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「努力する習慣」を脳に埋め込む
元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜氏の座右の銘は、「努力できることが才能である」という言葉であることは広く知られています。
転職や独立、起業といった重大な決意を実現するためには、地味な努力を困難に打ち克って続けていくことが不可欠です。抜きん出た才能よりも地道で退屈な努力を続けられる能力のほうが、成功するためには必要な要素なのかもしれません。
脳をダマす仕組みの部分で説明した、やる気に関係する「淡蒼球」と「線条体」のメカニズムですが、神経学的にもう少し詳しく見てみましょう。難しい専門用語も登場しますが、少しだけご容赦ください。
線条体は大脳基底核の重要な成分です。従来は手足の動きなど運動機能に関係しているとされていましたが、近年では判断・意思決定や意欲・モチベーションといった人間の認知にも重要な役割を果たしていることがわかってきました。
「やる気」の源泉とも言える大脳基底核を活性化させるのは、脳ではなくからだの動きということが、わかってきました。いくら頭で「やる気出すぞ」と念じていても、残念ながら効果は低いようです。むしろ、からだを動かすほうが意欲を高めるには合理的なようです。
身体からの刺激が、線条体⇔淡蒼球という「やる気」の神経ループを活性化させるという結論です。エクセルの数値埋めや定例の書類作りなど、不毛とも思えるルーチンワークは、仕事にはつきものです。バカバカしいと思える作業でも、やり始めれば多少は気分が乗ってきます。特に単純作業ならば、なおさらそういう傾向があります。
「努力できるのが才能である」とは、努力する習慣を形成することにほかなりません。線条体に対して、努力を習慣としてインプットすることとも言い換えられるでしょう。
重要なのは、悪い嗜癖を習慣化させないことです。前項目で依存の例として、アルコールやニコチンといった物質、あるいはギャンブルやインターネットなど行動に関するものを挙げました。これらは、悪い習慣とも言い換えられます。
線条体にこれらの悪癖が習慣化されれば、「やる気」ループが逆に災いして、法律や倫理に反する行為への渇望が強くなってしまいます。
ほめ合える仲間をつくろう
しんどくて無味乾燥な努力を「線条体」に習慣化させていくには、どうしたらいいのでしょうか。「やる気の鍵はドーパミンが握る」の項目で少しだけ紹介しましたが、なんといっても他人に評価されることでしょう。俗に「ホメられる」ことです。
金銭的な評価も効きますが、地道な努力にはなかなか大きな経済的対価は払われません。書類をキッチリ作っても、それだけで気前良くボーナスを支給する会社はないでしょう。
「よくやっているじゃないか」
「なかなか頑張っているな」
「素晴らしい仕事ぶりだ」
こういったシンプルなホメ言葉が、快楽を生み出す側坐核を刺激して「つらい」「退屈な」仕事を、「なんとか頑張ってみよう」「続けているといいことあるかも」という認識に変えてきます。
わたしの母校の有名な教授が、在職中に以下のような主旨のことを仰っていたのを覚えています。
「研究なんて興味はまったくなかったが、ボスにうまくホメられてダマされているうちに、こう(教授に)なってしまった」
偉大な師匠は、弟子の脳をダマすのが上手なようです。
このエピソードを現実生活に応用するならば、ルーチンワークでモチベーションを失いかけている、目標を見失っている人は、あなたの地道な仕事を評価してくれる友人を一人でいいので持つことです。
家族でももちろん構いません。自分一人で孤高に努力するのは、できる人もいるでしょうが厳しい道のりです。
友人、家族のひと言が、側坐核を刺激して線条体に働き、努力を続ける力を与えてくれるはずです。習慣に変えていくことが、停滞した現状打破だけでなく、大きな目標の達成への地道で確実な一歩であることに間違いはないでしょう。
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