大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者として知られる、アドラー心理学の第一人者、岸見一郎さん。『人生に悩んだらアドラーを読もう。』は、そんな岸見さんが若者たちの悩みにやさしく答えた、まさに「アドラー心理学の入門書」といえる内容です。あなたは今すぐ変われる、他者にあなたの生き方を決めさせない、あなたには幸せになる勇気がある……心強いメッセージ満載の本書から、一部をご紹介します。
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「お前は頭がいい」は「属性付与」。それを子どもが受け入れる必要はない
私が子どもの頃、祖父は私に「お前は頭がいい」とよくいっていました。
前に、「あなたは人付き合いが下手ね」と親が子どもにいうということを書きました。こんなふうに親は子どもの短所を見て、実際にそれを子どもの前で口にするかはともかく、子どもについて「あなたはこんな子だ」とその性質(属性)を決めてしまうのです。これをレインという精神科医は「属性付与」という言葉で説明しています。
問題は、例えば、子どもが「お母さんのこと嫌い」といっても、親はそれを認めようとせず、「でも、私はお前が私を好きだということがわかっている」という場合のように、それぞれが相手にする属性付与が一致していないことがあるということです。
しかも親が「お前は(本当は)私のことを好きである」という時、これは事実上命令になります。つまり、私を好きであれ、と親は子どもに命令しているのです。「あなたはいい子だね」「お前は(まだ)子どもだ」というのも同じです。
私の祖父の場合ははっきりしていて、「お前は頭がいい」という属性付与に続いて「大きくなったら京大へ行けよ」が口癖だったのです。
このようなことをいわれても子どもは親を好きになれるわけではありませんし、この祖父の言葉は、保育園に行っていた私にも漠然としたものであっても大きな縛りになったことは間違いありません。小学校に上がる前から、勉強ができることを期待されたわけですから。
しかし、子どもは親によるこのような属性付与を受け入れる必要はないのです。誰も他者の期待を満たすために生きているわけではないからです。
自分を人の期待に合わせないという決心をしたり、あるいは、人の命令に従わない決心をすれば、そのことの代償を払わなければなりません。人によく思われないとか、嫌われるというようなことです。
しかし、人の期待に合わせないために自分を嫌う人がいるということは、自分が自由に生きているということの証であるといえます。
自由に生きると嫌われる。それでも…
自由に生きるということと人によく思われることを両立させることは、多くの場合、困難なことです。
人からよく思われたいのであれば自由を手放す必要があります。そして実際これを選ぶ人はあります。親が期待するような人になろうとすることです。しかし、自由に生きるということは、それに伴う代償や責任を引き受けるということでもあります。
ここでいう属性付与は、親やあるいは特定の大人によってされることもありますが、漠然と「社会」によって、しかもこんなふうであれ、と無言の圧力となって若い人の前に立ちはだかることがあります。そこで学生の時は自由にふるまえたのに、就職活動を始めた若者は、皆、同じようなスーツを着ることになってしまいます。
ある時、電車に乗っていたらふいに隣の席にすわっていた青年に「今、何を読んでられるのですか」と話しかけられました。私は電車の中で隣にすわっている人がどんな本を読んでいるか気になることがあっても、たずねることはありませんから、青年がこんなふうにたずねたことに驚きました。
その時、私はある精神科医の書いた本を読んでいたのですが、その本について話した後、彼はこんなことをいいました。
「僕は欝病で(今は躁の時期なのですが)、入院するように勧められています。大人たちは僕に社会適応しろというのです。でも、そうすることは僕の死を意味します。どうしたらいいですか」
彼は社会に適応することを強いられることに精一杯抵抗していました。彼がいう大人も、かつてはこの青年と同じようにステレオタイプな生き方を強いられることに抵抗していたはずなのです。それなのに、その時の気持ちをいつの頃からか忘れてしまったように見えます。そして、かつて自分がいわれていやだったことを若い人にいっているのです。
自分が自分のために自分の人生を生きていないとすれば、誰が自分のために生きてくれるのだろうというユダヤ教の教えがあります。自分が人生の主人公です。主人公であるということは、脇役ではないということです。
誰かのために生きる必要はありません。ですから、今、本当にしたいことをしているかと問われたら、ためらわずに「はい」と答えてほしいのです。
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