中国の伝統医学では、人間の体を肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)の五臓で捉えます。中でもとくに重要なのが「腎」。腎にはもともと生命エネルギーが蓄えられており、それを長持ちさせられれば、いつまでも若々しく元気でいられると考えます。「腎の力」を目減りさせない一番の方法は、日々の食事のちょっとした工夫です。『老いない体をつくる中国医学入門』(阪口珠未著)から、中国医学2000年の歴史のなかで大事にされてきた食習慣をご紹介します。
(本記事は2019年3月4日公開「中国の名医が教えてくれた、アンチエイジング3つの食習慣」、3月7日公開「老ける・老けないは『腎の力』で決まります」を再編集したものです)
毎日ひと握りのナッツと骨つき肉と腹八分目
北京の中国医学の大学に留学していた頃の話です。私の薬膳の先生は男性。70歳過ぎというのに、とても肌のきれいな人でした。その先生に「どうしたら、先生のように元気できれいでいられるんですか?」と尋ねたことがあります。
「それは3つある」と先生は答えました。
身を乗り出した私に、先生が言ったのは……
1つめは「毎日手のひらに一握りのナッツを食べること」。なぜならナッツは、小さな種が大きな木にまで成長するパワーを秘めているから。
2つめは「豚足を食べること」。年寄りが尊敬されるためには、見た目がきれいで元気でないといけない。そのために、私は毎日、酢と黒糖としょうゆで煮た豚足を少しずつ食べている。そうするとこんなふうに肌がしっとりする。
3つめは「腹八分目に食べること」。他の人みたいに、3食お腹いっぱい食べていたら、もう私は生きていないかもしれない。昼間に人と会ってたくさん食べた日は、夜は、ネギとショウガのスープを作ってもらい、それだけ飲んで寝てしまう。そうすると次の日は、また元気に仕事ができる。
中国医学には、西洋医学の理論体系とは異なる、独特の「抗衰老(こうすいろう)」(老化を食い止める)という考え方があります。それは、「腎精(じんせい)」という、人間がもともと持って生まれた生命エネルギーをチャージして、若々しく、はつらつと生きるという方法です。
私の薬膳の先生が実践している3つの柱はすべて、腎精をチャージして目減りさせないことを目的にした生活スタイルなのです(豚足は日本人にはあまりなじみがないかもしれませんね。本でもご説明しましたが、鶏手羽先など骨つき鶏肉にも、同じ効果があります)。
「腎」は「若さの素」のバッテリー電池
「五臓」は、エネルギー(気)、栄養(血)、体液(水)、エネルギーのエッセンス(精)を作り出す活動を行います。また「五臓」は、臓器そのものだけでなく、臓器の働きも含んでいます。西洋医学でいう臓器と同じ名称を使いますが、意味や働きは少し異なるものと考えるとよいでしょう。
五臓はすべて大切な臓器ですが、中国医学の理論の中で、とくに老化と関係の深い臓器が「腎」です。
西洋医学では、腎臓は、血液を濾過(ろか)して老廃物や塩分を尿として体の外へ追い出し、体に必要なものは再吸収して体内に留める働きをしています。また、体液量の調節なども行っています。
中国医学では、このような水の代謝に関わる働きのほかに、独特の重要な役割があります。それは、先天的なエネルギーを蓄えている臓器ということです。いわば生命エネルギー=若さの素のバッテリー電池というところでしょう。
腎は「先天の本」と言われます。人間は腎という臓器に先天的なエネルギーを持って生まれ、そのエネルギーを日々使いながら生き、成長、成熟、老化のプロセスを経て、腎のエネルギーがゼロになったときに死が訪れます。
腎に蓄えられているエネルギー、エッセンスのことを「腎精」と呼びます。腎精は、食事や生活の不摂生によって消耗しますし、加齢によっても減っていきます。腎精の量は、生まれながらの腎の強さによる個人差がありますが、それ以上に、食事や生活の摂生により、目減りしていく腎精をチャージしていけるかどうかが、体を若々しく保つ決め手になります。
「腎精」という言葉は耳慣れなくても、「精がつく」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。「精がつく」という言い方は、もともと中国医学の用語である「腎精がつく」が短くなったもの。ですので、すっぽん、うなぎ、山芋、牡蠣など、現在私たちが、「精がつく食材」と言っているものは、「腎精」をチャージするものがほとんどなのです。そう思うと、「腎精」もぐっと身近にイメージできるのではないでしょうか。
「若さの素」をチャージするには「赤い食材」「黒い食材」
次のチェックシートを使って、あなたの「腎の力」をチェックしてみましょう。
□ 疲れがとれにくい。
□ 意欲が低下気味。
□ 髪のボリュームが減る。白髪が増える。
□ 歯を磨いているのに歯周病になる。
□ 皮膚が乾燥する。
□ 腰痛・膝痛が出る。
□ 体の冷えを感じるときがある(男性)
□ 夜間トイレに2回以上行く(男性)
□ 朝立ちがなくなった(男性)
□ 落ち込みやすい(女性)
□ 上半身はのぼせ、下半身が冷える(女性)
□ お腹周りの肉が急に増えた(女性)
3つ以上当てはまる人は、腎の力が低下気味です。
腎精=若さの素をチャージするひとつの方法は、「血」を一緒にチャージする食材ととることです。
中国医学でも「血」は西洋医学の「血液」と同様、体に栄養を与え、精神活動にも関わる重要な働きをしています。血が不足すると、貧血や乾燥、筋の硬直、髪や爪のつやが失われるなどの症状が出ます。
「精血同源」とも言われ、血は必要なときには精になり、精は必要に応じて血に変化します。ですから腎精をチャージするには、血も一緒にチャージすると、とても効果的なのです。
便利なことに、食材には血と腎精を同時にチャージできるものが多くあります。
たとえば、黒豆、黒ゴマ、黒米、キクラゲ、牡蠣、すっぽんなどの黒い食材です。イカ、タコ、アサリ、シジミなどの魚介類や海藻、海老など海由来の食材もそうです。
ベリー類では、ラズベリー、クコ、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)などは、血と精を同時に補うことができます。血を増やす食材には赤い食材が多いので、ナツメ、トマト、小豆、カツオ、レバー、赤身の肉なども意識して食べるようにしましょう。
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