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貧乏国ニッポン

2022.04.28 公開 ポスト

1ドル=130円突破で20年ぶりの円安!生活のために知りたい為替のこと加谷珪一(経済評論家)

円相場が下落し、一時1ドル=130円台と20年ぶりの円安・ドル高水準をつけました。ロシアのウクライナ侵攻に起因する資源高というダブルパンチに、いまの日本は果たして持ち堪えることができるのでしょうか。そして、私たちの生活はどのような変化を強いられるのでしょうか。

2年前に刊行された経済評論家、加谷珪一さんの著書『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』は、多方面で国際的な地位が低下する日本の現状を浮き彫りにしました。と、同時にこれからの私たちが意識すべき提言が盛り込まれています。今回、危機に瀕する日本経済のいまと未来をお伝えすべく、本書をnoteで全文公開することになりました。幻冬舎plusでもその一部をお伝えします。

*   *   *

海外に行くと何もかもが安く感じられた時代

(写真:iStock.com/metamorworks)

年配の読者の方は実体験として理解できると思いますが、日本人が海外に行くと何もかもが安く感じられた時代がありました。その傾向がもっとも顕著だったのが、日本の国力が今ほど衰えておらず、しかも円高が急激に進んだ1980年から1990年代にかけてでしょう。

今とは異なり、日本企業の国際競争力は高く、低価格で質の高い製品を大量に輸出していたことから、多くの米国企業が倒産し、米国では失業が大きな社会問題となっていました。

プラザ合意で急激な円高に

米国政府は日本に対して強い警戒感を示し、1985年には為替を円高に誘導するよう呼びかけ、各国は米国の要請に応じることになりました。

(写真:iStock.com/mirza1963)

協議が行われたホテルの名前を取って「プラザ合意」と呼ばれていますが、この国際的な合意によって1ドル=250円だった日本円は一気に上昇を開始、1995年には何と80円台まで高騰したのです。

円高は輸出産業には逆風だが……

円高が進んだことで輸出産業には逆風となりましたが、本当に企業の競争力がある時には、為替レートの変化で経営がダメになることはありません。確かに円高になって見かけ上の輸出金額は減りますが、同時に、製品の製造に欠かせない原材料を安く輸入できるということでもありますから、一方的に損をするわけではないからです。

かつてバックパッカーがブームになったわけ

結局、日本企業の業績はそれほど悪化せず、円高対策による低金利で国内には大量のマネーが供給され、逆に日本はバブル経済に突入することになります。

今まで1ドルの海外製品を買うためには250円の出費が必要だったにもかかわらず、それが150円、100円で済むようになったわけですから、多くの日本人にとって海外は何もかもが安いという印象になりました。しかも、バブル経済によるカネ余りが加わりましたから、多くの日本人が大挙してパリやニューヨークを訪れ、すさまじい勢いで買い物をしたわけです(当時の日本人の下品な行動は今の中国人も真っ青でした)。

(写真:iStock.com/Nattakorn Maneerat)

その後、日本経済はバブル崩壊を迎えますが、この影響が深刻化するのはかなり後になってからであり、1990年代も日本人による海外での買い物は続いていました。この時代は、バックパッカーと呼ばれる若者の貧乏海外旅行がちょっとしたブームになりましたが、ほとんどお金をかけずに若者が自由に海外旅行を楽しむことができたのも、圧倒的な円高のおかげといってよいでしょう。

消費者にとって為替は生活水準に直結する

日本で消費される商品の多くは輸入、もしくは輸入品を原材料に製造されていますから、為替レートから大きな影響を受けます。国内の賃金が据え置かれたままで、輸入品の物価が上がれば、当然、生活は苦しくなります。付加価値の高い製造業にとって為替はそれほど重要ではありませんが、消費者にとって為替というのは生活水準に直結する重要なテーマなのです。

極端な円高で、海外旅行に行く日本人が急増したことからも分かるように、為替レートが動くと消費者の行動パターンが大きく変わってきます。当然ですが、外国から日本にやってくる観光客の動向についても、為替レートがカギを握っているわけです。

プラザ合意は、政治的な力学によって人為的に作られた円高なのですが、本来、為替レートというのはどのように決まるものなのでしょうか。

為替レートは基本的に購買力平価で決まる

為替レートは様々な要因で動きますが、長期的に見た場合、もっとも関連性が高いのは物価です。為替は2国間の通貨を交換するレートですから、厳密に言うと、為替レートにもっとも大きな影響を及ぼすのは2国間の物価の違いということになります。

日本において100円で売られているペンがあったとします。為替レートが1ドル=100円だった場合、このペンは米国では1ドルの価格で売られているはずです。もし米国の物価が上昇して2倍になったと仮定すると、このペンの価格は米国では2ドルになります。一方、日本の物価には変化がありませんから、日本国内では相変わらずこのペンは100円で売られています。

