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文化系ママさんダイアリー

2009.12.15 公開 ポスト

第四十四回

「オカン工作に挑戦②~消しゴムはんこ」の巻堀越英美

 クリスマス前といえば、おもちゃの広告が目に付く季節。雑誌を開けばこんな感じのおしゃれママさんが、おしゃれおもちゃを紹介している。

「うちはむやみにおもちゃを買い与えない主義なんです。おたんじょうびプレゼントに上質な木のおもちゃを買ってあげるくらいかな。ぬくもりのある木のおもちゃならインテリアにもなるし、孫の代まで使えるでしょ」

 おっしゃるとおりですねえ。私も子供ができたら、あやかろうっと。

 と、子供が生まれるまでは思っていた。でも今は……トイザらスや百均、近所の書店で買った安っぽいおもちゃやビーズ、おもちゃになるかもと捨てられずにいる各種ゴミが散らばって、我が家はカラフルな魔窟と化しつつある。インテリア? そういえばそんな言葉があったねえ……今となってはトンパ文字くらい遠い言葉だけどねえ……。

 もちろん時折は、外国製の木のおもちゃなどを買い与えたこともある。でも、さすが私の子だけあって感性が安いのか、高い上質なおもちゃにはほとんど目もくれない。彼女のお気に入りはヨーグルトの容器にビーズを詰めただけのガラガラや、使い古したケータイ、ボロボロのお財布。いわばゴミ同然のものばかり。親のケータイや財布を触りたがるのでわざわざそっくりのおもちゃを買ってきても、そっぽを向いてしまう。ニセモノのおもちゃはダメで、本物のゴミならいいのか。ある意味本物志向。

 親のほうも、子供がおもちゃに夢中になってくれる時間は1人になれる極楽タイム。少しでも極楽タイムを捻出しようと、お店の中で夢中で遊んでいる様子を見た日にはすぐに買い与えてしまうのだった。でも、飽きっぽい娘が同じおもちゃで遊んでくれる時間はそう長くはない。「ムキー!それならこれはどうよ!」と次々安いおもちゃを買い与えていくうちに、我が家は着実にゴミ屋敷へ……。どうしよう、このままいったら夕方ニュースで親子揃って目線入れられて「これはゴミじゃないんだよ!おもちゃなんだよ!」と近隣住民と言い争っている姿が報道されちゃう!

 いや実際、古いおもちゃは捨てればいいのだろうけど、「またひょんなことから第二子が生まれてくるかもしれないし?」「誰かにあげられるかもしれないし?」などと思って捨てられずにいるのだから、ゴミ屋敷はまったく人ごとではない。

 思えば出産直後、この中に赤ちゃんを置いておけば泣き止むという評判を聞きつけて買ってきたオレンジと黄緑と青と紫という斬新な色遣いのプレイマット、夫が買ってきたパステルカラーのバウンサー、ブルーのバランスボールが畳の部屋にデーンと鎮座ましましていた頃から、カラフルな魔窟化が始まったような気がする。どれもこれも、子供あやしには欠かせない重要アイテムばかり。畳の部屋に合わないから、などというハンカな理由で排除するわけにはいかず。あの頃から色彩の調和という概念はこの家から消え失せた。

 そんなある日、我が子がまた魔窟化を推し進めるおもちゃを見つけてしまったようである。それはスタンプ。子供向け施設の受付で動かないから何をしているのかと思いきや、延々と訪問者用のスタンプを押し続けていたのだった。ほかの人に迷惑だからと引きはがそうとしても、頑として動かず。スタンプが2歳児にとってそんなにもエキサイティングだとは思わなかった。じゃあ買ってあげようじゃない。

