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文庫解説の知られざる世界

2022.03.16 公開 ポスト

作家と解説者と編集者の小さな仲間から生まれる「強烈なメッセージ」が理想石原正康

最近では、文庫書き下ろしの作品も増えてきましたが、文庫でいちばん多いのは、単行本を切り替えるパターン。そのとき編集者ができる企みの大きなひとつは、文庫解説を誰に書いてもらうか? 幻冬舎設立メンバーのひとりであり、数多くの文芸作品を担当してきた石原正康からの寄稿です。

(写真:iStock.com/Normform)

解説は「作品」よりも「作家」のことを書いて欲しかった

幻冬舎の前に角川書店にいた。もう、30年も前のことになる。書籍の編集にいた5年間くらいは、月に文庫を5冊くらい作るのが当たりまえで。だから、そのときだけで300冊くらいの文庫を編集したことになる。

基本的に文芸作品には、単行本から文庫にしたものには文庫版あとがき、そして解説原稿をつけるのがそのときの角川文庫の常だった。

そして、作品を書いた作家の知人、友人関係から解説者を探すことが多かった。作品を解説してもらうのもいいが、生身の作者について書いてほしかったからだ。

身内で、なあなあなのが、良かった。小説は純文学だって、ミステリーだって多かれ少なかれ作家の個人的なことを書く。作家と解説者と編集者、その小さな仲間でグルになって強烈なメッセージとも言える解説を生みだせばいい。

幻冬舎文庫に、村上龍さんの「半島を出よ」という、北朝鮮の兵士たちが日本に上陸し福岡を占拠するという実にスリリングな長編がある。その作品の解説を引き受けてくれたのが島田雅彦さんだ。村上龍は縄文人の本能を持つとして展開していく原稿だが、作家村上龍の本質とその魅力を存分に伝えてくれる。実に島田さんの分析は村上さんへの愛情と敬意に充ちている。

で、最後に残るのは島田雅彦さんの作家としての熱い気概だった。

作家の身内であることや、作家への敬意があることが、解説者の条件かもしれない。

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