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他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。

2022.05.25 公開 ポスト

「就活が迫っているのに自分のしたいことがわかりません」→「反抗期を今からはじめてみて」幡野広志さんの人生相談幡野広志(写真家)

多発性骨髄腫という難病で余命宣告を受け、現在も闘病中の写真家、幡野広志さん。そんな幡野さんの人生相談集『なんで僕に聞くんだろう。』は、「cakes」連載時から年間でもっとも読まれた記事に輝くなど、大きな反響を呼びました。今回ご紹介する『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』は、その続編。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと……。私たちの背中を押してくれる、幡野さんの優しく力強い言葉を、ぜひ味わってみてください。

*   *   *

Q.「就活が迫っているのに自分のしたいことがわかりません」

私は理系大学院の修士1年です。就職活動をしているのですが、自分のやりたいこと、ものの見つけ方がわかりません

自己分析をしたのですが、私の価値基準は全て他人に任せているということがわかりました。要するに、自分で何かを決めたことがない、やりたいものがないといった状況です。

今までの人生を振り返ってみても、自分の意志でこれをやりたいと決めたことはひとつもないように思います。

今の大学も、私は地元の国公立でいいかなと思っていたのですが、高校の担任に「受けてみたら? 受かる確率は低いし、宝くじみたいなもんだから」と言われ、今の大学のAO入試を受けました。

結果、受かってしまい、自分の学力よりもだいぶいいところに進学させてもらいました。浪人してでも志望する大学に入りたいと頑張ってる人もいるのに、こんな志望動機もあまりない私みたいな人間が受かってもいいのかなと悩んだことを覚えています。

 

小学4年から大学4年まで続けたスポーツも、親から「運動部に入ったほうがいいよ」と言われて、父がやっていた競技にしました

父の職場には部活があり、小さい頃から試合を見に行って身近だったのと、たぶんその競技をやったら父が喜んでくれるだろうと考えたのだと思います。

辛いときもあり、競技をやりたくないなあと考えたこともあったのですが、そう思った時には私のコミュニティがその競技関連のものしか残っていなかったこと、辞める勇気がなかったこと、親に「何かひとつのことを続けるというのはとても大事なことだよ」と教えられたこと、さまざまな理由があってダラダラと十数年続けました。

主将を任せていただいたこともあったのですが、特になにか結果を残せたわけでもないので、あまりいい思い出はありません。

本当に受動的で、ただ続けることに一生懸命で、考えて行動する力がないのだと思います。意思決定をした経験もなければ、それによる成功経験もないので、基本的に自分に自信がありません。

 

まわりの人が良いと言うか悪いと言うかという判断基準でここまできてしまったので、自分自身の判断基準というものが存在しません。やりたい・やりたくない、好き・嫌いの価値基準も自分はあまりよくわかってないのではないかと思います。

本当に友達や先輩がどうやってそういうのを決めているのかが分かりません。「あなたは何をしたいの?」と聞かれても「どうやって決めたらいいのかわからない、何かをしたいってなに??」というかんじです。

就活セミナーのようなもので、「あなたは自分をまわりと比べすぎだ、もっと自分自身に目を向けて」と言われたのですが、目を向けても自分には意志が何もない、全てをなんとなくこなしてきただけで考えて行動したことは何もない、というダメなところしか見えてこないため気持ちが暗くなってしまいます。

いい加減このようなウジウジ思考を辞めないと、就活も迫ってきているし、と考え、ズバッと回答してくださる幡野さんに喝を入れてほしいと思い、相談させていただこうと思いました。よろしくお願いします。

(匿名希望 23歳 女性)

(写真:iStock.com/Bulat Silvia)

親と先生の教育を跳ね返すチャンスが反抗期

喝をいれるのって嫌いなんですよ。喝の意味って知ってます? 「大きな声で叱ること、おどすこと」だそうです。ぼくもいま知りました。

叱るときは小さな声でいいし、おどす必要もないよね。萎縮するだけじゃん。だいたい大きな声で叱ってたら、それは叱りではなく、怒りとして受け取られるよね。

人生相談で「喝をいれてほしい」というのはただのリクエストです。それはぼくの感情のコントロールでしかありません、めんどうくさいです。

ぼくはいつも正直に感じたことを書いているだけだけど、もしもぼくが誰かに喝を入れていると感じたのであれば、あなたの人生経験がそう感じさせているんでしょう。あなた自身が喝をいれられてきて、感情のコントロールをされてきた結果だとおもいます。

 

