これまで数々の怪談やホラー作品を手掛け、幻冬舎plusで『人形怪談』を連載、さらに今年2月に刊行された『致死量の友だち』(二見書房)で本格ミステリに初挑戦し、注目を集める田辺青蛙さん。また、小説投稿サイトから火が付いた『ほねがらみ』(幻冬舎)で鮮烈なデビューを果たし、以来続々と新たな恐怖を生み出し続けている芦花公園さん。『ほねがらみ』は文庫も発売され、さらに話題です。今回は、新時代のホラー作家であり、お互いの作品のファンでもあるというおふたりに、それぞれの作品世界の魅力や、インターネットが日常となった現代の「怖さ」について語っていただきました。
(構成:宮本幸枝)
謎の覆面作家、憧れの作家と対面す
田辺青蛙(以下、田辺) 芦花公園さんは覆面の作家さんということで、非常に謎めいていますよね。ただ『ゲゲゲの鬼太郎』の第4期が好きって仰っていて、なんとなく人物像は想像していましたが。ペンネームの由来についてお聞きしていいですか?
芦花公園(以下、芦花) それについてはめちゃくちゃよく聞かれるんですけど、本当に由来がなくて申し訳ないです(笑)。チラシか何かのパッと目についた地名をつけただけなんですよ。「芦花公園」でエゴサーチすると、だいたいラーメン屋が引っかかる。芦花公園駅においしいラーメン屋が2軒あるみたいで。
田辺 地名、つけちゃいますよね。私のペンネームも、昔、田辺町に住んでいたところから取っています。
芦花 じつは、私は田辺先生の小説がすごく好きで『生き屏風』(角川ホラー文庫)から読んでいます。ファンのアピールをしてちょっと気持ちが悪いかもしれないですけど(笑)。登場する妖怪が非常に魅力的ですよね。私も鬼太郎が好きなので、そういうところでちょっと通じ合うものがあるのかなと。『あめだま 青蛙モノノケ語り』(青土社)でも感じたのですが、本当に文章が詩的というか、幻想的ですごく綺麗だなと思っていて。
田辺 『あめだま』まで読んでくださっているんですか! かなりレアですよ。すごい。
私は幻冬舎plusで『ほねがらみ』を知ったんですが、非常に見事に書かれた小説だと思いました。土着のものや民俗学的なものとキリスト教系のものを合わせた作品をいつか書いてみたいなと思っていたんですが、書こうとなるとものすごく難しいんですよね。ほかの作品でも、日ユ同祖論、モリヤ、御頭祭などなど……そういった色々な要素を取り込みつつ、どれかひとつのことだったり、陰謀論などに引きずられることなく、不気味に書かれていて。
芦花 嬉しいです。私自身、そもそもがクリスチャンなんです。身近にキリスト教というものがあったので、それで何か書けないかなと考えたときに……『ムー』(ワン・パブリッシング)がこれまた大好きで。
田辺 あ、やっぱり(笑)。
芦花 ムー的に有名なところだと、青森県に「キリストの墓」があったりしますよね。そこから着想を得て、という感じで。
田辺 いろんな短い話がバラバラっと入っているけれど、説明しすぎないところが芦花公園先生のシリーズの魅力のひとつですよね。普通だったら、ねちねちと蘊蓄を入れたくなるけど、そこはサラッとするという。知っていること全部書きたくなっちゃったりしませんか?
