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時をかける老女

2022.05.28 公開 ポスト

#29

認知症前は信心深かった母に、久しぶりに「聖霊様」が降りてきた。「まとも」になった、のだろうか中川右介

午前中、母を西友に連れて行き、夏服を買う。「あなたに服を買ってもらえるなんて」と喜んでいた。そのあと蕎麦屋で昼食。15時ごろ、「私、お昼食べたかしら」と言ってくる。「服を買いに行って、蕎麦屋にいったでしょう」。何も覚えていない。買った服を見せても思い出さない。変わらぬ日常である。

*   *   * 

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2021年4月23日 金曜日

<介護177日>

午前4時過ぎ、起こされる。「おなかが空いた」と言う。牛乳を飲ませて、また寝る。

7時に起き、朝食の準備。しかしなかなか起きてこないので様子を見に行くと寝ているので起こす。7時半頃、起きてきて、「7時半ね、これからお風呂かしら」と言うので、「これから、朝ごはん」。「あら、朝の7時半なの」

いままで曜日が分からないのはしょっちゅうだったが、朝と夜がわからなくなっている。

当然、午前4時の牛乳も覚えていない。デイサービスは定刻。

試写会に都心まで行く。戻って、午後は執筆。

夕食は17時。「これは夜ご飯よね」と確認する。やはり、時間の間隔がおかしくなっているのか。入浴はすませてあるはずなので、なし。18時に就寝。

4月24日 土曜日

<介護178日>

今朝も6時に起こされ、「おなかが空いた」と昨日と同じ。

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※連載は終了しましたが、著者への感想、コメントはしばらくの期間、こちらのフォームで受け付けています(非公開)。これまでも様々なご感想をお寄せいただき、誠にありがとうございました。

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時をかける老女

91歳の母親と、33年ぶりに一つ屋根の下で暮らすことになった。この日記は、介護殺人予防のために書き始めたものである。

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中川右介

一九六〇年東京都生まれ。編集者・作家。早稲田大学第二文学部卒業。出版社勤務の後、アルファベータを設立し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版(二〇一四年まで)。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガ、政治、経済の分野で、主に人物の評伝を執筆。膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、データと物語を融合させるスタイルで人気を博している。『プロ野球「経営」全史』(日本実業出版社)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『国家と音楽家』(集英社文庫)、『悪の出世学』(幻冬舎新書)など著書多数。

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