さいきん、『AERA dot.』で「ほがらか人生相談」を連載している鴻上尚史さんとお会いしたんです。鴻上さんもぼくもたくさんの人生相談に目を通しています、そこで悩む人の特徴の話になったんですが、結論をいうと思考力が弱いことなんです。

誤解しないでね、バカにしているわけじゃないんですよ。でもそういう人は、ここで思考力が弱いとバカにされたと感じて、怒ったり落ち込んだりしてまた悩むのよ。鴻上さんもぼくも悩む人をバカにしているのではなくて、じゃあなんで思考力が弱いのかね? と次の疑問を考えます。

鴻上さんは学校教育が原因だと考えていて、ぼくは家庭教育が原因だとおもっています。鴻上さんもぼくも子どものころにうける教育が原因なのだと考えています。あなたはそのダブルパンチで、自分のやりたいことがわからない、思考力のない大人にされたんだとおもいます。

あなたの親と学校の先生にとって、あなたのことを能動的で思考力がある大人に育てることが目的なのであれば、あなたのやりたいことを汲み取るべきだったし、やりたいことを主張できるように促すべきだったでしょう。子どもの食べたいものを自分で選ばせるような教育です。

あなたを受動的で思考力のない大人にすることが目的だったのであれば、親と先生がした教育は成功です。あなたに考えさせないで、大人が答えを与え続けてきたんでしょう。大人が食べさせたいものを食べさせるような教育です。

 

親と先生の教育を跳ね返すチャンスが反抗期なんだとぼくはおもうんです。あなた反抗期もなかったでしょ、あなたって大人にとっては「いい子」なのよ。親にとっては周囲からうらやましがられる自慢の子ですよ、親があなたを褒めてくれたかどうかはまた別だけどね。

お母さんが、周囲の人があなたのことを褒めても「そんなことないですよ」って謙遜しつつ、オーバー謙遜して「うちの子なんて全然ダメで」ってあなたの目の前であなたのことをディスったことない?

自己肯定感の低さから褒められたかどうか疑問なんだけど、少なくともあなたの自主的な行動を褒められたことはなくて、親の指示に従ったときに褒められていたでしょ。

スポーツが好きなんじゃなくて、お父さんの気を引きたかったんだろうし、お父さんのことが好きで、褒めてほしくて嫌われたくなくて辞められなかったんでしょ。

お父さんのことは「父」、お母さんのことを「親」と書き分けてるけど、あなた本当はお母さんのこと苦手でしょ。これがどんどん嫌いになってくると、「彼女」とか「あの人」って書きかたになるんだよ。

不安と答えのハッピーセットを食べすぎた人ってたくさんいる

あなたはいまになって、あせっているとおもうし不安でいっぱいだとおもうけど、本当は子どものころからあせっていて不安だったんだとおもうよ。不安を解消するための方法が、人のいうことを聞くいい子になる。ということだったんだとおもいます。

不安にさせてあせらせたときに答えを与えると、人をコントロールできるようになるの。それで、大人が食べさせたいものを食べさせるような教育も簡単になる。不安と答えがおまけのハッピーセットみたいなものだね。

オバケとか鬼がくるって不安をあおれば、部屋のおもちゃを片付けさせることだって簡単だよ、ぼくは息子に絶対にやらないけどね。オバケや鬼がうちにきたら、お父さんとお母さんと一緒にやっつけようって教えてます。

不安と答えのハッピーセットを悪用するとなんでもできちゃうのよ。オレオレ詐欺のように大金を奪うこともできるよ。

(写真:iStock.com/Nadezhda1906)

あなたみたいな不安と答えのハッピーセットを食べすぎた人って、たくさんいます。ぼくのところに届く大学生の悩みでいちばんおおいのが「やりたいことがわからない」です、めっちゃいっぱいいる。だいたいみんな就活の段階で気づくの。

なぜならみんな就活になったとたんに、親が自分で決めなさいって自主性を持たせようとするから。理由は、親は就活に参加できないし、就活のこともよくわからないからです。でも結局あなたが決めた職種や会社には口出しをします、黙ることはできないの。

すでに共依存に陥っている場合、あなたは親からの口出しがとても心地よくてホッとするの。親の決めたどっかの会社に就職して、結婚相手も親が満足しそうな人を選んでしまうと思うよ。

 

ず──っと親があなたの人生を決めるの、あなたは従う人生。子どもを産むように催促もするとおもう。なぜならよその親子と比べて、23年前にしあわせ競争をヨーイ……ドン!! しているだけだから。

