大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者として知られる、アドラー心理学の第一人者、岸見一郎さん。『人生に悩んだらアドラーを読もう。』は、そんな岸見さんが若者たちの悩みにやさしく答えた、まさに「アドラー心理学の入門書」といえる内容です。あなたは今すぐ変われる、他者にあなたの生き方を決めさせない、あなたには幸せになる勇気がある……心強いメッセージ満載の本書から、一部をご紹介します。
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自分のことを嫌いなのは親のせい?
カウンセリングで自分のこと、好きですか、とたずねると大抵「嫌い」とか「好きではない」という答えが返ってきます。「なぜ、嫌いになったのですか?」とたずねたら、子どもの頃に親がほめてくれなかったからという答えが返ってきたことがありました。親が子どもの短所や欠点しか見てこなかったということもあるでしょう。そのような親は、言葉でも子どもに短所や欠点を指摘します。
このように、自分のことをひどくいう親がいても、自分のことを嫌いになるというのは、たしかに一つの反応ではありますが、自分のことは好きなまま、親に対して腹を立てたり、親を憎むということもありえます。親が自分をほめてくれなかったから自分のことを嫌いになったと答えた人にとっては、他にも反応の仕方があることは思いもよらないことであり、自分のことを好きにならないでおこうと、実は自分で決めていることに気づいていません。
他の人について、几帳面できちんとしているところが好きだと思っていたのに、細かいことにこだわるうるさい人に思えたり、おおらかなところが好きだったのに、無神経な人に見えるようになる、また優しい人が優柔不断に見えるようになるということがあります。
このように、前とは見方が変わる、あるいは、正確にいえば、見方を変えることには目的があります。それは、その人との関係を止めようと決心するためです。かつては好きだった、しかし今は熱が冷めてしまった人と別れようとする時、そのことを正当化する何らかの理由が、しかも、自分だけではなく相手側にも理由がいるのです。
自分についても同じことがいえます。自分のことを好きにならないでおこうという決心が最初にあります。そうすると、自分の性格のあれもこれも、長所というよりは短所に見えてきます。
何が起こるか予想できないから、自分を嫌いでもライフスタイルを変えない
なぜ自分のことを好きではないという人は、自分のことを好きにならないでおこうという決心をするのでしょうか? 一つは、今とは違うライフスタイルを選ぶと、次の瞬間に何が起こるか予想できないということがあります。
失恋の痛手からようやく立ち直った頃、気になる人が現れます。勇気を奮い起こして告白し、新しい恋愛が始まります。相手はそれまでの自分のことを知らないのですから、どんなふうにふるまってもいいはずです。それなのに数回も会えば、それまでの自分に戻ってしまいます。
新しい学校に転校した時、それまでの自分のことを知る人は誰一人いません。前の学校ではおとなしくしていたが、今度は思い切りはしゃいでみよう。そう思っても、すぐにその決心はしぼんでしまいます。
新しい自分になると次に何が起こるかわからないと不安になるよりは、それまでのなじみのやり方のままでいいと考えるからです。その意味で、自分のライフスタイルを変えないでおこう、今のままのライフスタイルで生きていこうという決心を不断にしているといえます。
ですから、ライフスタイルを変えるためにはまず変えないでおこうという決心を止める必要があります。
「自分を好きにならない」ことで人と関わらない/対人関係がうまくいかないことを正当化している
さらに、自分のことが好きになって、積極的に人と関わることになっても、いい関係を築けるかどうかはわかりません。人といい関係を築けないことが明らかになるくらいなら、自分のライフスタイルに原因があると思う方がいい、と考えているのです。
その意味では、今のライフスタイルは不便であっても、必ず変えないといけないと思っているわけではなく、それどころか、今のライフスタイルのままでいれば、人との関係を回避することを正当化できると考えているのです。
目を逸らされたことを自分が避けられたというふうに考える人は、そのように考えることで、初めから目を逸らした人との関係を築こうとは思っていません。拒まれるくらいなら初めから関わりを持たないのがいい、と考えます。
そのようなことが起こらないように最初から他の人、とりわけ自分が好意を持っている人との関係を持たないために、自分のことを好きにならないでおこうと決心するのです。
自分を好きになって自信を持てなければ、対人関係において積極的になることはできません。反対に積極的にならないことが自分のことを好きにならないでおこう、と決心することの目的なのです。
先に見た例でいえば、相手が目を逸らせたことを、避けられたとか、嫌われているというふうに見ようと決心するのは、その人との関係を深めないことが目的です。
かくて、自分のことを好きになれないことを好きな人に自分の気持ちを打ち明けられないことの理由にすることができます。それどころか、初めから嫌われていると思い込むことで、いわば不戦敗状態になってしまうわけです。
同じことは、ライフスタイルは生まれつきだと思いたい人にもいえます。生まれつきであれば、今の自分のライフスタイルについて、自分には何の責任もないといえるからです。親を責めることもできます。そうすることによって、自分が対人関係においてうまくいかない時の理由ができるのです。
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