よって小さなことでも手抜きせず、勤勉に忠実に、誠意を込めて完全にやり遂げようとすべきなのである」

また、渋沢は天下統一を果たした秀吉を例にとり、「秀吉のような大人物も、最初信長に仕えた時は草履取りというつまらない仕事をさせられた。しかし秀吉はこの仕事を大切に務め、やがて抜擢され、柴田勝家と並ぶ重臣となった」と言っています。

コピー取りや電話番など誰にでもできる仕事でも、全身全霊かけて真面目にやらなければ、手柄を立てて立身出世の道を開くことはできない。小さな仕事がきちんとできてこそ、大きな仕事を成し遂げられる人物になれる、というわけです。

(写真:iStock.com/Pravinrus Khumpangtip)

細心と大胆を両方持て

小さな仕事の大切さを説く一方で、渋沢は、大きなことに大胆にチャレンジする精神も忘れてはいけないと言います。

軽はずみな行動は慎むべきだが、リスクばかり気にしすぎると決断ができなくなり、弱気な方に流れがちになる。そのせいで進歩や発展が妨げられる恐れもある。先進諸国と伍していくには、間違いや失敗を恐れず、はつらつとしたチャレンジ精神を養わなければならない。

そのためには、物事にこだわりすぎたり、細かいことにやたらと目くじらを立てたりしないようにすることも大事である。むろん細心で周到な準備は必要だが、あまりに気を使いすぎるとチャレンジ精神が削がれてしまう。

要するに、細心さと大胆さの両方をバランスよく保ち、意欲的に新しいことに取り組むこと。これができて初めて、大事業を成功させることができる、というわけです。

(写真:iStock.com/Orla)

社会が進歩すると当然秩序も整う。それに伴い法律や規則の類も増えていく。その結果、決まり事に触れていないかビクビクするようになったり、決まりに則ってさえいればいいと現状に満足するようになったりする

そうなると、新しいことが始めにくくなる。自然と保守に傾くようになる。こんなことでは個人の成長も国家の前途もおぼつかないと、渋沢は当時の社会に対して警鐘を鳴らしています。

この渋沢の忠告に、私たち現代人もまた大いに耳を傾けるべきかもしれません。

仕事の8割は雑務

渋沢は、そろばんや帳簿付けなどの雑務をバカにして文句を言う新人に対して、「与えられた仕事に不平を言うな。しのごの言わず集中してやりなさい」と言っていますが、お恥ずかしながら私自身も、新人の頃はこうした雑務をバカにしていました。「事務仕事なんか、俺は簡単にこなせる」と甘く見ていたのです。

ところが、実際にやってみるとミスの連続です。何事も当たって砕けろという性格が災いして、失敗を繰り返してはしょっちゅう上司に怒られていました。

 

例えば、計算する仕事では検査を怠っていたため、間違った数値を報告しては「計算したものはもう一度確認するのが常識だ! バカモノ!」と叱られ、会議資料の作成では「自己流の変なやり方で作るな!」と叱られ、会議の進行役を任されれば「準備ができてない!」「仕切りが悪い!」と叱られるという、さんたんたる有様でした。

でも、叱られたおかげでミスに気づき、仕事を早く覚えることができました。叱られるたびに腹が立ちもしましたが、そもそもミスを連発したのは仕事をどこか甘く見ていた自分のせいでもある。私は叱られるたび慎重になり、ミスを振り返って誤りを正して次に生かすことを繰り返した結果、徐々に信頼を得て、仕事の面白みというものを理解するようになったのです。

このように、仕事の楽しさというのは雑務をこなすことから始まります

(写真:iStock.com/jat306)

私は常々「会社の仕事というのは雑用の固まりだ」と言っていますが、新人に限らずベテランでも、仕事の8割は雑務と言っても過言ではありません

何か重要な案件をやるにしても、やっていることそのものは書類を作成する、メールのやり取りをする、電話をかける、段取りを確認するなど、シンプルで他愛ないものばかりだからです。

でも、この他愛ないものを丁寧に、頭を使い、心を込めて処理していくことが仕事の行方を左右する

結局、仕事の成功というものは、雑務=小さな仕事をいかに積み重ねるかで決まります。

関連書籍

佐々木常夫『君から、動け。 渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』

挫折と裏切り。社会の理不尽に揉まれた私を支えたのは、渋沢の哲学だった――。50万部突破『働く君に贈る25の言葉』元・東レ取締役の佐々木常夫氏が「人生の師」とあおぐ、渋沢の言葉と思想を解説!新一万円札の顔・2021年大河ドラマ「青天を衝け」主人公に決定。日本史上最大の経営者が残した仕事と人生のヒント24!<内容例>小さな仕事を粗末にするな/上司のせいは自分のせい/自分の話はするな/徳川家康のマネジメント/大隈重信の欠点と長所/大久保利通との対立/「角(かど)」の大切さ/迷ったら懐に飛び込め 等……

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君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か

30代に渋沢栄一を知り大変な感銘を受け、以降、その思想を働き方・生き方の羅針盤としてきた元・東レ株式会社取締役の佐々木常夫氏が、心に深く残っている渋沢栄一の言葉や思想を選び、背景を紹介しつつ、その言葉と思想をビジネスにどう生かし実践したのかを語る『君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』。その中から一部を抜粋しご紹介します。

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佐々木常夫

1944年、秋田市生まれ。株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活を送る。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建などさまざまな事業改革に多忙を極めたが、いかにワークライフバランスを保つかを考え、定時に帰る独自の仕事術を身につける。2001年、東レ株式会社の取締役に就任。03年より東レ経営研究所社長。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを務める。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任している。『そうか、君は課長になったのか。』(WAVE出版)、『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(文響社)、『運命を引き受ける』(河出文庫)など著書多数。

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