 帰り道、書店に寄って100円くらいのスケジュール帳用の小さなスタンプを5本くらい買い求める。さっそく娘は家に帰るまで待ちきれず、そわそわと紙袋を眺めてうっとり。家に帰るや猛然とスタンプを押し出した。でもこのスタンプ、注意書きをよく見ると300回くらいしか押せないらしい。そりゃ大人が手帳に押すためのスタンプなのだから、それくらいで十分だ。でもこの調子だとすぐにインクが切れてしまって不経済きわまりない。それにたぶん、娘のことだから同じ図案ばかりだとすぐに飽きる。ならばもう、自作してしまおうか。そういえば、受付に置いてあったはんこも手作りの消しゴムはんこのようであった。

 まずは100円均一で10個100円の消しゴムを買ってきて、プラモ用のデザインナイフでハート型や星型など簡単な図柄のはんこを彫ってみる。子供がいるとこのような作業は危ないのだが、「●ちゃんのはんこを作ってあげてるからね。ちょっと待っててね」と言い聞かせると、わくわくテカテカしながら大人しく待っている。よほど新しいはんこがほしいのだろう。そして子供から離れて無心に彫っているうちに、脳から変な汁が出てくるのを感じる。あれ、この作業、めっちゃ楽しいような気がしてきた。もっといろんなものを彫ってみたい!

 難しい図案を彫るにはどうすればいいのか。まずは「消しゴムはんこ」で検索。寡聞にして知らなかったのだが、今「消しゴムはんこ」シーンはとっても熱かったみたいだ。11月にはNHK教育で「大人の消しゴムはんこ」なる講座が放送されていたということも知る。書籍もいっぱい出ていて、消しゴムはんこ界のカリスマ的女子も何人かいるらしい。もちろん消しゴムはんこ専用の消しゴム、彫刻刀、スタンプ台も販売されている。mixiで「消しゴムはんこ」のコミュを探してみたら、一番多いところで1万7千人以上。そんなに愛好者がいたとは!

 確かに消しゴムはんこ彫りは楽しい。図案をトレーシングペーパーで写して、消しゴムに転写して線の通りに彫っていくだけだから、基本的にはクリエイティビティはいらない。でもできあがりはどんなにへたくそでも味があって、なんだかおしゃれ風味なのだ。もういっそ老後まで持ち込める趣味にしてしまおうか、と一気に消しゴムはんこ専用グッズを通販で買い求めてみた。

 さすがは専用グッズ、『もやしもん』のオリゼー菌、ザクの頭部、ジオンの紋章……ある程度複雑な図案を彫ってみても、それなりの出来に見える。あ、しまった自分の趣味に走りすぎた。娘の希望も聞かないと。何を彫ってほしい?

「えーっと消防車と救急車とパトカーと消防車と黄色いトラックと救急車と郵便車とあと消防車!」

 そんなにも消防車がほしいか。乗り物は複雑で難しいように思えたが、絵本から単純な図案の消防車画像を探しだして彫ってみたら、まあまあなんとか消防車に見えるできあがり。時間さえあれば、あらゆる図案を我が手から生み出せるのでは。次は有名人とか彫ってみようか。ついでにテレビコラムなども書いてみたりして。それはすでに偉大なる先人がいますけれども。

 と、いい気になって仕事そっちのけで彫り出したらバチがあたったのか、久しぶりに寝込むほどの重い風邪をひいてしまった。今も微熱出しつつこれを書いてます。もちろん片付ける気力もなく、いつものおもちゃに消しゴムはんこやスタンプ台も散らばって、我が家はカラフルな魔窟から一気にカラフルな地獄絵図へ。クリスマスのあとは大掃除? 考えたくない……。 

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文化系ママさんダイアリー

フニャ~。 泣き声の主は5ヶ月ほど前におのれの股からひりだしたばかりの、普通に母乳で育てられている赤ちゃん。もちろんまだしゃべれない。どうしてこんなことに!!??

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堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業。IT系企業勤務を経てライター。「ユリイカ文化系女子カタログ」などに執筆。共著に「ウェブログ入門」「リビドー・ガールズ」。

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