誰よりもお金にくわしいお金のプロ、村上世彰さん。著書『いま君に伝えたいお金の話』にはただのノウハウではない、お金に対する真摯な考え方、深い哲学が詰まっています。お金に振り回されることなく、上手に付き合っていくために知っておきたいことを、いくつかご紹介しましょう。
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日本特有の「お金=悪いもの」という感覚
「お金」という言葉を聞いたときに、どんなイメージが頭に浮かぶだろう?
お金持ち?
お金儲け?
札束?
悪いもの? 汚いもの?
ブランドもの?
もしくは幸せ? 不幸?
ある学校で授業をしたときに、こんな質問をしてくれた子がいました。
「もしお金がない世界があったら、そっちのほうがいいと思う。なぜなら、お金をめぐって人が争ったり、悪いことをしたりするから。お金さえなければ、そうした悪いことも起きないのではないか」
そのとき、僕はハッとしました。彼女はお金という言葉を聞いて「悪」をイメージしている……。
たしかにお金が争いの原因になることはあるけれど、そもそもお金にはいいも悪いもない。お金が悪いわけではない。まずはその誤解を解かなくてはいけないと思いました。
そこで僕はこんなふうに説明を始めました。
「そもそもお金はどうして、そしていつできたんだろう?」
お金は自然界にさいしょからあったものではありません。
人間が発明したものです。
ずっと昔、人間が物々交換をしていた頃。Aさんはいのししの肉を、Bさんは魚を持っている。Aさんが魚を、Bさんがいのししの肉を欲しいなら、AさんとBさんが物々交換をすればいい。ところが、Aさんは魚を欲しいけれど、Bさんは豆を欲しかった。このように単純な物々交換が成り立たないときに「お金」の原型が生まれたといわれています(お金の起源については諸説あります)。
たとえば古代中国では、貝殻が使われていたといわれています。AさんはBさんの魚を貝殻3枚で手に入れたかもしれない。Bさんはその貝殻を使って豆を手にできたかもしれない。
お金は悪いものでもいいものでもない、ただの「道具」
こんなふうに「お金」という道具が介在することによって、モノの売り買いが便利になった。モノに関してその価値を知る基準もできた。また、「お金」を使わないで貯めておくこともできるようになった。
こうした「お金」の誕生によって、モノの売り買いはたくさんの人たちの間で複雑に行われるようになり、そのやり取りは爆発的に増え、社会に豊かさをもたらしました。
まとめると、お金には「何かと交換できる」、高い安いがわかる「価値をはかる」、そしてお金のカタチでとっておける「貯める」という3つの機能があるのです。
質問をしてくれた彼女に伝えたかったのは、「お金」はこうした機能を持った便利な道具以上でも以下でもない、ということ。「お金」そのものは、悪いものでもいいものでもないのです。お金が原因で問題が起きるとしたら、それは、「お金」そのものに問題があるのではなく、そのお金を扱う人やその扱い方に問題があるときです。
たしかに、「お金」をめぐる争いはあちらでもこちらでも起きています。でも、それは、「お金」が悪さをしたからではありません。お金の力に惑わされた人々が勝手に争ったり悪いことをしたりしているだけなのです。
残念ながら、日本では「お金=汚いもの」「お金=悪いもの」という感覚が広く根づいています。メディアでも、お金をたくさん稼ぐことが「悪いこと」のように報じられることが多々あります。僕自身が批判の対象になったときには「日本ではこれほどまでにお金のイメージが悪いのか」と、改めて海外との違いを感じました。いまだに僕は、その違和感を抱いています。
「お金=汚いもの」とすることで、幸せの基準がお金そのものにならないようにしているのかもしれません。なぜ日本人がお金を汚いものと考えるようになったのか。そこには歴史的な背景があるようです。いろいろな説があって面白いので、ぜひ自分で調べてみてください。
僕からすれば、「お金=汚いもの」「お金=悪いもの」というとらえ方は、お金の本質をわかっていないことが原因のように見えます。お金は道具でしかない。そのことを理解していれば、お金を意味なく嫌ったり、汚いものと思ったりはしないはずです。
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いま君に伝えたいお金の話
いわゆる「村上ファンド事件」で一躍、時の人となった村上世彰さん。当時、メディアから激しいバッシングを受けていたため、あまりよい印象を持っていない方もいるかもしれません。そのイメージがガラリと変わるのが、村上さんの著書『いま君に伝えたいお金の話』。ただのノウハウではない、お金に対する真摯な考え方、深い哲学がここには詰まっています。お金に振り回されることなく、上手に付き合っていくために知っておきたいことを、いくつかご紹介しましょう。