大人気インスタグラムの約3年間(2018~2021年)をぎゅぎゅっと1冊にまとめた『まいにち酒ごはん日記』を上梓したツレヅレハナコさん。かねてから伊藤理佐さんの漫画の大ファンで、なかでも食と恋を描いた『おいピータン!!』は何百回読んだかわからないほど大好きだそう。食をテーマに、かたや文章、かたや漫画を描き、酒好き、猫好き、ひとりで家を建ててしまうなど、何かと共通点の多いおふたり。今回、それぞれの著作の感想や誕生秘話、そしてお酒にまつわるエピソードまでを語り合っていただきました(構成・文:和田紀子)
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こんなにおいしがっちゃってもー!
ハナコ わーい。ついにお目にかかれて感謝感激です。サイン頂いてもいいですか!?(と伊藤さんの漫画『おいピータン!!』の第1巻を差し出す)。
伊藤 喜んで!(と『おいピータン!!』の登場人物、「大森さん」をサラサラ書く)
ハナコ わー、うれしやー、ありがとうございます! 宝にしますー。本当にしつこく、しつこく、拙著のことでお声がけして申し訳ありません。
伊藤 いえいえ、ありがとうございます。お弁当本(『ツレヅレハナコのじぶん弁当』)では帯をお断りしてしまって本当に失礼しました。あんなにおもしろい本を断ったのかと後になってめちゃくちゃ後悔しました。今、吉田(夫で漫画家の吉田戦車さん)があの本を見ながら、毎日娘のお弁当を作っています。
ハナコ 光栄です!
伊藤 そして『まいにち酒ごはん日記』、いやー圧倒的でした。とにかく全部おいしそうで、こんなにおいしがっちゃってもー、嫉妬、嫉妬。嫉妬するくらい毎日なにか食べてるなー、何これー、うらやましーと指をくわえながら読んでました。
ハナコ ありがとうございます。3年分のインスタグラムを改めて自分で読み返してみて、ホントに飲み食いのことしか書いてないなーと。食以外にあまり関心がないというのもあるんですけど、それを毎日コツコツコツコツずーっと書いていたら1万投稿くらいになっていて、ホントによくやるなーと自分でも思いました。
生粋の「勧めたがり」
伊藤 昔から食べものが好きなんですか? 食べものと文章は、どちらがメイン?
ハナコ 子どもの頃から食い意地が張っていて、確実に食べものメインです。
伊藤 食べものにああいう楽しい文章がもれなくついてくる。
ハナコ 単に勧めたがり屋なんです。幼稚園児の頃からそうでした。大学は美大のキュレーターを育成する学科で、キュレーターって自分が好きな美術をみんなに紹介する仕事。卒業後は雑誌の編集者になりましたが、編集者も自分のお勧めを記事にする仕事なので、我ながら一貫しています。ちなみに、伊藤さんの『おいピータン!!』も、どれだけ人に勧めたかわかりません。その柱になっているのが食べもので、自分がいいと思った食べものをみんなに紹介したくてしょうがない。それで18年前にホームページを自分で作って、1分くらいでつけたタイトルがツレヅレハナコ。まさかその名前で仕事をすることになるとは思いもしませんでした。
伊藤 ハナコさんの喋りって、文章のイメージそのまんまですね。
ハナコ 今まで出した自分の本の中でも、これがいちばん普段の自分の生活や口調に近いですね。素の自分そのまんまっていう本になりました。インターネット業界の栄枯盛衰を考えると、この先たぶんインスタはなくなってしまうだろうから、アナログの媒体に残したいと思ったんです。正直、原稿はもうあるから余裕だな、できたも同然って思っていたら、今までで一番大変でした。結局全部リライトしなくちゃいけなくて、文字数に合わせて減らしたり増やしたりしているうちに、書き直したくなるところが出てきたり。ひたすら1000投稿くらい書き直し続けました。結果的にはみっちり入れてよかったなと思っているんですが、この文字の小ささと細かさは老眼にはキツイかも。
伊藤 私、老眼ですけど、このぎっちり感がおもしろい。自分でインスタをやっていないし、人のも見ないんですが、食べもののインスタって楽しいですね。あんまり食べものの写真を撮らないんですけど、撮ろうかなって思いました。
おいしがるのが好き
ハナコ 『おいピータン!!』は、毎回食べものがものすごく印象的に描かれていますよね。私の場合だと、これはネタになりそうだと思ったらガツガツ写真を撮って記録するんですが、どんなふうに食べものを物語にからめていくんですか?
伊藤 普通に暮らしていて、周りのネタを拾い食いして描いているので、食べものありきではなく、ネタの中に食べものをはめていく感じです。最初は自分では食べもののことを書いているとは思っていなくて、担当さんから「食べものが毎回出てくるから、タイトルを変えて仕切り直しませんか?」と言われて初めて気がついたんです。
ハナコ なんと無意識だったとは! でも、ちょっとしたつまみの話とか、これって絶対食いしん坊の組み合わせだなと思って読んでいました。
伊藤 思い込みもあるかも。本当はおいしくないかもしれないけど、おいしがるのが好き。
ハナコ 私は普段の生活をリアルに書くだけですが、伊藤さんの場合、暮らしの中から拾い上げたネタをフィクションに落とし込むって本当にすごい。ギャグもあり、オチまでついて、ちゃんとおもしろい。突然むしょうにカレーが食べたくなる欲こと”カレー心”なんて、もうみなさんご存知ですよね、という前提で私は普通に使っています。ちょっとアレンジして”牛丼心”きちゃったなーとか。そして何よりすごいのは、『おいピータン!!』から続編の『おいおいピータン!!』まで20年以上も続いていること。
伊藤 単に書き散らかし野郎というか、描き捨て、描き逃げ(笑)? 目の前のことしか描けないし、未来が見えないから長編漫画は描けない。いい話なようで、実はいい話風味なだけだし、食べものの漫画を描いているといっても、食いしん坊を極めているわけでも、食べものに詳しいわけでもないんです。
ハナコ 日々の何気ない食べものに喜びを感じる、その在り方がガツガツしていなくて、自然な感じでカッコいいですよね。
伊藤 ハナコさんこそ、すごいおもしろいですよ。スリランカとかインドとかにも行っていて、楽しそう。私なんて旅行にもあまり行かないしですし。
ハナコ 去年はさすがにコロナでどこへも行けなかったですけど、3年間でインド、スリランカ、韓国に行きました。それも全部食べることが目的。国内旅行も何を食べるかというのが最優先事項で、必ず事前においしいお店を調べますし、地元の人に聞いたりして、とにかく一食でも無駄にしたくない。仕事で行った場合でも、余裕があれば一日延泊してでも食べまくります。(後編に続く)
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まいにち酒ごはん日記
2018年春から2021年夏まで、ちょうどコロナで世の中が変化した狭間の3年間の飲んで食べて旅して感じたこと、考えたことを集めたオールカラーの日記本。巻末には読むだけで作れる31レシピ付き。
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