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時をかける老女

2022.05.13 公開 ポスト

#28

同じ会話の無限ループにならない言い方を、最近一つ思いついた中川右介

母本人が覚えていることは少ないままだが、ここ数日、とくに大きな事件はない。メモリークリニックに連れていった時、「先生、何かのきっかけで思い出すことってあるんでしょうか」と母は医師にいきなり質問したが、会話は成り立っていた。私も最近ようやく、「デイサービスでお風呂に入ってきたでしょう」「入ってない。あそこにお風呂なんてない」と言い張る母との無限ループを避ける方法を思いついた。

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2021年4月12日 月曜日

<介護166日>

前回カットしたときは翌日に、「いつの間にか髪が短くなっている」と大騒ぎになったが、今回は、切ったことは覚えていた。しかし、どこで切ったかは忘れ、そのあと、蕎麦屋に行ったことも覚えていない。自分が考えていたより短くなったことへの不満は消えていない。

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時をかける老女

91歳の母親と、33年ぶりに一つ屋根の下で暮らすことになった。この日記は、介護殺人予防のために書き始めたものである。

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中川右介

一九六〇年東京都生まれ。編集者・作家。早稲田大学第二文学部卒業。出版社勤務の後、アルファベータを設立し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版(二〇一四年まで)。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガ、政治、経済の分野で、主に人物の評伝を執筆。膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、データと物語を融合させるスタイルで人気を博している。『プロ野球「経営」全史』(日本実業出版社)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『国家と音楽家』(集英社文庫)、『悪の出世学』(幻冬舎新書)など著書多数。

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