「猫は、うれしかったことしか覚えていない」が出版されたのは2017年、うちの猫・コウハイは6歳でした。あれから5年、コウハイは11歳のナイスミドルに。 中年というよりはそろそろ初老かな。躊躇なく跳び乗っていた洗面台や棚の上にも「えっと、よし。えいっ!」と3拍くらい間を置いて、構え直してから跳ぶ今日この頃です。
つつがない日々を過ごしているけれど、彼の猫生に誤算があったとしたら、それは同居犬のセンパイが歳をとったということかもしれません。センパイは15歳を過ぎた頃から老化現象により目や耳が不自由になり、ここ1年ほどは歩けなくなり認知症の症状も(詳しくは連載中の「センパイはおばあちゃん」をどうぞ)。
センパイが夜鳴きをするようになったとき、驚き、ショックでフリーズしていたコウハイ。まさに「唖然として立ち尽くす」という感じ。どうしたらいいのかわからない、センパイがなぜこんなふうになってしまったのか、訳がわからず途方にくれていました。
夜中、センパイが騒ぎ出すと「わわわ! はじまった~」と隣の部屋に逃げ込み、気配を消して昼過ぎまで行方不明に(家の中でです)。私がキッチンでふと振り返ると「あの、センねえたんのことなんだけど……」と、相談を持ちかけるような神妙な顔のコウハイがいたこともありました。
物陰に隠れセンパイを待ち伏せしてケンカを吹っかけたり、おもちゃを目の前にポトンと落として遊びに誘ってみても、以前のような反応はもらえず、そんなときには寂しそう。彼なりの苦悩期がありました。
「センパイはおばあちゃんになってね、歳をとっていろんなことができなくなったり、わからなくなることがあるんだよ。センパイが悪いんじゃなくて自然のことだし、病気でもあるの。これ以上悪くならないように薬を飲んだり、お灸をしたりしてるのよ。大きな声を出したりするけど、きっとセンパイもよくわかってなくて、本人(犬)もつらいんだと思う。だから、みんなでセンパイを支えていこう。コウちゃんも、大変だと思うけどよろしく頼むよ。センパイにやさしくしてあげてね」わかってくれるといいなぁ、そう思いながら、ふたりのときにゆっくりはなしをしました。
猫は、納得するとさっと気持ちを切りかえる。今では、センパイがテーブルと椅子の間にハマっていたり、目が覚めて起き上りたそうにしていると、コウハイがそれを私に伝えに来てくれます。鳴きだすといち早く駆けつけたりもするようになりました。いつもセンパイが見える場所にいて、そっと見守り、夜勤も買って出て、センパイの警備に励んでいます。日に何度もセンパイに鼻キスをする様子は「大丈夫?」と聞いているみたい。
しかし、夜勤のときは午前3時頃になると「おなかすいたよー! ごーはーんー!」と棚やテーブルの上に置かれたものを落としまくる。夜勤の反動か、私への「かくれんぼ」の強要も激しくなりました。自分が眠くなると、寝ているセンパイの上にどっしりと乗ってこんこんと眠る。「センパイが重たいと思うんだけど?」と言っても知らん顔で高いびき。大声で絶叫されたりするのは苦手で、そんなときはそっと別の部屋へ避難……。
無理せずがんばり過ぎず、我慢もしない。人間(私)のあたふたに振り回されることもありません。その上で目の前のことを受け入れ、自分ができる協力を淡々と続けています。そのままの自分でセンパイに向き合い、今をちゃんと生きているコウハイなのでした。