誰よりもお金にくわしいお金のプロ、村上世彰さん。著書『いま君に伝えたいお金の話』にはただのノウハウではない、お金に対する真摯な考え方、深い哲学が詰まっています。お金に振り回されることなく、上手に付き合っていくために知っておきたいことを、いくつかご紹介しましょう。
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投資は「期待値」で考える
僕は株への投資を通じてお金を増やしてきました。そんな僕が株の投資をするときにもっとも重視するのが「期待値」という考え方です。
期待値とは、儲かる確率のこと。100円である株を買ったときに、将来それが300円になる可能性はどれくらいか、逆に50円になってしまう可能性はどれくらいか、ということを自分なりに一生懸命考えて、期待値を割り出します。
たとえば100円で買った株が3倍(300円)になる可能性が10%、0.5倍(50円)になる可能性が90%だとしましょう。その場合、期待値は、3×10%+0.5×90%=0.75となります。
期待値の基本は1です。1というのは、100円が100円のままであるということ。
100円が100円のままである可能性が100%のとき、1×100%+0×0%=1となります。ですから、1を上回るときには期待値が高い、下回るときには期待値が低い、となります。期待値が高ければ高いほど、うまくいったときの儲けは大きくなる。
では、100円で買った株が10倍(1000円)になる可能性が10%、0.5倍(50円)になる可能性が90%だったらどうでしょう。
10×10%+0.5×90%=1.45となります。
大きく1を上回っているから、期待値は非常に高いといえます。
期待値は、たとえばじゃんけんを10回やったら自分が何回勝つことができるかという勝率とは別ものです。勝つ可能性が低くても、その少ない可能性のなかで勝つことができたら、どれくらい大きなものを得ることができるのかということを予想する数字です。
また、期待値は、何倍になるか、そして%で表している「可能性」を自分で考えて数字を当てはめなくてはいけないというところが大きなポイントです。
物事を数字でとらえるクセをつける
ここで、1章で紹介した「物事を数字でとらえる」ということが生きてきます。国については成長率や現在のGDP、人口、借金、こうした大きな経済の指標はもちろんのこと、為替レートや土地・住宅の価格、平均的な所得なども全部数字で見ることができます。まずこうしたものをすべて頭に叩き込む。
こうした多くの数字を自分なりに頭のなかで整理して考えていくと、世界でのその国の位置や今後の予想が自分なりに見えてくる。いろいろな数字を自分の経験や勘などとすり合わせながら、株だったら? 土地だったら? といろいろな期待値の式に当てはめてみるのです。こうすることで、どこの国でどのような投資をするべきかがおのずとわかってきます。
投資するべき対象が決まったら、次はもっと細かい数字に目を向けます。株式だったら業界全体の規模や個別の企業の業績、その推移、資産、借金、従業員数、とにかく入手できるありとあらゆる数字を自分の頭にインプットします。
こうして、世界から見たその国の位置づけ、その国における事業の状況、そこにおける企業の状況などをすべて数字で把握して、その数字から期待値を導き出すのです。
期待値に正解はないし、多くの人がそれぞれの経験や勉強によって勝手に出しているものだから、自分で考えて割り出した期待値が、本当にそのとおりになるかどうかは、誰にもわかりません。でも、ひとつでも多くの数字を頭のなかに入れて、データとして蓄積していくこと、そこに自分の経験値が加わることで、期待値の精度は上がっていきます。
さらに、そのときの状況や思わぬ出来事が起きた際にどういうふうに対応するか、順調なときでも、期待値をさらに上げるために何かできることがあるかを考え実行することで、この期待値を下げない、もしくは高めていくことができるのです。
残念ながら、こうして「物事を数字でとらえる」というのは今日やろうと思って急にできるものではありません。小さな頃から、数字に親しむ、数字で覚える、数字で考えるという練習を繰り返し、数字に強くなることがとても大事なのです。
いま君に伝えたいお金の話
いわゆる「村上ファンド事件」で一躍、時の人となった村上世彰さん。当時、メディアから激しいバッシングを受けていたため、あまりよい印象を持っていない方もいるかもしれません。そのイメージがガラリと変わるのが、村上さんの著書『いま君に伝えたいお金の話』。ただのノウハウではない、お金に対する真摯な考え方、深い哲学がここには詰まっています。お金に振り回されることなく、上手に付き合っていくために知っておきたいことを、いくつかご紹介しましょう。