発売後から大反響! のベストセラー『80歳の壁』(和田秀樹著)。体力も気力も70代とは全然違う「80歳」の壁をラクして超えて、寿命をのばす――その秘訣がつまった本書から、試し読みをお届けします。
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幸せな晩年と不満足な晩年、どちらを選びますか?
「人生百年」と言われる時代になりました。日本にはいま100歳オーバーの人が8万6000人もいるそうです。みなさんの周りにも、とても元気な90代、100歳代の人がいるでしょう。
しかし当然ですが「人生百年」と言っても、全員が90歳、100歳を迎えられるわけではありません。また、90歳、100歳を迎えたとしても、全員が健康で幸せという保証もありません。介助を受けてベッドで過ごしている、家族に虐しいたげられている、あるいはボケてしまい自分が誰かわからない、ということも考えられます。
未来は誰にもわかりません。極端な話、明日はどうなるかわからないのです。
私は61歳の医師です。高齢者専門の精神科医として約35年間、臨床現場で過ごしてきました。診療した患者さんは6000人を超えます。介護の場や講演会など病院以外も含めると、その数は1万人を超えるでしょう。自分で言うのもなんですが、老年医学のプロフェッショナルだと自負しています。
当然ですが、人はそれぞれ年齢も体型も違います。性格や考え方も違います。生活の環境や家族構成も違う。仕事も、かかった病気も違う。つまり、一人一人は、まったく違う人生を歩む、まったくの別人です。
しかし、すべての人に共通することがあります。
それは、全員がやがて死んでいく、ということです。死に方や年齢はまちまちですが、これだけは避けようがありません。
ですが、死に至るまでには、二つの道があります。
一つは、幸せな道です。最期に「いい人生だった。ありがとう」と満足しながら死んでいける道です。
もう一つは、不満足な道です。「ああ、あのときに」とか「なんでこんなことに」と後悔しながら死んでいく道です。
どちらの道を選びたいか? それは聞くまでもないでしょう。
老いを受け入れ、できることを大事にする
80歳からの人生は、70代とはまるで違ってきます。
昨日までできていたことが今日はできない、という事態に何度も遭遇します。
体の不調も多くなります。ガン、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎など、命にかかわる病気も発症しやすくなります。「認知症かな」と自信をなくすこともあるでしょう。配偶者や身近な人の死を経験し、孤独や絶望を感じるかもしれません。
「生老病死(しょうろうびょうし)」の大きな壁が、怒濤(どとう)のように押し寄せてくるのです。
この本では、目の前に現れる壁を超えていくヒントをさまざまに提示していきますが、突き詰めるとそれは、たった一つの考え方に集約できます。
老いを受け入れ、できることを大事にする、という考え方です。
これが「幸せな晩年」と「不満足な晩年」の境目にもなると思っています。
「幸せ」とは、本人の主観によるものです。つまり、自分がどう考えるかによって決まってくるものです。
たとえば、自分の老いを嘆き、あれができなくなった、これだけしか残されていない、と「ないない」を数えながら生きる人がいます。かたや、自分の老いを受け入れつつ、まだこれはできる、あれも残っていると「あるある」を大切にしながら生きる人がいます。どちらの人が幸せなのでしょうか?
答えは本人にしかわかりません。しかし、私のこれまでの臨床経験では「あるある」で生きる人のほうが幸せそうに見えました。家族や周囲の人とも、楽しそうにしている人が多かったのです。
いま日本では、65歳以上を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と呼んでいます。でも「高齢者」も「後期」も、なんだか言葉の響きが寂しくありませんか。
ここまで頑張って生きてきたのですから、もっと明るくて希望の持てる呼び方にすべきだと、私は常々思っています。そこで、提案したいと思います。
80歳を超えた人は高齢者ではなく「幸齢者」──。
これなら敬意も表せるし、温かみもあります。運も味方です。年を取ることへの希望も感じられるでしょう。この本では、80歳オーバーを「幸齢者」と呼びたいと思います。
(第3回へ続く)
80歳の壁
70代とはまるで違って、一つ一つの選択が命に直結する80歳からの人生。ラクして壁を超えて寿命をのばす「正解」があります!