誰よりもお金にくわしいお金のプロ、村上世彰さん。著書『いま君に伝えたいお金の話』にはただのノウハウではない、お金に対する真摯な考え方、深い哲学が詰まっています。お金に振り回されることなく、上手に付き合っていくために知っておきたいことを、いくつかご紹介しましょう。
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お金は社会を回る「血液」。それを「1800兆円」貯め込む日本人
お金は、道具であると同時に、人間の身体でいう血液のようなものです。健康な身体では、十分な血液が身体中を回って栄養や必要な成分を届けたり、逆に不要になったものを取り去ったりして、ひとつひとつの細胞の健康を保っています。
血液が不足したりうまくめぐらなくなったりすると、必要な栄養が必要なところに届かない、不要なものが取り除かれない状態になって、身体の具合が悪くなる。お金と社会の関係も同じで、社会の血液となるお金の動きが悪いと、社会も健康ではなくなってしまうのです。
いまの日本は、血液の流れが良くない身体と同じ状態になっていると、僕は考えています。血液となるお金は日本にいっぱいあるのに、うまくめぐっていないのです。
日本人がいったいどのくらいのお金を持っていると思いますか? 実はびっくりするくらいお金持ちです。
それぞれの家庭や人が所有するお金の合計は、日本人全体で1800兆円を超えるといわれています(「家計の金融資産」2017年調べ)。1800兆円といっても、大きすぎてよくわからないかもしれません。日本の国家予算がだいたい100兆円なので、その約18倍ものお金を日本人全体で持っていることになります。
これって、日本に住む赤ちゃんからお年寄りまで全員(1億2700万人)に、一人当たり1000万円を配ってもまだたくさんのおつりがくるほどのお金です。すごいと思いませんか?
でもみんなこのお金をどこに隠しているんだろう? 世界でも「日本人は貯金が大好き」といわれているようだけれど、この1800兆円のうち、なんと半分以上を銀行に貯金しているのです。
海外では、銀行に貯金するよりも、株式に投資するなどして自分の資産を運用する割合が高いのが一般的です。持っているお金を銀行に預けてばかりいることの問題点はあとで詳しく説明しますが、いまは、「日本人はお金を手元に貯め込んでしまうことが多い」ということを覚えておいてください。
日本人の「貯め込み」グセが経済を止めている
これは家計だけではなく、会社も状況は同じです。日本の会社は、本来もっと事業を大きくしたり人を雇ったりするために使うべき資金を貯め込んでいる。その額は、20年くらい前に100兆円ちょっとだったものが、いまや400兆円を超えるほどの状況となっています。
この20年くらい、日本の社会の調子がいまひとつ悪い原因は、この「貯め込み」のせいだと僕は思っています。
血液が全身をくまなくめぐることで人の健康が保たれるように、社会もお金が回ってはじめて健康でいられる。にもかかわらず、日本人も日本の会社も、お金を使うことより、貯め込むほうを優先している。
血液をめぐらせずにどこかで大量に貯め込んでしまったら、身体はどうなると思いますか? これを想像すれば、いまの日本が健康な状態ではないことはすぐにわかると思います。
なぜこうした状況が起きてしまうのでしょうか。先行きが見えない。将来が不安だから。……その原因は、やはりお金が社会のなかでうまくめぐっていないからだと思います。
社会のすみずみにまでお金がめぐっていれば、きちんとしたセーフティネットができ上がるため、その先の生活に不安を感じてお金をとにもかくにも「貯め込む」という必要がなくなります。そうすると、お金はもっと大きな流れとなって社会をめぐります。
自分の持っているお金を全部使ってしまいなさいといいたいわけではありません。お金は回して増やすもの、増えたらまた回すものだということを伝えたいのです。
もうひとつ知っておいてほしいこと。日本のみんながお金を貯め込んでいる一方で、日本の政府は毎年国を運営していくためのお金が足りないといって、「赤字国債」と呼ばれる借金を増やしています。その金額はなんと1000兆円超。
国というのは、みんなからの「税金」が大きな収入です。モノを買ったら税を払う、仕事をしてお金を稼いだら税を払う、会社が儲かったら税を払う。個人も会社も貯め込まずに回すことでお金は動き、お金が動くと、そこに「税金」が発生し、国が使えるお金が増えるのです。
そして国が使うお金というのは、本来「安心」とか「安全」とか「便利」とか、いろいろなカタチで日々の暮らしに還元されるべきもの。こうしてお金はめぐっていくのです。
でも、いまの日本では、お金はいっぱいあるのにちゃんと動いていないから、国が使えるお金が十分ではなくて、足りない分を借金しているのです。なんだか変だと思いませんか。
いま君に伝えたいお金の話
いわゆる「村上ファンド事件」で一躍、時の人となった村上世彰さん。当時、メディアから激しいバッシングを受けていたため、あまりよい印象を持っていない方もいるかもしれません。そのイメージがガラリと変わるのが、村上さんの著書『いま君に伝えたいお金の話』。ただのノウハウではない、お金に対する真摯な考え方、深い哲学がここには詰まっています。お金に振り回されることなく、上手に付き合っていくために知っておきたいことを、いくつかご紹介しましょう。