大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者として知られる、アドラー心理学の第一人者、岸見一郎さん。『人生に悩んだらアドラーを読もう。』は、そんな岸見さんが若者たちの悩みにやさしく答えた、まさに「アドラー心理学の入門書」といえる内容です。あなたは今すぐ変われる、他者にあなたの生き方を決めさせない、あなたには幸せになる勇気がある……心強いメッセージ満載の本書から、一部をご紹介します。
* * *
親が自分をどう見ていようと、自分で自分の見方を変えることは可能
親や社会による属性付与に対して具体的にどうしたらいいかといえば、まずできることは、例えば、ただ「お母(父)さんは僕(私)のことをそんなふうに見ているのですね」ということです。
「あなたは何をしても最後までやりとげるということはない。飽きっぽいね」という親の言葉を例にとると、「何をしても」はいいすぎでしょう。たしかに最後までやりとげなかったこともあるでしょう。しかし「何をしても」ではなかったはずです。
それに「最後までやりとげる」必要がなかったこともあったと思うのです。本でもゲームでも読み始めたり、やり始めた時、すぐにおもしろくないことがわかることがあります。あるいは、少なくとも今の自分には必要がないことがわかるということはあるでしょう。
そんな時は、本であれば、その本を閉じる勇気を持つことはむしろ大切なことです。
おもしろくなくても最後まで読み続けなければならないとは思いません。これはもう読まないでおこう、とか、しないでおこうと思えることは、飽きっぽいのではなく、何かを止める決断力があるという意味で、私はこれをむしろ長所だと思います。
こんなふうに、親が自分をどう見ていようとも、自分で自分についての見方を変えることは可能です。そうすることによって、親の見方にとらわれて、自分の短所や欠点を自分の中に見るのではなく、むしろ長所と見ることによって、自分のことを好きになってほしいのです。
短所と長所が別々にあるわけではなく、短所と思われている資質をそのまま長所として活かすことができます。ある日、突然、それまでとは違った人になることは、例えば、控え目な人が一夜にして能天気な明るい人になることは、実際問題としては難しいのです。
性格を変えるのでなく、自分の性格に違う光を当てる
このことがわかった上で、自分の性格に違う光を当てていく必要があります。
ある人が「すべてがいやになりました」といいました。もうおわかりかと思いますが、いやになることはあっても<すべて>がいやになるというのは本当ではないでしょう。
「すべてがいやになりました」という弟子の言葉に師はいいました。
「それはいいことだ」
いやになるということに師は違った光を当てました。<すべて>がいやになったとは本当だとは思いませんが、「いやになる」ためには、ただそうなることができるはずもなく、人生を真剣に生きようとしたからこそいやになったのであって、人生について真摯に真剣に考えるという点に注目すれば、そこに違った光を当てることができます。
私が高校生の時、私に友人がいないことを心配した母が、担任の先生にそのことについて相談をしました。先生は、いいました。「彼は友達を必要としないのです」。
これが親を大いに安堵させ、その話を母から聞かされた私もなるほどそんなふうに見ることができるのだ、と驚いたものです。友達がいないという母の言葉に先生は違う光を当てたのです。
それまでは、私は友人が多くないこと、普通のいい方をすると自分が明るくないことを気にかけていました。暗いという言葉はいわれてうれしいものではありません。いわゆる明るい人、対人関係が上手な人がカウンセリングにくることはないといっていいくらいです。この暗いと思っている人に違う光を当てることができます。
私はやがて、こんなふうに考えることができるようになりました。
これまで人にひどいことをいわれていやな思いをしたことがありました。しかし、少なくとも故意に人を傷つける言葉をいったことはない、いつも人の気持ちのことを考え、こんなふうにいったらその言葉を相手はどう受け止めるかということに心を配ってきたではないか。こんな私は、「暗い」のではなく、「やさしい」と。
人生に悩んだらアドラーを読もう。の記事をもっと読む
人生に悩んだらアドラーを読もう。
大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者として知られる、アドラー心理学の第一人者、岸見一郎さん。『人生に悩んだらアドラーを読もう。』は、そんな岸見さんが若者たちの悩みにやさしく答えた、まさに「アドラー心理学の入門書」といえる内容です。あなたは今すぐ変われる、他者にあなたの生き方を決めさせない、あなたには幸せになる勇気がある……心強いメッセージ満載の本書から、一部をご紹介します。