『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』(鈴木綾さん著)の発売前にゲラを読んで感想を送ってくださる方を募集しました。感想の文字数を(100字以上)としていましたが、実際、届いたのは、しっかりとした分量の文章ばかり。少しずつご紹介します。今日は、海外在住の41歳の女性からの感想です。
住む国・学ぶ国・働く国を変え続けて
20代後半、日本のすべてが嫌になって、仕事のチャンスを得てヨーロッパに来た。
「日本のすべてが嫌になって」を言い換えると、ある程度の能力があり、アンビシャスな女性であるということに対する社会からの圧力に耐えきれなくなったということだ。
かれこれそんなドロップアウトから10年近くが経ち、日本社会の中での女性に対する圧力は、少しではあるが良い方向に変化しているというニュースを聞く。日本ドロップアウト組(綾さん風に言うと「出国子女」)の一人としては、その変化を喜ぶ一方、その変化を女性自身が当事者として実感しているのかということに疑問を感じざるを得ない。
東京で家庭を持ち、大企業の管理職として働く姉がいる。幸福な結婚生活、高い能力、安定した収入・手厚い福利厚生を持っているにも関わらず、姉はあまり幸せそうに見えない。多幸感を見せないことをある種の美徳とする日本の文化の影響、姉個人の性格自体に起因しているのかもしれないが、会って話しても、どれだけ生活に追われていて、ストレスが溜まっているかという話題ばかりだ(そもそも、会ったり、連絡したりすること自体も最近は稀なのだが…)。
この20年で住む国・学ぶ国・働く国を変え、いろんな価値観を持つ人に会い、結婚し、家庭を持った。綾さんが言うように、女性に対する圧力は今まで経験した国すべてにあったが、日本で経験したほどの絶望的な閉塞感はない。ただ、30代半ばになって、同級生の夫たちがメンタルヘルスを崩している話を聞くと、この閉塞感は女性だけが経験しているものだけではないのだと分かった。
型にはまることは、安心感を与えてくれる。でも、安きに流れる人の性は安心感を得るために、型にはまることだけを考えてしまう。そして、型にはまることだけが目的化してしまうと、とてつもない圧力と閉塞感を与える。
もしも、そんな圧力と閉塞感に苛まれてしんどい思いをしている人がいたら、生活をちょっとスローダウンして、自分ががんじがらめになっている型って何なのだっけと見つめ、一度それを破ってみませんかと言ってあげたい。
自分が行くべき場所を示し、安心感を与え、居場所を作ってくれた型(殻)は、自分自身を縛り付ける楔(くさび)ともなる。綾さんは住む場所・働く場所を変えることで、脱皮を繰り返してきた。1つの型にとらわれない生き方をするだけ、他人からのプレッシャーは無くなるのではないかと思う。
通り一辺倒に自分自身を変えましょうよと言っても、なかなか変えられるものではない。ましてや、海外に飛び出るのには勇気とチャンスがいる。それは20代の私が感じていたもどかしさからも覚えている。ただ、30代後半を迎え、日本を含めいろんな場所で活躍している日本人に出会うと、脱皮する場は国にとらわれず色々なところにあるのだと気づいた。
かくいう私自身も頑張って脱皮を続け、将来どこかで出会えるかもしれない何人もの「綾さん」との出会いを楽しみにしていたい。
ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた
大学卒業後、母国を離れ、日本に6年間働いた。そしてロンドンへ――。鈴木綾さんの初めての本『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』について
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