芦花 そもそもそこまで詳しくないというのもあるかもしれません(笑)。たとえば京極夏彦先生の作品は、蘊蓄そのものを楽しむみたいなところがあるじゃないですか。自分にはそういうものは難しいかなと思っているので、サラッと書いているというのもあるかもしれないです。
田辺 すごくホラー好きのツボが押さえられているんですよね。実話怪談が好きな人、妖怪が好きな人、陰謀論が好きな人って、はたから見たら一緒くたに見えるのかもしれないですけど、じつはそれぞれの間に深くて大きな溝がある。わりとお互いがお互いを批判しがちなのに、芦花公園先生はそこの橋をうまく渡って、それぞれのファンをガッチリ! みたいな。
復讐の物語は、残酷なだけじゃなく、救いになる
田辺 わたしはそもそもあんまり小説を読むことがなくて、どっちかっていうと事件のルポものばかり読んでいました。『致死量の友だち』は、イヤミス(※)を書いてほしいという依頼があって、参考にしたのが押切蓮介さんの『ミスミソウ』(ぶんか社)。あれを読んで、復讐の話で、読むと嫌な気持ちになるものを書こうと思ったんです。
当時、いじめをきっかけに女生徒が自殺したという実際の事件があって。事件記録を集めて読む中で、その無念さが心の中にあったんですよね。私は上手いトリックは考えられないと思ったので、今まで見聞きした嫌なものを小説として書いてみたんです。
※イヤミス=読んだ後に嫌な気分になるミステリ作品
芦花 トリックを考えられないと仰っていますけど、私はちゃんと騙されましたよ。途中で犯人のミスリード的な部分もありますし。あと、最後に重要な人物によるすごく長い語りが入るんですが、本当にもうめちゃくちゃ引き込まれて。あそこが一番好きなんです。ちょっともう、口を挟めない迫力があるんですよ。
いじめの手記を読んで参考にされたというのも納得です。いじめの描写がリアルすぎるっていうのと、おそらく田辺先生は実際に今、16歳とか17歳ではないだろうに、とても若い子たちの感覚がリアルで。
田辺 いじめのシーンは「読んでいて辛かった」という感想もいただくんですが、実際にあったことをベースに、かなり変えている部分もあります。でも、先生の言葉なんかは、私が過去に、実際に言われたものだったりします。
芦花 実際にあったことをモデルにすると、リアリティが違ってきますよね。あの作品は、若い世代の読者に絶対受けると思います。苦しんでいる人たちの心に寄り添うというのではないんですが、創作の中だとしても、復讐が行われるのってスッキリするじゃないですか。ラストがどうあれ、残酷なだけじゃなくて救いにもなりますよね。
ネット発の怪談がバズる秘訣は?
芦花 私は、性癖というとあれですけど、「可愛い女の子が過酷な目に遭う」創作が好きなんですよ本当に。漫画でいうと『あずみ』(小山ゆう/小学館)がすごく好きでした。
田辺 ああー! いいですね!
芦花 なので、今回の『致死量の友だち』は、めっちゃ刺さりました。主人公のひじりがとても可愛い子だっていう印象があって、この子が苦難に遭い続けていくのが良かったですね。田辺先生の『皐月鬼』シリーズを読んでいても思ったのですが、ちょっと鈍臭くて可愛い女の子を描写するのがすごく上手ですよね。
田辺 私は、芦花公園先生の作品は蛇がたくさん出てくるのがいいなって思いました。
芦花 蛇、すごく好きなんですよ。なのでたくさん出しちゃって。
田辺 じつは私も、蛇の民俗学で何か書こうかなと思っていて、そういう意味ではかぶっちゃったらどうしようとハラハラしながら読んだんですけど、かぶらなくてよかった(笑)。あと、『異端の祝祭』(KADOKAWA)での、御頭祭のシーンが印象的でした。グロ寄りのシーンってともすればゴア描写に偏りがちで。でも芦花公園先生の場合は、絵画的で儀式的な美しさを感じたので、これは只者じゃないぞって思いました。
芦花 私は、特別にグロが好きとかスプラッタが好き、という方面の人間ではないので、書こうと思ってもなかなか書けないんだと思います。
田辺 それも含めて、作品に色々なベースのものが詰まっていて楽しいですよね。あと、考察の楽しさも。「これはあれじゃないか?」「これにつながっているんじゃないか?」って、つい、自分の考えを語ってしまいたくなるみたいな。だから『ほねがらみ』がネットですごくバズったのもうなずけるというか。
地域伝承や怪談、キリスト教とか、どれかひとつのジャンルに強い作家さんはたくさんいらっしゃるんですよね。でも複数のジャンルに知識があってという方はあまりいない。元ネタを探す側も、複数にわたっているとちょっと手が出せない部分があるから、かえってそれが探るうちに楽しい。
芦花 考察好きな人に好評だったのは確かに実感としてありましたね。でも、私としては、「これも、これも全部大好きです!」みたいな感覚で書いていて。ある意味、今まであるホラー作品へのファンレター的な作品だと自分では考えていたので、考察する人もいるんだなというのが正直な感想でした。
田辺 怖いものが好きな人って、たとえそれが創作であったとしても、元ネタとか実際の現場を探そうとするんです。「きさらぎ駅」なんかもそうですよね、いまだに探している人がいたりして。「くねくね」にしろ「八尺様」にしろ、たとえそれが架空だとわかりきっていても、「どこの村で起こった話」「実際に見た人がいる」とか。
ネット発っていうところが現代らしいけれど、単なるネットロアだと駄目で、元の怪談の質が高くないとみんな探してくれないんですよ。『ほねがらみ』は、ひとつひとつの話が本当に怖くて面白いから、みんな語りたくなったんだと思いますね。
(後編につづく)