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人生に悩んだらアドラーを読もう。

2022.04.17 公開 ポスト

「承認」や「注目」を得たい人が見落としているもの 基本的欲求を満たす唯一の方法は…岸見一郎

大ベストセラー『嫌われる勇気』の著者として知られる、アドラー心理学の第一人者、岸見一郎さん。『人生に悩んだらアドラーを読もう。』は、そんな岸見さんが若者たちの悩みにやさしく答えた、まさに「アドラー心理学の入門書」といえる内容です。あなたは今すぐ変われる、他者にあなたの生き方を決めさせない、あなたには幸せになる勇気がある……心強いメッセージ満載の本書から、一部をご紹介します。

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他人の期待通りに生きる必要はないし、他人もあなたの期待を満たす必要はない

これまで他の人の期待を満たす必要はないといってきました。ここでさらに知ってほしいのは、他の人も同じだということです。つまり、あなたが他の人の期待を満たす必要がないというのであれば、他の人もあなたの期待を満たす必要はないということです。

(写真:iStock.com/takasuu)

ところが、自分だったらこうするだろうと思って他の人を見ていて、その人が自分が期待しているように動いてくれなければ腹を立てる人がいます

「あの人が入院した時、私は見舞いに行ったのだ。それなのに、私が入院した時には見舞いにきてくれなかった」

見舞いに行くのは、ただただ心配だからで、取るものもとりあえず見舞いに駆けつけたはずです。自分が病気の時に見舞いにきてもらおうと思って見舞いに行く人はないでしょう。他方、自分が入院している時に見舞いにこない人があったとしても、その人が必ず見舞いにこなければならない理由はありません。

 

私のところへカウンセリングにこられる方によく見られるのは「この人は私に何をしてくれるだろうか」とばかりいつも考えていることです。他人は、その人を幸せにするためにだけ生きているわけではありません。もちろん、そのように思っていないというのではありません。しかし、「あの人は私に何もしてくれない」と思うのは自己中心的に生きているからです。

こんなふうに考えている人同士がつきあったり、結婚したらどんなことになるかは目に見えています。幸福になるための原則があるとすれば、「この人は私に何をしてくれるだろうか」ではなく「自分はこの人に何ができるだろうか」と考えることです。

「所属感」は人の基本的な欲求だが、「注目されること」では得られない

この人は私に何をしてくれるかということばかり考えるようになったのは、自分では何もしなくてもまわりの人がそのことをよしとしてきたからです。

親が子どもを甘やかし、いつも注目の中心に立つようにさせ、子どもの方もそのことを当然だと思うようになり、他の人によく思われるに値する努力を何もしなくても、ただいるだけでいいのだと思うようになったのです。

(写真:iStock.com/RyanKing999)

所属感、自分の居場所があると感じられることは、人の基本的な欲求です。家庭の中はいうに及ばず、学校でも、進級してクラス替えになった時、まわりに見知らぬ人が多いと落ち着きません。それでもしばらくすると、挨拶をしたり、話をするようになります。このようにして新しく出会った人とも親しくなれると、このクラスにいてもいいのだ、と感じられるようになるでしょう。

ここにいてもいいのだという感覚は、他の何にも換えられない基本的な欲求です。これを得られないために問題行動をしたり、神経症になるなど自分にとって不利なことをして、所属感を得ようとするのは得策とは思えません。

しかし、実はそうすることで得ようとしているのは、所属感ではなく、ただ注目されることです。ここにいてもいい、居場所があると感じられるために、注目を得ようとしますが、このことでは所属感を得ることはできません

人は世界の中にあっても、世界の中心にいるわけではないのに、この点を誤解し、いわば天動説のように、他のすべての人が自分のまわりに、自分のためにいる、と思ってしまいます。

「所属感」は「貢献」の行為そのもので得ることができる

これまでのところでは自分を好きになるために、自分に違う光を当てるということを見ましたが、自分のよい面を数え上げているだけでは十分ではありません。先にも見たように、変わろうとする決心が最初になければ、自分を好きになったり、自分に違う光を当てようとは思えず、それどころか、変わる決心をしないために、さらに、自分の課題を回避するために、こんなところが自分にあるから、とむしろ自分を好きになろうとしないことがあるからです。

(写真:iStock.com/Nattakorn Maneerat)

このような人が自分を好きになろうと思うようになるのは簡単ではありません。まず、自分に違う光を当てることで自分を好きになれるということを見ましたが、さらに、どんな時に自分を好きと思えるか考えてみてほしいのです。それは、自分が誰かの役に立てていると感じられる時ではないでしょうか?

所属感は、ただ人から与えられるだけではなく、他者に与えることによって得ることができます。それは注目されようとすることによっては得ることはできません。なぜなら、他の人が必ず注目してくれるとは限らないからです。

 

貢献という言葉はわかりにくいとか、大げさな言葉だと思う人があるかもしれませんが、例えば、家族が食後ソファでテレビを観ながらくつろいでいる時に、自分一人で食器を洗うことをどう感じるか想像してみてください。

私がいう貢献とは大げさなことではなく、そんな日常のささいなことです。もちろん、奉仕とか義務とはほど遠いものです。なぜなら、それは強いられるものでもなく、自発的な営みであり、その行為によって何かを期待するようなことではないからです。

 

他の人がくつろいでいる時にそうすることを苦痛や不満、あるいは損で不当なことだと思う人はたしかにありますし、むしろ、多くの人がそう思うといってもいいすぎではないかもしれません。

なぜそんなふうに思うかといえば、子どもの頃から受けてきた賞罰教育、とりわけ、ほめられて育ったことの影響である、と私は考えています。誰も見ていないからといってゴミを拾わないということ、「これだけやってあげたのに」と見返りを求めてしまうこと、感謝されることを期待することはおかしいでしょう。自分の行為は、それ自体で完結します。そのことで他の人から認められるかとか、感謝されるということは問題にならないということです。他者からの承認や感謝がなくても、行為そのものに価値や意味があるのです。

(写真:iStock.com/Alfa Studio)

自分がしたことに見返りや感謝を求める人がいる一方で、誰も認めてくれなくても、見ていなくても、喜びを感じる人があるというのも本当です。私はこのことを納得してもらうことをいつも難しいと思います。そのように感じない人にとっては、冬の最中に真夏の暑さを、夏の最中に冬の寒さを想像するようなことだからです。

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本連載は今回で最終回。アドラー心理学についてもっと詳しく知りたい方は幻冬舎刊『人生に悩んだらアドラーを読もう。』をお求めください。

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人生に悩んだらアドラーを読もう。

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岸見一郎

1956年、京都府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。著書に『アドラー心理学入門』(KKベストセラーズ)、『幸福の哲学』(講談社)、『人生を変える勇気 踏み出せない時のアドラー心理学』(中央公論新社)、『老いた親を愛せますか?それでも介護はやってくる』『子どもをのばすアドラーの言葉 子育ての勇気』『成功ではなく、幸福について語ろう』(幻冬舎)訳書にプラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)などがある。共著『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)はベストセラーに。

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