(写真:iStock.com/Seiya Tabuchi)

日本でこのペンを100円で買って、米国に持ち込み、米国内で売った場合、売り手は2ドルを手にすることができます。ここで為替レートが1ドル=100円で変更がない場合、売った代金である2ドルを両替すると200円になりますから、日本で買って米国で売れば簡単に儲けが出てしまいます。

為替は2国間の物価の違いを反映している

これはペンだけの話ですが、あらゆる商品で同じような現象が発生しますから、この状況が続けば市場は大混乱に陥ってしまうでしょう。

現実にはそのようなことはなく、米国の物価が上昇した場合には、為替レートが動き、両国の価格差を調整することになります。このケースでは米国の物価が2倍になったので、その分だけドルは安くなり(つまり円が高くなり)、為替レートは1ドル=50円になるはずです。

物価が上昇した国の為替は安く、下落した国の為替は高くなる

1ドル=50円の場合、日本でこのペンを100円で仕入れて米国で2ドルで売っても、日本円として得られるのは買値と同じ100円ですから、日本で買って米国で売ればボロ儲け、というわけにはいきません。

(写真:iStock.com/y-studio)

現実の為替市場は様々な出来事から影響を受けますから、市場のレートが常にこの法則に沿って動くわけではありません。しかし、物価が上昇した国の為替は安くなり、逆に物価が下落した国の為替は高くなりやすいということは覚えておいてください。

もし為替というものが基本的に物価の違いを反映しているのだとすると、両国の物価の動きから理論的な為替レートを計算できるはずです。両国の物価差から算出した為替レートのことを購買力平価の為替レートと呼びます。

90年代以降、日米の価格差が広がった

日本はプラザ合意以降、基本的に円高が進んだのですが、それは90年代以降、経済の伸び悩みによって日本の物価が低迷する一方、米国は好景気が続いて物価が上昇しており、米国と日本の価格差が大きくなったことが原因です。

確かにプラザ合意は人為的な為替操作ではありますが、こうした人為的な操作だけで為替をコントロールすることはできません。基本的に日本経済が成長しておらず、物価が上昇しないため、米国との価格差が拡大し円高が続いたと解釈する方が自然です。

購買力平価の為替レートと実際の為替レート

次の図は為替が管理通貨制度に移行した1973年以降のドル円の為替レートと購買力平価による理論的な為替レートを示したグラフです。現実の為替レートは、プラザ合意のように様々な要因で上下するわけですが、大きな流れとしては、購買力平価の理論的なレートに沿って動いていることがお分かりいただけると思います。

プラザ合意についてもすべてが人為的というわけではありません。

グラフをよく見ると分かりますが、プラザ合意があった1985年より前の為替レートは、購買力平価と比べてかなり円安になっていました。実質的には円高が進んでいたにもかかわらず、市場のレートはそれを十分に反映しておらず、プラザ合意という人為的なショックで一気に顕在化したと考えるべきでしょう。

これまで一定の比率で固定されていた為替レートが、自由な市場取引で決まるようになったのは1971年に行われた米国による金とドルの兌換停止措置、いわゆるニクソン・ショックがきっかけですが、この時代は今とは逆に、米国経済の悪化が為替レートを動かす大きな要因となっていました

*   *   *

本書の全文を期間限定でnoteで公開しております。

もしよろしければご覧ください。

『貧乏国ニッポン』期間限定全文公開ページはこちらから

関連書籍

加谷珪一『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』

新型コロナウイルスの感染拡大で危機に直面する日本経済。政府の経済対策は諸外国と比べて貧弱で、日本の国力の低下ぶりを露呈した。実は、欧米だけでなくアジア諸国と比較しても、日本は賃金も物価も低水準。訪日外国人が増えたのも安いもの目当て、日本が貧しくて「安い国」になっていたからだ。さらに近年は、企業の競争力ほか多方面で国際的な地位も低下していた。新型コロナショックの追い打ちで、いまや先進国としての地位も危うい日本。国は、個人は、何をすべきか? データで示す衝撃の現実と生き残りのための提言。

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貧乏国ニッポン

戦後最悪ともいわれる、新型コロナウイルス感染拡大による景気後退。不透明な社会情勢が続くなか、実はコロナ以前から日本は「貧しく、住みにくい国」になっていました。その衝撃の現実をデータで示した『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』(加谷珪一氏著、幻冬舎新書)が発売後、4刷目の重版となり、反響を呼んでいます。

この30年間で日本がどう世界から取り残され、コロナで私達の生活はどう変わり、どう対処すればよいのか。内容を少しご紹介いたします。

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加谷珪一 経済評論家

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。その後野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「ニューズウィーク」や「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。ベストセラーになった『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『ポスト新産業革命』(同)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

加谷珪一オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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