みんなあきもせず、よその子と自分の子どもを比べるよ。立つのが遅いとか、歩くのが遅いとか、しゃべるのが遅いとか、おむつがとれるのが遅いとか。それが就職や結婚や出産までず──っと続くの。ぼくはくだらないっておもっちゃう。

でも、あなたの親にたいする違和感はどんどん大きくなります、子どもがうまれたら自我みたいなものもできるの。そのころにはあなたも育児に悩んでよその子と比べちゃうの。あせりのピークがくるの、そしてそのあせりを解消する手段が、子どもに不安と答えのハッピーセットを食べさせることなのよ。

まだ間に合うから10年かけて人生を変えてみて

不思議なことに自分のことを考えられない人って、自分の子どものことは熱心に考えられるの。

そして、何十年か経って、あなたが不安と答えのハッピーセットを食べさせた、思考力のないあなたの子どもに、あなたの人生の最後を決められちゃいます。

そのときに子どもが自分の死を決めてくれるのがホッとするの。なぜならあなたは自分の最後を決められないから。80歳ぐらいで自分の最後が決められない終末期の患者さんってけっこういるよ。

自分の生きかたを誰かに決めてもらってきた人って、最後は自分の死にかたを誰かに決めてもらうのよ。もう死にたいっておもってるのに、機械とチューブで無理やり延命させられたり。まだ生きたいっておもってるのに、治療を止めて死なされちゃったり。死際に生き地獄を体験します。

 

あなたがこれから思考力を養うには、10年はかかるとおもう。就職までにはまったくもって間に合わないよ。就職して典型的な指示待ち人間になって、たくさん喝をいれられるだろうね。

でもね、指示待ち人間だって、ピースのハマる場所は必ずあるのよ、ペッパーくんだって役に立たないって不人気だったけど、はま寿司とかいくと活躍してるよ。うちの子どもはペッパーくんが好きで、はま寿司によくいくの。

無意識に生きてたら一生思考力は養えないよ。だから23歳で気づいてよかったとおもう。10年経っても33歳、いまのぼくよりも若いから全然遅くはない、別に早くもないけど。

ぼくは就職をして親と離れるのがいちばんいいとおもう、そして新しい環境で新しい人たちと出会ったほうがいい。思考力がないと相手の悪意にも気づきにくいから、パワハラ上司とブラック企業には要注意ね。

 

スマホのアプリに何を入れてる? アプリって好きなものしか入れないでしょ、ゲームでもなんでもいいから、それをたくさんやりなよ。10年前に戻って13歳になったとおもって、子どもが好きなことを取り戻しなよ。そしてゆっくりと反抗期をいまからはじめてみて、ゆっくりとね。

スマホのカメラでどんな写真撮ってる? 写真って好きなものしか撮らないの。美味しい料理とか好きな景色とか、ネコとか犬とか。それがあなたの好きなものだよ。あなたの好きなものはスマホにつまってる。あなたのいちばんの理解者はスマホだよ、親じゃないの。ぼくのいちばんの理解者もスマホです、妻でも子どもでもないの。

確実にまだ間に合うから、10年かけて人生を変えてみて。大変なことは重々承知の上なんだけど、ちょっとがんばってみて。がんばれって言葉はぼくは好きじゃないんだけど、これがぼくなりの精一杯の喝です。

不安と答えのハッピーセットをぼくがあなたに食べさせたんだけど、不安と答えのハッピーセットも、使いかたでいい方向に向かうと願ってます。

関連書籍

幡野広志『だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。』

甘いだけのアドバイスなんてもう要らない! 厳しかったり、ゆるかったり。突き放したり、抱きしめたり。 ガンなった写真家が、相談者の心のど真ん中を刺してくる! 本気で悩む人の「本当に欲しい言葉」が見つかる、唯一無二の人生相談。

幡野広志『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。』

がんになった写真家になぜかみんな人生相談。毎週必ず話題になる『なんで僕に聞くんだろう。』書籍第2弾。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと。みんな“幡野さん”に聞きたがる!

幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』

「家庭ある人の子を産みたい」「親の期待と違う道を歩きたい」「虐待してしまう」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校」「毒親に育てられた」「売春がやめられない」「精神疾患がバレるのが怖い」......。誰にも言えない悩みを、なぜか皆、余命宣告を受けた写真家には打ち明ける。どんな悩みも、軽やかだけど深く、変化球な名言で刺し、包む!異色の人生相談。

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他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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